20.わたしが救う1人の少女(ヒロイン)
「彼女を警察へ送り届けるのに、皆さんもついてきてください。
もし私が彼女に騙されていて、道中で目覚めた彼女に真っ先に殺されたとしたら......その時は私を、皆さんで嘲笑えば良いのです。
幸い聖女様の<聖なるベール>がありますから、もし暴れ出したとしても周囲に被害は及ばないでしょう。」
沈黙。
「......そこまで言うなら、仕方ないだろう。」
眼鏡の男は言った。
「ええっ!?」
民衆の中の男が言った。
眼鏡の男は言った。
「異論がある者はいるか?まさかこんな年端も行かぬお嬢さんにここまで言われて、断る者などいないだろうな?」
「............え、あ、ああまで言われちゃあ、ね、ねえ......?」
そう言って民衆たちはまた顔を見合わせ出した。
観光客たちはみんな納得した様子だった。
「信じてくれてありがとうございます。...ええと、あなたのお名前をお聞きしても?」
レアはエクリをお姫様抱っこしたまま、眼鏡の男に訊いた。
「信じたんじゃない。あなたの冷静な判断に説得されただけだ。
カキ・コンドル・フロウデン。
ヒトァイダ合衆国連邦捜査局で、魔物事件の捜査官をやっている者だ。」
「レア・オシロです。冒険者、といってもまだ駆け出しですが!」
すると眼鏡の捜査官カキ・
「探偵さん、あなたもこれでいいですよね?」
「...えっ、あっ、ハイハイハイっ!」
探偵聖女は適当に答えた。
それもそのはず。だって———まだ事件の真相は、少したりとも解明されていないんだから。
「なんだ...?何か引っかかることがあるんですか?」
敬語でも、高慢な声色はかき消せない眼鏡の捜査官が訊いた。
レアを見ると...彼女は密かに唇を噛んでいた。
エクリを殺させないようにはできたけど...
彼女にとって、それこそ私以外ではたった一人の友人である彼女を、推定連続殺人犯である凶悪な魔物として、引きずり連れていかなければならなかった。
レアは元々は、ただ海で友達と遊びたかった。それだけだった。
「あるよ、引っかかることなら」
私が言った。
「...それは何だ?」
側からみれば野次を飛ばしていただけの観光客のうちの一人だったはずの私に驚いて、捜査官は訊いた。
「おいなんだよ、どうでもいいだろ、早く行こうぜぇ...!」
最初からよくうるさくしていた赤アロハの男が言った。
「まだ彼女が...エクリ・ミナルプスが犯人だと決まったわけじゃないよ。」
一同が振り返った。
「なんだと!?」
「ついてきて、そうすればわかる...はずだよ。」
私は砂浜のほうに歩いて行った。
殺されそうなエクリをレアが助けたとき。私は、私がエクリの元へ駆ける意味を失った。
それは文字通り、骨折り損のくたびれもうけになっちまったぞてめー!なんて意味じゃなくて...レアがエクリを助けるのを見たことでなんか...私の心も助けられたってこと。
漫画家ムシオデカズサが漫画を書いたことは罪であり、その結果殺人集団を生み出し自分自身を殺すこととなったことこそが罰である......転生してから、本当はずっと、そんなふうに思っていた。
表面では、気にしていないと思っていたけれど......本当は漫画を描くことを怖がっていた。
だから...きっと私の恐怖が王様にバレて、追放されたのだろう。
もし私が怖がらずに楽しんで漫画を書いていたら、王様をファンにできていたはずだ。
漫画という表現を知らなかろうが、遠く離れた異世界だろうが、私には読者を虜にすることができていたはずだ。
でも、しなかった。できるくせに、しなかったんだ。
......でも、それももう終わりだ。
心ない人間のために、怖がってあげる。
他人が勝手に犯してきやがった罪を、器の広さをアピールしてかぶってあげる。
我慢して、私が代わりに罰を受けてあげる。
そんな生やさしい時間は、もう終わりだ。
私はまた、漫画を書くよ。
ドン、と太鼓の音が鳴ったかのように、私は足を踏み締め立ち止まった。
「カズサさん...!?」
レアに、私は思いきり頷いた。
漫画家の仕事は"画を描く"ことだけじゃない。"ストーリーを紡ぐ"ことも、漫画家の仕事だ。
新たなストーリーを1から作るのではなく、既に決まり切った真実を、読みやすいストーリーに組み立てるわけだから、私が今までやってきたこととはちょっと違うかもしれないけれど......
それでも私は紡ぐ。
殺されそうな友の身を一度助け、得体の知れない怪物に怯える民衆の心をも納得させ、トラウマを抱えるこの漫画家を救った。
そんなこの場にいるほぼ全ての人を救った彼女が、唯一救えていない人間。
彼女が自分自身以外の全てを救うなら、私はその1人を救うストーリーを紡ぐ。
ただ友達と海で遊びたかっただけの、1人の少女を救うための.........
レア・オシロというヒロインに...この世界のヒロインに...この物語のヒロインに...私の大好きなヒロインに、これ以上悲しい顔をさせないための......
譲歩した、妥協した、投げっぱなしで中途半端な、自称大人のストーリーなんかじゃない。
この事件の全ての真実を解き明かし、曇りなき清々しい晴天の下に掲げる-
-正真正銘の"解答編"を!
砂浜までたどり着いた私は振り返る。
真上は、曇り空だ。
「それで、誰が犯人だって言うんだ?聞かせてもらおうか。」
観光客たちの視線はみんなこちらに向いていた。
早く帰りたいのにまだやるのかと気怠そうに嫌悪する視線、何が始まるのか気になっている好奇心の視線、本当は私が犯人なんじゃないかと疑う視線、もしそうなら傑作だなどと逆に面白がる視線。
とにかく数多の視線が、ごちゃごちゃと混ざり合っていた。
「意気揚々と歩いてるけど...わ、私もいるんですけど...!」
探偵聖女ピスカは困り顔で、その場で両手を振った。
「あなた、目立ちだがり?」
「めッ!?」
ピスカは図星を突かれて慌てた。
私はくすっと笑った。
けどすぐに真顔になった。
「力を貸して...いや。あなたの推理に、私の力を添えさせて。」
力を添える...この言い方は誤用じゃないよ。だって私はすごくて偉いから。
するとピスカは驚いた顔をして、そしてにやっと笑った。
「彼女を警察へ送り届けるのに、皆さんもついてきてください。
もし私が彼女に騙されていて、道中で目覚めた彼女に真っ先に殺されたとしたら......その時は私を、皆さんで嘲笑えば良いのです。
幸い聖女様の<聖なるベール>がありますから、もし暴れ出したとしても周囲に被害は及ばないでしょう。」
沈黙。
「......確かに、それはそうだ。そこまで言われてはもう、仕方がないとしか言いようがない。」
眼鏡の男は言った。
「ええっ!?」
民衆の中の男が言った。
眼鏡の男は言った。
「異論がある者はいるか?まさかこんな年端も行かぬお嬢さんにここまで理を詰めて言われて、断る者などいないだろうな?」
「............え、あ、ああまで言われちゃあ、ね、ねえ......?」
そう言って民衆たちはまた顔を見合わせ出した。
観光客たちはみんな納得した様子だった。
「半人前どもめ。一般人というのはいつもこうだ。安全な場所から一方的な強く当たっておいて、だからこそ、いざ自分が言われると簡単に流される。俺のことだ。」
眼鏡はぼやいた。
「信じてくれてありがとうございます。...ええと、あなたのお名前をお聞きしても?」
レアはエクリをお姫様抱っこしたまま、眼鏡の男に訊いた。
「信じたんじゃない。あなたの冷静な判断に説得されただけだ。
カキ・コンドル・フロウデン。
ヒトァイダ合衆国連邦捜査局で、魔物事件の捜査官をやっている。 」
「レア・オシロです。冒険者、といってもまだ駆け出しですが!」
「駆け出しにしては強かすぎる」
カキ・
「ここまでの言動を見ての通り、俺はあなたと違って私情を中途半端に小出しするしかできない半人前のケツの青いガキでしかないが、職業柄警察にツテはある。あなたに免じて、名乗った肩書き分は役に立とう。」
隣国からやってきた合衆国連邦捜査官は、振り返って言った。
「探偵さん、あなたもこれでいいですよね?」
「...えっ、あっ、ハイハイハイっ!」
探偵聖女は適当に答えた。
「おい、本当に話を聞いているのか?」
それもそのはず。
だって———まだ事件の真相は、少したりとも解明されていないんだから。
「なんだ...?何か引っかかることがあるんですか?」
敬語で伺いを立てても、高慢な声色はかき消せない眼鏡の捜査官が訊いた。
レアを見ると...彼女は密かに唇を噛んでいた。
エクリを殺させないようにはできたけど...
彼女にとって、それこそ私以外ではたった一人の友人である彼女を、推定連続殺人犯である凶悪な魔物として、引きずり連れていかなければならなかった。
それは未だ変えられていなかった。
レアは元々は、ただ海で友達と遊びたかった。それだけだった。
「あるよ、引っかかることなら」
私が言った。
「...それは何だ?」
側からみれば野次を飛ばしていただけの観光客のうちの一人だったはずの私に驚いて、捜査官は訊いた。
「おいなんだよ、んなもんどうでもいいだろ、早く行こうぜぇ...!」
最初からよくうるさくしていた赤アロハの男が言った。
「まだ彼女が...エクリ・ミナルプスが犯人だと決まったわけじゃないよ。」
一同が振り返った。
「なんだと!?」
「ついてきて、そうすればわかる...はずだよ。」
私は砂浜のほうに歩いて行った。
殺されそうなエクリをレアが助けたとき。私は、私がエクリの元へ駆ける意味を失った。
それは文字通り、骨折り損のくたびれもうけになっちまったぞてめー!なんて意味じゃなくて...レアがエクリを助けるのを見たことでなんか...私の心も助けられたってこと。
漫画家ムシオデカズサが漫画を書いたことは罪であり、その結果殺人集団を生み出し自分自身を殺すこととなったことこそが罰である......転生してから、本当はずっと、そんなふうに思っていた。
表面では、気にしていないと思っていたけれど......本当は漫画を描くことを怖がっていた。
だから...きっと私の恐怖が王様にバレて、追放されたのだろう。
もし私が怖がらずに楽しんで漫画を書いていたら、王様をファンにできていたはずだ。
漫画という表現を知らなかろうが、遠く離れた異世界だろうが、私には読者を虜にすることができていたはずだ。
でも、しなかった。できるくせに、しなかったんだ。
......でも、それももうここまでで終わりだ。
心ない人間のために、怖がってあげる。
他人が勝手に犯してきやがった罪を、器の広さをアピールしてかぶってあげる。
我慢して、私が代わりに罰を受けてあげる。
そんな生やさしい時間は、もう終わりだ。
私はまた、漫画を書くよ。
ドン、と太鼓の音が鳴ったかのように、私は足を踏み締め立ち止まった。
「カズサさん...!?」
レアに、私は思いきり頷いた。
漫画家の仕事は"画を描く"ことだけじゃない。"ストーリーを紡ぐ"ことも、漫画家の仕事だ。
新たなストーリーを1から作るのではなく、既に決まり切った真実を、読みやすいストーリーに組み立てるわけだから、私が今までやってきたこととはちょっと違うかもしれないけれど......
それでも私は紡ぐ。
殺されそうな友の身を一度助け、得体の知れない怪物に怯える民衆の心をも納得させ、トラウマを抱えるこの漫画家を救った。
そんなこの場にいるほぼ全ての人を救った彼女が、唯一救えていない人間。
彼女が自分自身以外の全てを救うなら、私はその1人を救うストーリーを紡ぐ。
ただ友達と海で遊びたかっただけの、1人の少女を救うための.........
レア・オシロというヒロインに...この世界のヒロインに...この物語のヒロインに...私の大好きなヒロインに、これ以上悲しい顔をさせないための......
譲歩した、妥協した、投げっぱなしで中途半端な、自称大人のストーリーなんかじゃない。
この事件の全ての真実を解き明かし、曇りなき清々しい晴天の下に掲げる-
-正真正銘の"解答編"を!
砂浜までたどり着いた私は顔を上げた。
レアに、とびきり不敵な笑顔を見せた。
そして更に見上げた。
真上は、曇り空だ。
「それで、誰が犯人だって言うんだ?聞かせてもらおうか。」
観光客たちの視線はみんなこちらに向いていた。
早く帰りたいのにまだやるのかと気怠そうに嫌悪する視線、何が始まるのか気になっている好奇心の視線、本当は私が犯人なんじゃないかと疑う視線、もしそうなら傑作だなどと逆に面白がる視線。
とにかく数多の視線が、ごちゃごちゃと混ざり合っていた。
「意気揚々と歩いてましたけど...わ、私もいるんですけど...!」
探偵聖女ピスカは困り顔で、その場で両手を振った。
「あなた、目立ちだがり?」
「めッ!?」
ピスカは図星を突かれて慌てた。
私はくすっと笑った。
けどすぐに真顔になった。
「力を貸して...いや。あなたの推理に、私の力を添えさせて。」
力を添える...この言い方は誤用じゃないよ。だって私はすごくて偉いから。
するとピスカは驚いた顔をして、そしてにやっと笑った。
「よく、わかってるじゃないですか。......この推理を
そう言ってピスカは空を見上げた。
人が地上から手を伸ばすだけでは動かすことのできない、雲という恐ろしい存在。
でも人間が持っているのは......私たちが持っているのは、決してちっぽけな手のひらだけじゃなかった。
— — —
おまけ
スキル取得ルート
(S)地獄の門番スキル
パッシブ:攻撃力上昇・獄、感情受信、正直者、優れた聴覚、優れた嗅覚
(B)暗殺者スキル
パッシブ:攻撃力上昇、命中得意、夜目、優れた聴覚、優れた嗅覚
アクティブ:隠密、俊敏、魔物解体術、危険察知
(A)狩人スキル
パッシブ:攻撃力上昇、命中得意、夜目、優れた聴覚、優れた嗅覚
アクティブ:隠密、俊敏、魔物解体術、危険察知
(D)曲芸師スキル
アクティブ:曲芸
ユニークスキル
アクティブ:【Unique】叩扉の回帰I
☆解説(システム的仕様)
・攻撃力上昇・獄は、攻撃対象のカルマポイントが高いほど攻撃力が上昇するスキルです。
・ジョブ<暗殺者>で、魔物のみを100体連続で殺害すると習得できる派生ジョブが<狩人>です。
たとえ狩人習得後でも、人間を一度でも殺害すると、再度魔物を100体狩るまで狩人スキルは封印されます。
・暗殺者と狩人の習得スキルはほぼ同じですが、スキルの重複取得で上がる効果量が他のジョブと比べてとてつもなく大きくなっています。
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