4.ステータス鑑定とバリバリ

そう。その拳は他でもない。

レアが振り上げたものだった。


直後、ドスゥーン!!という地響きじみた音。

天井からごろつきの巨体が落下し、地面に強く激突したのだ。


「痛いよお!痛いよお〜!顎が痛いよお!殴られたよお〜!

今心臓と股間も床にぶつけたよお〜!痛いよ〜!」


蜘蛛の巣が体中にまとわりついたまま、ごろつきは転げ回った。


「な、なんでむごいことを!貴っ様ァああああ.........あっ......!?」


レアが、鋭い目つきで取り巻きたちに睨みをきかせていた。


「ひっ!?」

それに怯えてごろつきの取り巻きたちは肩をすくめた。


「ひっひいい!」


「次、私のカズサさんに触ったら、どうなるか...わかりますよね?」

拳がぎちぎちと鳴った。


「「「ひっひいいいいい!!!」」」


ごろつきは顎と股と胸を押さえながら、取り巻きたちと逃げていった。


「...レア、ありがと-っ!?」

私が言い切る前に、レアは私に抱きついてきた。


「...まさかレアがあんなに強かったなんて、びっくりした」


「本当は...怖かった、です...」


「...う、うん」


「でも、カズサさんをとられたくなかったから...勇気を出しました!」


「そっか、ありがとう。」


「最初に私が絡まれた時助けてくれたので、お互い様です」


「いや、そんな...」


私は無人の受付カウンターをみた。


流石にやばいのに絡まれたら助けてくれるかなと思って、引き止めるために話していたのだが......

あの女、逃げやがった......。


でもまあ、それほどさっきの輩が危険な人物だったのだろう。

自分の身を守ることを否定する気はない。

人に殺されるなんて、面白くもなんともないだろうし。


「あの、カズサさん。」


「何?」


「私と、これからもずっと一緒にいてくれますか?」

まるで今までずっと一緒にいたかのような感じで言われたけれど、私たちはちょっと前に会ったばかりだった。


だけど。


「......うん」


彼女は私を慕ってくれているが、それはタマゴから生まれたヒヨコが初めて見た相手を親と思い込んでいるのと同じことだろう。


......今は。


旅を続ける中で、きっと本当の意味で仲良くなっていけるはずだ。


そんな意味を込めて、私は屈託のない表情で応えた。


「......もちろん!」


「......ありがとうございます!」

ぱあっと顔が明るくなったレアは、私を強く抱きしめた。


「カズサさん、カズサさん、カズサさん!...私だけのカズサさん...!」


「くっ、苦しい...!」


"私だけの"って...


レアは可愛かったけど、怖かった。

だけど良い子だし、それ以上に繊細な子だった。


だから、一緒にいてあげたいと思った。


それから少しの間抱き合ったままでいたけれど-


私はあることに気がついたので、わざとらしく言った。

「あれえ...?」


「どうしたんですか?」


「レア、まわり見て。」


「...わあっ!?」


なんと、汚かったギルドは綺麗になっていた。

床はピカピカ。

天井の蜘蛛の巣は片づけられ、蜘蛛たちも整列していた。


人々は皆は清潔なウエーター、ウエートレス姿に着替え、最後にテーブルの上には花瓶に入ったホワイトリリィが飾られた。


「どうしてこんなことに...?」


「あなた方の美しい絆に感化され、我々も心を正したのです。

まるであの純白のホワイトリリィの花びらのような...柔らかくて美しい絆に。


嗚呼、この感情に...あなた方の絆に何か名前を付けたい。どんな名前がふさわし-」


「あ、なんでもいいですよ。それよりも、登録の手続きをお願いします。」

粘っこい展開がめんどくさくなってきたので、私は冷たく切り上げた。


「かしこまりました。」


私とレアはまた、カウンターまでやってきた。

水晶玉を持ってやってきた受付嬢さんが、さっきと変わらぬ笑顔で出迎えてくれた。


そしてカウンターに開いた穴もまた、さっきと変わっていなかった。


受付嬢のお姉さんは水晶を持ったまま、その手を右へスライドさせる。


「...」


しかし水晶は置けそうになかった。


今度は左へスライドさせる。


「...」


しかし置けそうになかった。


沈黙が走る。


彼女はついに、水晶を持ったまま言った。


「こちらの水晶に手をかざすと、あなた方の能力が鑑定されます。

まず名前や職業ジョブなどの素性が映し出され、犯罪者でないかどうかの確認を行います。」


「ごろつきは犯罪者ではないのですか?」


「ごろつきも"職業ジョブ"なんですよ。

"ごろつき"も"ごろつきの取り巻き"も、れっきとした職業なんです。


皆さん、ちゃんと適正に合った職業ジョブを選ばれているのです。」


「そうなんですね」


「そもそも適正がない職業には就くことができないのですが...色々試していると、転職可能な職業が増えたりもしますよ。


そのあとに"ステータス"と呼ばれる、力や魔力の強さ等を数値化・明文化した情報群。

そして保有スキルが表示されます。


ここまでの情報をギルドカードに刻印すれば、あなた方は晴れて冒険者の仲間入りです!」


受付嬢さんは、水晶を持ったまま、腕を上に突き上げた。


「「「.........」」」


お姉さんはこほんと咳払いをした。

「...では、こちらにどうぞ」


「じゃあ、私からやって見ても良いですか?」

レアが言った。


「いいよ!」


「では、行きます!」

レアは水晶に手をかざした。


すると早速文章が浮かび上がってきた。

私たちは水晶を覗き込んだ。


———


名前:レア・オシロ

種族:人間

年齢:14

職業:なし

カルマポイント:0


適正職業:

信徒(F):未経験

戦士(D):未経験

武道家(D):未経験

神官(D):未経験

魔法使い(D):未経験

古武道家(B):未経験

聖騎士(B):未経験

魔法戦士(B):未経験

姫(A):Lv14

聖女(S):未経験

姫騎士(S):未経験


保有スキル:

パッシブ:王家の号令X、獲得経験値増加X、魔力伝導X

アクティブ:ステータス移動X


———


「はい、業因得点カルマポイントはゼロ、問題ないみたいですね。ヨシ!


...って、えっ、ええっ!?何これ!?」

突如受付嬢のお姉さんは取り乱し、転げまわった。


「こんなたくさんの適正職業、初めて見た...

しかもエエエエ、Sランクが2つも!?」


「すごいんですか?」


「そ、それはもう...!」


「だってさ。良かったね!レア」


「うーん...」

レアは悩んでいた。


「どうしたの?」


「"すごい"という言葉は実家にいた頃に言われ慣れてしまったので、あまり実感が湧きませんが...でも」

レアは目を瞑ったまま言った。


そしてぱちっと目を開くと......


「選択肢がたくさんあるというのは、とてつもなくワクワクします...!」

瞳をギラギラと輝かせていた。


「じゃあ、次は私が-」


受付嬢さんが差し出した水晶玉に、私は手をかざす。


と—


バリィン!!!!!!!


そんなやかましい音を立てて、水晶はバラバラの破片になった。


「「「.........」」」


私はすぐさま土下座した。



-第1章『漫画家と姫君とオノマトペ編』完


ーーー


おまけ

レア・オシロのスキル


☆パッシブスキル:常時発動しているスキル(→体質)

・王家の号令X

発言や行動に宿る意思が強いほど、周囲の人間に影響を与える

反対に、わずかでも邪気や弱気の宿る発言が多くなると、信用されなくなる


・獲得経験値増加X

獲得経験値が100%増加する


・魔力伝導X

魔力をとても扱いやすい


☆アクティブスキル:能動的に"発動"させる必要のあるスキル(→技)

・ステータス移動X

自身のステータス配分を、いつでも自由に組み換えられる。

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