2.蜘蛛糸の勇者と洞窟ダンジョン編

5.弁償とうぃん-うぃん?

あらすじ

元宮廷画家の【ムシオデ・カズサ】と元王女の【レア・オシロ】は、冒険者ギルドへとやってきた。

とても不衛生で汚かったギルドだったが、2人の関係に何かを見出し感化された人間たちによって、ギルドは綺麗になった。

冒険者登録に必要なステータス鑑定のため、水晶に手をかざすカズサだったが...


ーーー


割れた水晶。


「弁償しまァー!」

私がそう言いかけた時だった。


水晶の破片が突如、空中に浮遊した。


「!?」


目を疑う暇などなかった。

次の瞬間、破片は文字列を形成していた!


———


名前:ムシオデ・カズサ

種族:転生者

年齢:17

職業:なし

カルマポイント:0


適正職業:

漫画家(?):Lv1928113


保有スキル:

パッシブ:観察眼XVII、精神補正XVII

アクティブ:【Cheat】オノマトペ具現化III


———


「破片が...浮いて...!?」


「すごい............さすがカズサさん!」


「私何もしてないけど!?でもどうして破片が宙に...」

「どうでも良いですそんなこと!!」

受付嬢は声を荒げた。


「よりもそのレベル...何なんですか!?

レベルッ......192万8113って...!?!?!?


そもそもなんてジョブ、見たことどころか聞いたこともありません!!!」


「えっ、漫画家......知らないの!?」

私は最大限のショックをたたえた声色で聞き返したが

「知りませんよそんなでたらめな名前なんて!!」

即答。より強い勢いの。


「えっ、あっ、うう......」

私はわりと本気で落ち込んで、そのまま地面に手をついた。


「怪しいけど...でもカルマポイントは0。悪い人...では、ないんですよね...。」


「ところでそのカルマポイントって、何なのですか?」

顎に手を当てる受付嬢に、レアが訊いた。


「それ、私も気になってた。」


「お二人とも本当に知らないんですね...。」


受付嬢は納得するように頷き

「転生者と姫...事情はお察ししました。」

と呟いた。


「盗みや殺人...何でも"悪いこと"をするとポイントが増えるんです。

ここだけの話、これが100になったら最後...その人を依代に邪神が復活するとかしないとか。」


「へえ...」


「これを基準に、その人物が信用できるかどうかを判断しています。

まあ、多少カルマポイントがあっても、事情をお聞きして冒険者登録を許可することもあります。」


「犯罪者を雇っていいんですか?」

レアが聞いた。


「いえ。カルマポイントの厄介な点、それは"罪悪感"でポイントが加算されることなんですよね。」


「罪悪感...」


「例えば目の前で人が自殺してしまった、助けられなかった。実質俺が殺したようなものだ...とか。

殺人鬼を取り押さえた衛兵が、殺人鬼の遺族に『人殺しだ』と脅迫されていて...とか。


そういうことって結構あるんですよね...。

でも、もっと厄介な点は...」


「人を殺そうが、罪悪感を感じなければ0のまま...そういうことですか?」

レアが言った。


「はい、そうなんです...」


「そんな...人を殺して何も思わないだなんて...なんてひどいやつなんだ!そんなやつ、絶対に許せない!」

私はさながら、燃え上がる城で悲鳴を上げる人のように言った。


まあ本当は、お城にいた人たちはみんな、白いふわふわのオノマトペで包んだから死んではいないんだけどね。


「...まあでも、どんな悪人でも罪悪感からは逃れられませんからね。

悪事を働くに至るまでは、皆善人だった...それでも、いいえだからこそ、俗世に負けて悪事を犯すのです。


そう、全ての人は生まれた頃は善人だったのです。

善人のままでいられるよう、あなたもぜひ、麺なる神を信仰しましょう。ラーメン...」

受付のお姉さんは手を組んで祈った。


「ああ、そういう感じなんだ...。」


「ちょっと!新人の冒険者さんが来る度にすぐ布教するのいい加減やめてよね!

クビにするよ!」


受付嬢のお姉さんさんは、上司らしき人にずるずると引っ張られていく。


引っ張られながら、受付のお姉さんは突如韻を踏んだ。

「水晶の弁償、どうするのこの状況?

浮遊するステータス、引っ張られる首痛いっすイェア」


「「あっ」」


「それなら僕たちが立て替えよう!」


そんな声を上げ現れたのは、男1人と女3人のグループだった。


「誰なんだい!?あんたたち一体!?」

私はわざとらしく聞いた。


「いいことを聞いてくれたな!僕たちは...勇者パーティだ!!!勇者パーティだ、勇者パーティだ、勇者パーティだ、勇者パーティだ......」


「「ゆ勇者...ぱパーティ!?」」

「ざわ...ざわ...」


「君たち2人のステータス...素晴らしい!

それに水晶玉を割って破片でステータス画面を作るなんて...なんてなんだ!!!」


「こ、この私がッ、異常!?」


「この僕が、水晶玉を君たちの代わりに弁償する!


そして君たち2人は僕の"勇者パーティ"に入る!


これって..."うぃん—うぃん"じゃないかい!?」


勇者を名乗る青年の勧誘を聞くと、受付嬢さんが言った。


「確かに、お二人は冒険者としては初心者です。

ですから勇者パーティに入れるなら安心です。しかし...それではパーティ人数は6人になってしまいませんか?


1パーティにつき4人が限度...基本的にはそう言われています。」


「いいや、問題ない!だろう?」


そう言って勇者は、荒い布でできた人形女パペットガールを抱き寄せた。

「ハイ、モチロンデス!ユーシャサマ!チュッ」


「そう。だって僕たちは...


勇者パーティ!!!

だから!!!


4人が限度!ならばむしろ破ろうそのセオリー!!

異常万歳!!!異常万歳!!!異常万ざあああああああああああい!!!」

勇者はミュージカル調に歌った。


「うるさい人ですね...」

耳を押さえながらレアが言った。


「うーん...水晶を弁償してくれるなら、一回だけ入ってみない?」

私はレアを説得した。


「カズサさんがそう言うなら...

でも気に入らなかったら、すぐに抜けさせてもらいますからね」


「そうはさせないよ!

僕たちは異常な者を受け入れる勇者パーティ!


僕たちは君たちをのけものにしたりなんかしない!」


「キャアア!」

「ユーシャ、ステキ!」

別のパペットガールたちが口々に言った。


「はっはっは!それほどでもないよ!いや、あるか!」


「腹話術スキル上級者...かな?」

そして私とレアは、勇者たちとダンジョンに向かうことになった。

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