10.極大とクソクソ
ひどい表情で勇者は立ち上がり、ずんずんとムカデの方へ歩いていった。
ムカデの前に立つと、ムカデの頭を剣でグサグサと刺した。
「くそっ!くそっ!!くそっ!!!!!くそっ!!!!!!!!くそ!クソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!!!!!!!!!!」
何度も突き刺し、そして何度も乱暴に踏みつけた。
「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そこへ死霊術師のジミーが杖を打ちつけながら近づいていく。
「モ、モウヤメ...」
その時だった。
ドクン、とムカデが脈を打った。
「!?」
私は驚いたが、危険を察知して即座に「ジュワ!」と水球を飛ばす。だけど心臓はつるりとそれを避けた。
脈を打った原因のムカデの心臓...
さっきまで止まっていたはずの、血液が駄々漏れになって機能停止していたはずの、心臓は突如嫌味に光り輝いて動き出した。
とてつもない速さで、自身の頭の方へと向かっていった。
勇者に向かって心臓は走っていき、しかしそれと同時に心臓以外に..."綿"も勇者に向かってきていた。
非力な死霊術師は、力強い綿の残骸たちと協力して、勇者を思いっきり突き飛ばした。
「ドカああああああああああああああああああああああんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
頭の悪い、ふざけた、幼稚な、悪趣味な、極大級の閃光を伴う極大級の爆発音。
そして洞窟の明るさは元の暗さに戻って...
ムカデの外殻の残骸が少し散らばっていた。
そして爆発の発生源に残っていたのは、杖。
破壊不可能なユニークウェポン<
私はオノマトペで鋼鉄の「カチコチ」シェルターを即時的に作り出し、自分とレアの身を爆発から守った。
仲間たちに突き飛ばされて下の段の大きな穴に落ちていた勇者は、這い上がってきた。
そして、勇者は泣きながら言った。
「君たちは…何でこんなことを…!」
「は...?」
「チートスキルなんて役に立たないじゃないか!
お前らのせいだ!お前らが助けてくれなかったから…!
パインも、ザクロサも、ジミーも、みんな死んだんだ...!」
私は言った。
「...3人とも、あなたを守って死んだんだよ」
「適当なことを言うな!転生者なんかの言葉なんて信用できるか!!
だいたい何がチートスキルだ!
そんな努力もしないで手に入れた力に何の意味があるんだ!」
勇者がそう吐き捨てた途端、レアは装備していた籠手を脱いで、勇者の顔面を殴った。
もちろんモンスターに攻撃するのとは訳が違うけど、たしかに、グーで殴った。
「殴ったな!このクズどもがあ!!」
勇者はそう言いかけるけど、それはレアに遮られた。
「努力してない...?本気で言ってるならあなた、相当頭が悪いんですね」
「は...?」
「あなたが知らないからって、その人がそれまで生きてきた人生をなかったものとして扱うんですか?
世界でただ1人、僕だけが努力してるんだ!
あいつが努力してるところを僕は見たことがないから、あいつは努力したことがないってことにできるんだ!!
…現実をねじ曲げるなんて、すごいチート能力ですね。」
「なんだと…
わかってないのはそっちだろ!そっちが、チートでイキってるだけのくせに!偉そうに!
僕のことなんて、何も知らない癖に!」
「そう、知りませんよ。
でも、3人はあなたのことをよく知ってた。だから命をかけて守ることができた...そう思いませんか?」
「っ...!!!!」
「...でも、それも、あなたが操ってたんですよね。3人の体は、あなたがあなたのユニークスキル<蜘蛛の糸>で操っていた。
大事にしていたお人形さんがいなくなってしまったら、失ってしまってもう二度と戻ってこなかったら。
...私があなただったら、きっと同じように悲しみます。
大切なものを失って涙を流すのは、私だって同じです。
だけどその涙も、今さっき私たちをなじったのも...全部演技なんですか?
自分で操って、自分で自分を守らせて、そして自分で犠牲にして...それを私たちに責任転嫁してるんですか?
私、そんなのって—」
「...知らない!知らない!知らない!知らない!知らない!知らない!そんなの知らないんだ!!!!!!
よく知らないくせに決めつけて、適当なこと言いやがって、悪人どもめ!!
お前らみたいな役立たず、パーティから追放だ!
二度と顔を見せるなァ!この外道どもめえ!!!」
勇者はもう、うまく話ができる様子ではなかった。
勇者は地団駄を踏むあまり、ジャンプしながら言った。だけど前みたいにはうまくいかずすぐに転んで、泣き喚いた。
いや、前だってずっとうまくいっていなかったのかもしれない。
無条件に褒め称えてくれる、転んだときは手を貸して助けてくれる、そんな仲間たちと一緒だったから、彼は前は、それでよかったんだ。
だけど今はもう......
レアは私へ振り返ると、本当に悲しそうにため息をついた。
そして私の袖を掴んで、手を握った。
私は両手でそれを握って、離した。
「あのさ!一つだけ言っていいかな?」
私は勇者に向かって言った。
「悪人の汚い言葉なんか、聞いてたまるか!僕は騙されないぞ」
「ボスを倒す前にレアのことを殴るだけのやつ、私のことを何もしないやつって言ったでしょ?
じゃあさ、勇者君は、戦いの最中なのに何故かお人形遊びしてるだけのやつ…ってこと?」
「何だと…!」
「…違うんでしょ?」
私は優しい声色で言った。
「っ…!!」
「観察眼でわかっちゃったんだ。彼女らは元は本当に人形じゃなくって…」
「何も言うな!どっか行け!悪人め!」
そう言ってプラプラと立ち上がった勇者は、私の背中を弱く突き飛ばした。
私とレアはダンジョンから出た。
-第2章『勇者パーティと洞窟ダンジョン編』完
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