25.Question3凶器の正体

ここにいる全員がユニークスキルを持っている。

私が既に確認していた事実を、ピスカが告げた。


「いや、私は...」

観光客が言った。


「すみません。少し嘘をつきましたね。


正確には、ユニークスキルに分類されていなくても、獲得条件が極めて特殊な"EXスキル"。

もしくは、他の人が進んで使おうとしないようないわゆる"はずれスキル"を好んで愛用しているような人たち。


そんな"レアスキル使い"たちが集まっている...そうですよね?」

探偵聖女は言った。


「は、はい」


「私、最初に言いましたよね?ビーチに遊びにきているはずなのに、本来ビーチではしないはずのことを自らすすんで行った、変わり者がいる。...って。


ここにいる全員が...とは言いませんが、何人かは、自分のスキルを使った特殊な過ごした方をしていたはずです。」


実際見回してみると、ここにいる全員が普通の観光客としては個性が強めの見た目をしていた。


今までほとんどの人が、黙っていたり、雑にヤジを飛ばしたりしていただけだったから気がつかなかった。

目立つと良くないからと、行動だけでもいわゆる"モブ"にカモフラージュして個性的な自分を隠していたのだろう。


それこそ自身の体を不思議な機械に繋げていたり、動物を連れている人もいた。

私は地球人故に、異世界だからまあそういうものなんだろうと流してしまっていた。


元からこの世界に住んでいる彼ら彼女らの方も、自分自身がレアスキル使いだからこそ同じような他人に対して野暮な詮索を行わなかったのだろう。


「なるほど...だが、それがわかったところで何だというんだ?」


眼鏡の捜査官カキはそう言うと、続けた。


「一度ここまでの状況を整理してみよう。

このトコヒルビーチで先程、一瞬にして大量殺人が行われた。


事件発生前にこのビーチに訪れた者は、事件発生後誰一人このビーチから出てはいない。

犯人は渚の殺戮者と噂される連続殺人鬼...だと思われる。


そして砂浜に染み込んだ血はそこにいるヴィヴァーニオ・ギルテがユニークスキル<病棟の赤いドレス>で回収した。

しかし、ここにいる誰も、洗脳スキルを持っていない...とあなたは証言したな。」


「ムシオデ・カズサ」

私は名乗った。


「ではムシオデ・カズサ、なぜその男はわざわざ血を回収したんだ?」


「欲しかったんだよ...」

ヴィヴァーニオが言った。


「人間の血が、か?」


「ああ、俺はいろんな赤を服に使ってる。

でも、人間の血なんかそれこそ早々手に入らない。動いちまったんだよ身体があ!!」


「きゃああああ怖いいいいい!!!!ひいいいいいい!!!!!」

その叫び声は、入り組んだ機械仕掛けのメガホンから聞こえた。


メカニカルな格好をした女性。彼女が叫び声の音声を流していたのだ。


「きゃああああ怖いいいいぃ!!!きゃああああ怖いいいぃぃ!!きゃああああ怖いぃぃぃ!きゃああああ怖いぃぃぃぃ......」

叫び声の音声は、エコーのように繰り返され、そして消えていった。


今思えばここまでの幾らかの野次馬は、彼女が音声を再生していたのだろうと想像できた。


わずかな沈黙が流れた。


「......ごほん。

死体の血で袴でも染める気か?とんだ変態だな。それで殺したのか」

眼鏡の捜査官はそう言った。


「彼は戦闘用スキルを所持していない。あんなに一瞬で、高速では動けないんじゃないかと思うよ。」

私が言った。


「じゃあ、ありえないくらい高速移動できるスキルを持っている人が、犯人ってこと...?」

観光客の1人が疑問を投げた。


「それはまだわかりませんよ」

探偵聖女が言った。


「ですが可能性としては3つあります。

1つは、今あなたが言ったとおり、高速移動のスキルを持った者が犯行に及んだ可能性。


そして2つ目は、そもそも人を殺した犯人が生身の"人間"ではなく"凶器"であるという線です。」


「や、やっぱり、そそその子が犯人だったのね...!ま、魔物はに、人間じゃない、凶器と言っても過言じゃないもの!」

陰湿そうな女が震えながら言った。


「生身の人間ではない...つまり、高速移動スキルで犯人自身が包丁を持って動くのではなく、サイコキネシス系のスキルを使って遠隔から凶器の包丁を動かしていた...要はそういう意味だな?」


「......そうですね。半分正解、半分不正解です」

聖女はニヤニヤした。


「ニヤニヤするんじゃない!!」

眼鏡は怒った。

しかし納得したように、はっと落ち着く。


「ふんっ、聖女。あなたはここにいる全員のスキルを把握しているんだろう、犯人の検討がついているんだな」


「もちろん」


「わ、わかったわ!あんたが犯人だったのね!サイコ女!」

さっきの女が、踊り子のような独特の装束の女を指差していた。


確かにサイキッカー感のある雰囲気だったので、他のみんなからも注目が集まった。


「ミ、ミィは犯人じゃないヨ〜!」


「それで、3つ目の可能性は何なんですか?」

探偵聖女にそう訊いたのは、レアだった。


「3つ目は、そのどちらもを使用しているという可能性です。」


「どちらもだと?高速移動とサイコキネシスをか?

...いや、それは不可能だな。


高速移動もサイコキネシスも、使用者の精神にかなり強い負担がかかるスキルだ。

同じ人間が同時に使用するのは...


いや......。


、そういうことか?」


「うーん、まあ、かなりいい線行ってますね。」


「歯切れが悪いな、あなたの見立てではそうじゃないと言うのか?」


「魔物よ!魔物なら変なスキルを使ってもおかしくないわ!

だってあいつら頭が悪くて何も考えていないから...だからこそ、スキルで好き放題できるのよ...!


ああ、おそろしい、おそろしいいいいーッ!!!」

ボサボサの髪をかき乱しながら、オカルト愛好家ぜんとした陰湿ガールは叫んだ。


「俺より魔物が嫌いな奴は初めて見た...」

魔物事件専門の捜査官は苦笑し、眼鏡をクイッとなおした。


「犯人の正体は明白、最後はそれを視覚的に明らかにするだけです。

ここで証明できるでしょう?」


そう言うと、探偵聖女ピスカ=アラカルト=トーストレイズンは振り向いた。


「......ムシオデカズサさん、貴女なら。」


「一体どうするの...?」

観光客が訊いた。


「ここにいる全員のステータスを一斉に表示するんです、これを使って。」

小さな"ステータス鑑定水晶玉"を彼女は見せた。


「いいい一斉に!?」

眼鏡のカキ・コンドル・フロウデンはつい情けない声を上げた。


「できるわけがない!光に当てることでステータスを鑑定する仕組みの...しかも業務用の大型ならまだしも、星苺ステラベリーサイズの小型水晶だ、それでどうやって!?


それにこの曇り空じゃ、1人のステータスを写すのに必要な量の光属性魔力でさえも、再充填に10分はかかる!

聖女は既に犯人がわかっていると宣言してしまった!悠長に1人10分も使っていたら、その間に犯人が何をしでかしてくるか-」


「だから晴らすんだよ、曇り空を。」

私は言った。


解説眼鏡は、迷いのない返答に受けた衝撃で、わずかにのけぞった。


私は曇り空に対峙した。


「大丈夫。ここにいる全員、生きておうちに帰れるよ。」


「ムシオデ・カズサ、あなた一体......」

カキが訊いた。


私はその問いに応えるべく、呟いた。

久しぶりに、慣れた口調で、軽やかに、重々しく、丁寧に、気軽に、真面目に、楽しく-


「スキル発動準備」


<チートスキル:オノマトペ具現化発動>

<発動シークエンスを開始します。>

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