3.探偵聖女と渚の殺戮者 出題編

11.海水がバッシャーン!

大柄で丸い体型の男は、サーカス団員を集めて話していた。


「ダメだ、足りない...リアリティが!

所詮サーカステントの中だけのショーじゃ、観客たちは『こんなのリアルじゃないー』『子供が見るヒーローショーだろ?』と目をましてしまう!


だから私は思いついた!

テントの外でも、我々のエンターテイメントを提供しようじゃないかと!!!


最高にリアルで、究極に刺激的で、極限まで熱狂できるエンターテイメントを実演しよう!!」


サーカス団長ホルダーは、常人が聴いたら怖気おぞけが走るであろう気持ち悪い声色で言った。


「第一弾は君に任せた。頼んだよ」


そこには、漆黒のフードを被った少女が冷たく立っていた。


男は、その体躯に似合わないとても長細い指先を滑らせ、ピアノを弾くように少女のフードをピコピコと撫でた。

それに合わせて他の団員がピコピコと実際にピアノを鳴らしていた。


ーーー


太陽が照りつける常夏のビーチ。


「ふふふっ」


私とレアは、気分転換にやってきていた。


「この<常昼の砂浜トコヒルビーチ>!


なんでも娯楽の神様の加護があるらしく、危険な魔物は出ず、海水の色も涼しく透き通っている。


その上普通の海ならあるはずの、時間経過による"波の満ち引き"がないため、ずっと遊んでいられるらしい。


神様の加護というのが本当かはともかく、目の前の海の綺麗さは、間違いなく本物だった。」


「......誰に言ってるんですか?」


そう言うレアは少し微笑んでいたが、真顔に戻った。


「いいんでしょうか?私たちこんなところに来て...」

まだちょっと、勇者パーティのことを引きずっているレア。


「......」


「海だああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

私はレアを元気付けるために、全力で走り出した。


そして波に足を取られて盛大に転んだ。


バッシャーン!と海水が跳ねた。


「カズサさん!大丈夫ですか!?」


「......バビボボブバビボボブ(大丈夫大丈夫)」


私は顔面を海水に突っ伏したまま、レアに親指を立てて見せる。


「もう、あなたという人は...」

なんて言っているレアに、起き上がった私はすぐさま近づいて


「......わあっ!?」

引っ張って、海に招き入れた。


またバッシャーン!と海水がしぶいた。


「ふっふっふーっ!」


「やりましたね...このっ!」


バシャバシャと海水を掛けあった。

かなりしょっぱい。


だけど次第にエスカレートしていって...


<システムオールクリア。チートスキル:オノマトペ具現化発動可能です。>


「ばっしゃあああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


私の声からレア目掛けて、オノマトペでできた大波が押し寄せる。


「ええーっ!?」


「はっはっはーー!!!どうだ!!!!!!」


「ならこっちだって...!」

レアはなんと大波を両腕で掴み取り、ひねり、固め、そしてこちらにジェット噴射の如く水を跳ね返してきた!!


ボウッ!!という轟音。


「なッ!?」

視界が一瞬にして水に奪われる。

私はその洒落にならない大波を、体中にもろにくらったのだ。


「......」

ずぶ濡れの私を前に、


「ふっ、私の勝ちでーすっ!!」

レアがそう声高らかに宣言した


その時だった。


バシャバシャと水が連続でしぶく音が聞こえた。

私もレアも、つい音の方を見た。


「おい、見ろ!あんなところに女の子が溺れているぞ!」

「きゃあーっ!」

他の観光客たちの声が、わざとらしいほどに状況を説明していた。


そこでは確かに、人が溺れかけてあたふたしていた。

私はビュンッ!という風のオノマトペで加速し、レアはバタフライで泳いでたどり着いた。


その子を助けると、すぐさま砂浜へと連れて行った。


「けほっ、げほげほっ」

「大丈夫、落ち着いてね」

レアは水を吐く少女の背中を摩った。


頭はエレガントな黒いキャプリーヌから白髪を垂らし、痩せ型ですらりとした体躯にセクシーな黒いパレオを纏う。

この美少女......まるで異世界で生まれた世界線の私じゃないか!


けれどそんなエレガントでセクシーな風貌の割には、なんとなく幼さを感じた。なんとなく。根拠はない。

胸がないからかな...?なんて失礼なことまで考えつくほどの暇は、ギリギリなかった。


それこそ...私は砂浜を包む異様な雰囲気を見ながら、白髪黒パレオの少女にこの光景を見せるべきか悩んだ。


彼女は四つん這いになって海水を吐いている。

顔を上げたときに、さらなるショックで海水以外のものも吐いてしまうかもしれない。


「カズサさん...これ...」


「......うん」


目線の先...砂浜は真っ赤に染まっていた。

真っ赤と言ってもペンキやトマトケチャップではない。


今も横たわる大量の人体たちから流れ出続けている、本物の血だった。それが現実だった。

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