17.凶器に刺し込むピリピリ視線、がるがる飛びかかるキミの狂気

「ならその娘が犯人で決まりよ!海に包丁を持って遊びに来るのなんて、殺人鬼くらいよ!」

「やっぱりそいつが殺人鬼で決定だな」

「ずっとぷるぷる震えてるし、最初から怪しいと思ってたんだ!」


観光客たちは口々に言う。


それを横目にピスカは、メモ帳から1枚ページを剥ぎ取って

「ここにいる人たち全員のステータスを鑑定して、ここに書き留めてもらえますか?」

こそっと私に耳打ちした。


さっきみたステータスによれば、ピスカも観察眼を持っているはず。

それなのにわざわざ私に頼むということは...さっきのピスカみたく、高レベルのステータス秘匿をしている人が他にもいるということだろう。


私は黙って頷き、それを受け取った。


その間も、最有力容疑者である白髪の少女を責める声は飛び交っていた。


我慢しきれず、レアが叫んだ。

「ちょっと待ってください!包丁がバッグに入っていたからとって、彼女が犯人であるとは限りません!!」


すると今度は、レアを責める怒号が飛んできた。


「包丁がバッグに入ってるのに犯人じゃないわけないじゃない!意味のわからないことを言わないで!」

「庇うなんて、怪しいな。まさかあんたもグルなんじゃ!」


するとピスカは、私がレアへの言いがかりに怒って飛び出すと思ったのか、そっと優しく私の肩に触れた。

直後、探偵聖女は言った。


「確かに、バッグに包丁が入ったこと自体、彼女がやったことだとは限りませんね。

彼女に罪をなすりつけたい誰かが包丁をバッグに入れた、そういう可能性もある。」


数秒、その場がしんとする。

探偵聖女はコツコツと靴を鳴らし歩き始めた。


「か、可能性って、そんなのその娘以外に誰がやったって言うのよ!?」


荒げた声に、探偵は答えた。

「あの渚の殺戮者が、あろうことか凶器をうっかり落っことすなんていうヘマをやらかすでしょうか?」


「渚の殺戮者っていうのは今世紀最低最悪のサイコパスだぞ!

そんなの、楽しむためにわざとやったんだろ!」

「それです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


突然の大声に、その場は一瞬静かになる。


「......こほん。オデソン君よ、メモはできたかね。」

私にちらりと目をやる。


「オデソン君...?」


「い、いいから、渡してくださいっ!」


私はピスカにメモを渡した。


ピスカはそのメモを口元に配置し、目線をちらちらと下げたり上げたりしながら話した。

「わざと。そう、全部誰かがわざとやったことなのではないかと、私も思うのです。」


そしてメモを持っているのとは反対の手で、凶器の入った透明な袋を掲げた。


するとその包丁に、みんなの目線が集まった。


「さっき歩いていた時からですが、包丁と皆さんの間に、ピリピリと異様な視線を感じています。

この包丁...どうやら皆さん、気にかかって仕方がないみたいですね?」


「そんな危ないものを持ってたら、普通はみんな警戒するんじゃない?」

私は言った。


「そうだそうだ!」と声が上がる。


「確かに、警戒くらいはするかもしれません。

ですがもしこの中に殺人鬼がいたとしたら...その人はきっと、私の手からすぐにこの包丁を奪いたいと思うでしょう。


なんせこれをギルドに提出して正式に調べでもされれば、簡単に捕まってしまいますから-」


言い切らないうち。その瞬間だった。


何者かが物凄い勢いでピスカの持つ包丁に向かって飛びかかった。


ピスカはそれを予期していたかのようにしゃがんで避けた。


そして-


「っ!?なんで...!?——」

レアは驚いて言った。


飛びかかったそれは荒々しい狂犬のように豹変した、白髪の少女だった。


「エクリちゃん...!?」

レアによれば彼女の名前は、エクリというらしかった。

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