18.ぞろぞろ迫る化け物の始末、ぐるぐる蘇る私の死

白毛の狂犬となった彼女は、とてつもないスピードだった。

その稲妻の如き速さは、彼女がさっきの渚の殺戮者なのだとアピールしているようだった。


「そんなっ...!エクリちゃん、どうして...っ!?」

レアはそう言いながら、怒った獣のようにがるがるぐるぐると唸る彼女...エクリを取り押さえるために、一歩踏み出しそうになったところでピスカが止めた。


「大丈夫ですから、手を出さないでください!」

汗ばみ少し笑いながら、ギャンブラー探偵聖女は言った。


実際、狂犬は包丁にしか目が向いていなかった。


そのままピスカは砂浜へ飛び出し、渚の殺戮者(仮)はそれを追いかけ、他のみんなも砂浜に出た。


白髪の少女エクリは聖女に猛突進。

しかしバリアのようなものが働いてガンっと跳ね返されていた。


「がるるるるる!!」

白髪の少女は唸っていた。


聖女はつい、ニヤリと歯を見せる。楽しそうに「ほれえええ〜!ほれほれほれほれれ〜!ほれほれほれほれほれほれれ〜!!!」と包丁をぐるぐる回転させた。


それに釣られて、狂犬は目線で追う。


「ほれほれほれほれ、ほーれー!!!」

「がる...ぐる...ぐるぐる......る...?」


次第にぐるぐると目を回し、混乱し、砂浜にズドっと倒れた。


するとなぜだか、聖女も同じように目を回してずどっと倒れた。

しかしすぐに起き上がり汗を拭いた。


「......ふ、ふう、なんとかうまくいきました...。」


「さっきのはなんだ?」

ざわざわと観光客たちはざわめく。


「聖女スキル<聖なるベール>です。魔なる血に生を受けた者を寄せ付けない性質を持っています。」


「魔なる....?...!ってことはこいつ...!?」

観光客が横たわる白髪の少女を見て、言った。


「ここで彼女のステータスを見てみましょうか」

薄暗い曇天の中、聖女は小さな水晶玉を取り出す。


そしてわずかな光を受けて、エクリのステータスを砂浜に投影した。


———


名前:エクリ・ミナルプス

種族:半人半魔(人間×ケルベロス) / 失首警犬デミ・ケルベロス

年齢:14

職業:暗殺者

カルマポイント:0


適正職業:

邪教徒(D):未経験

戦士(D):未経験

曲芸師(D):Lv2

暗殺者(B):LvMAX

狩人(A):Lv66

地獄の門番(S):Lv42


保有スキル:

パッシブ:攻撃力上昇XX、命中得意VII、夜目VIII、優れた聴覚XI、優れた嗅覚XI、攻撃力上昇・獄X、感情受信V、正直者XXX

アクティブ:隠密XIII、俊敏XIV、魔物解体術XII、危険察知X、曲芸I、【Unique】叩扉の回帰I


———


それを見て数秒後......


「きゃあああああああああ!!!」

悲鳴が上がる。


「ほう、ユニークスキル持ちか...」

眼鏡の男はクイっとして言った。


<【Unique】叩扉の回帰I>

彼女を狂犬化させたのは、このだろうか。


「それより、半人半魔だって...!?」


白髪の少女は、魔物と人間の合いの子だった。

ツノや耳や尻尾が生えているわけでもないので、見ただけではわからなかった。


いや、帽子やフードで付きケープで隠していただけだ。


「ついに正体がわかったな、化物め!」

「信じてたのに!善良な顔をして私たちを騙してたなんて......最低よ!」


「でっ、でも、カルマポイント0って書いてあるけど...?」

観光客の1人が言った。


「確かに......じゃ、じゃあその子は犯人じゃないってこと...?」


「いいや、さっきそこの黒髪の女が言っていた事を忘れたのか?」

眼鏡の男が私のことを言った。


「罪悪感でもカルマポイントは上がる...と。」


「そ、そうよ!渚の殺戮者なら、人殺しに罪悪感を感じないサイコパスでもおかしくないわ!」


「おい、早く警察に突き出そうぜ!」


「........」

レアはなんとも言えない表情をしていた。


白髪の彼女の...エクリという名前をいつの間にか知っていたレア。

名前を教える程度には、いつの間にか仲良くなっていたということだろう。


長い間お城の部屋の中に閉じ込められていたレアにとって、きっとエクリは貴重な友達だった。

そんなこと、深く考えなくたってわかることだった。


「警察に突き出す...?冷静になってみろ」

男は眼鏡をクイッとさせて言った。


「このような危険生物、警察ではとても手には負えないだろう。ここは我々が責任を持って始末すべきだ。

それがきっと、この場所に俺たちがやってきた理由に違いない。」


それを聞いた観光客たちは、眠る少女を取り囲みにぞろぞろと歩いてくる。

その様子を見た私の脳裏に突如、"あの時"のことがぐるぐると駆け巡った。


それは転生の直前-私がこの世界にやってくる前の、最後の記憶。


......その時つい私の頭に再上映されたのは、私が殺された時の記憶だった。

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