23.Question2隠蔽の方法

「は...」

男は一瞬青ざめたが、直後怒りだした。


「...はあ!?そんなのッ!おかしいだろ!

海なんだから、漁ぐらいされてるに決まってんだろうが!!」


私は言った。

「このビーチって、娯楽のためだけに作られてるんだって」


「娯楽?だったら釣りとかダイビングとかも娯楽だろうが!!」


「釣りやダイビングは娯楽のためだけじゃなく、仕事にもできますよね。

釣りは漁、ダイビングは潜水調査にも繋げることができる。


バカンス中に仕事のことが少しでもちらつくことを、娯楽神モカダイスは許さないんです。」


「はあ?どう言う意味だ!?」


探偵聖女が言った。

「このビーチはですね、人間たちがここを観光リゾートとして楽しむためだけに、娯楽として楽しむためだけに、娯楽神モカダイスがですね、産み出した、いわば聖地みたいなものなんですよ。


だから-」


癖が強くて周りくどい口調なのに、なぜかそれを感じさせない直線的な言い方だった。


「娯楽神モカダイスの加護で、大陸中でこのビーチだけは"波の満ち引きが起こらない"んですよ。」


「は......?」


「波の満ち引きが起こらない...つまり、波打ち際から結構離れた砂浜に染み込んでいた血が、自然に波にさらわれて消えたりはしないんだよ」

私は言った。


「有名な話なんですけどね。

もし仮に下調べをせずにこのビーチにやってきたとしても、案内の看板やパンフレットでたくさん宣伝されていますから、焦らずゆったり過ごしていれば、少しの時間でも気がつくはずなんですけれどね。」


ピスカは大量のパンフレットを取り出した。


「これ全部、さっきの海の家に置いてあったものです!」


どのパンフレットにもこの<トコヒルビーチ>の売りである、"波の満ち引きが起こらず、サメに食べられずクラゲに刺されず、ずっと常夏のように暑い太陽が照りつけているから朝から晩までずっと遊べる"という特長が書かれていた。


「あなたはどうやら、あまりこのビーチで遊べなかったみたいですね。その上ついさっき海の家に行った時だって、気持ちがあまりにも焦るあまり、このパンフレットにも全く気がつかなかった。」


「そんなのた、たまたまだ!

たまたま運悪くパンフレットが目に飛び込んでこなかったんだから、し、仕方ねえだろ!?」


「まあ、そうですよね。

あんな事件が起きたんですから、呑気にパンフレットを眺めていられる方が怪しいですし...」


彼女はパンフレットをしまった。


「では、次の問題です。

波が満ち引きしないから砂浜から血が自然に消えることはない。


それなのに砂浜に真っ赤な血はどこにもなくって、かといって乾燥して黒く変色してしまったわけでもない。

では、被害者たちの血は一体、どこにいってしまったのでしょうか?」


「そ、そんなの...俺が知るかよ!」


「いえ、あなたは知っていますよ。」

彼女がそう言いかけたところで、男は


「うるせええええ!!知らねええええええ!!!」

と大声でかき消しながら、手を振り上げた。


「それ以上取り乱すのはやめておけ、罪が重くなるぞ」

眼鏡は、暴れようとする男の腕を止めた。


「あ、あんたが犯人だったのね!!」

「ひどい!!」

「なんて悪い奴なんだ!」


がやがやと民衆は男を責め始めた。


「ち、ちがっ、俺はやってない!!俺じゃないんだ!!!」


「"血が"!?殺した後血を隠したのね!?この人殺し!!」


「だからちげーんだって!!!クソ、なんでこんな目に遭わなきゃいけねえんだ!!」


男は民衆に責められている。


「そ、その人は嘘はついてないと思います!」

観光客の1人が言った。


「何よあんた!」


「なんでそんなこと言えるんだよ?」


「そ、それは...」

弱気な観光客は、周りに詰められて涙目になった。


「確かに、彼が犯人であると決まったわけじゃないよね」

私は言った。


「え...?」


「どういうことだよ!さっきからそいつが真犯人ってことで責めてたんじゃないのか!」

わーわーと騒ぎ出す野次馬たち。


「ただ、彼は砂浜の血を隠した...判明しているのはそれだけ。そうですよね?」

探偵聖女は言った。


「だからそれも...ちげえんだって-」

投げやりに叫ぶ男。


「違いません。」


「ち...ちげえって...」

男は弱気な声色になる。


そんな狼狽する男に、探偵聖女は言った。

「大丈夫、信じてください、私を」


「はっ?」

その言葉に、男は困惑した。

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