3.冒険者ギルドとゲロゲロ
「ここが冒険者ギルドか〜テンション上がるな〜!!!」
「...どこに向かって話しているのですか?」
困惑するレアが、私に訊いた。
「それはね.....」
「それは?」
私はレアの耳元で「秘密...♡」と吐息多めに甘くささやいた。
レアの肩は、びくっと跳ね上がった。
「...も、もうっ、不思議な人ですね。
......でも、確かにテンションが上がりますよね。
ここから私たちの冒険が始まるんだって。」
レアは期待で微笑んだ。
「ふっ、そうだね」
私はウエスタンドアを勢いよく突き飛ばした。
「たのもー!!!!」
そう、ここから、私たちの冒険が始まるんだ...!!!
「ガヤガヤガヤガヤガヤ」
しかしそのギルドは輝かしい場所などではなく...
治安が最悪だった。
「イカサマだろてめえ金返せやゴラア!!!」
「ははははちちちち違うだろふふふふふざけんな、いいいイカサマしたのはお前だろ...!」
テーブルで、昼間から酒を飲みながら賭け事をしているごろつきたち。
しかしそんなものはまだ序の口だった。
「おえええええええええええええゲロゲロゲロゲロゲロ」
床には倒れながら、酒をうがいするように吐く男。
それも1人ではなく、何人もいた。
「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ」
さらにその男たちの背中の上で、カエルたちが合掌していた。
上からは、何十匹も蜘蛛が垂れ下がってくるくる回っており、天井を見上げると白い蜘蛛の巣が何重にもなっていて、とにかくすごいことになっていた。
壁際には大便が塗りたくられており、今現在進行形で用を足している者もいた。
それらを避けながら、手を繋いだ私とレアは受付までたどり着いた。
受付嬢のお姉さんは、周囲の惨状にそぐわない綺麗な服装・整った身だしなみをしていた。
「いらっしゃいませ。お二人とも、初めてのご来訪ですね。
冒険者登録でございますか?」
まるで何も起こっていないかのような、淡々とした口調と屈託のない営業笑顔でそう聞かれた。
「はい、そうです。」
「では、手続きを開始しますね。お好きなお席でしばらくお待ちください。」
もう一度テーブルをチラリと確認。
やっぱり汚い!
それにごろつきに絡まれたくないからすぐに視線を戻した。
だけどレアは、気になったのかじっくり周りを見てしまっていた。
後ろで「がたっ!」と椅子から立ち上がる大きな音がした。
それを聞いて、私はすかさず受付のお姉さんに話し始めた。
「ところでお姉さん」
「はいなんでしょう」
「私が冒険者になったらさ〜、私のパーティに入らない?こんな職場やめちゃってさ、私たちと一緒に行こうよ〜」
私の言葉に驚いて、レアがすごい目でこっちを見てきたが、続けた。
しかし...
「それならこっちのお嬢ちゃんは、俺がもらっておこうかな」
そう言ってレアに近づいたのは、巨体のごろつきだった。
「や、やめてください...困ります...」
ごろつきはレアの肩を腕で引っ張っていた。
「ええ、いいじゃないか。何もしないからさあ、こっちに来いよ」
野太い声。
私はごろつきの腕を、優しくどけてあげた。
「忠告する。彼女に二度と触らない方がいい。」
「汚い手だと!?てめええええ!!!」
逆上したごろつきは私の真横に腕を振り下ろした。
汚い手なんて言っていないけど、そんな弁明をしていられそうにない状況になった。
木製のカウンターに、大きな穴が開いた。
とてつもなく大きな。
「.........」
やべ...逃げよ
私はそのままレアの手を引いて、ギルドから出ようと走る。
しかし周りに取り巻きがやってきて、囲まれた。
「げっひっひっひっひ!」
「ゲースゲスゲスゲス!女だ!久しぶりの女だ!!」
「お前ら!絶対逃すんじゃねえぞ!!」
ごろつきは近づいてくる。
「フッフッフ!!!」
そして私の横にごろつきの顔が...いや、
「どけえ、どかないと首、しめちゃうぞお」
そこで。
私は首を絞められる前に、ごろつきに甘く囁いた。
「ボン...♡キュッ...♡ボン...♡」
「う、うががががぎギャぎゃぎゃゃがががが!?!?!?!?!?!?」
「ど、どうしたんだ兄貴!」
「な、なんでもない...こ、こいつ...なんなんだ...」
「おい待てよ、このエロい言葉...こいつ...クンクンクンクンクン」
犬のような顔の取り巻きが、空気の匂いを嗅ぎ始めた。
「兄貴ィ、こいつも女だあ!!!」
「何ィいいい!?」
「何さ、私を男だと思ってたのか。
どこからどう見たってスーパーエレガントスレンダー黒髪美少女お姉さんウーマンだってのに、失礼だな」
「げっひっひっひっひ!」
「ゲースゲスゲスゲス!女だ!久しぶりの女だ!!」
「俺は清楚で可憐なお姫様みたいな子しか受け付けないと思っていたが......よく見たらこういう系も可愛いなあ」
気持ち悪い声色でごろつきは言う。
「気を取り直してお前らあ!今夜は気持ちいい気持ちいい
そう言ってごろつきは私の顎をいやらしい手つきで撫でようとした。
しかしその小指が一瞬触れた瞬間。
その瞬間に、突如としてごろつきは頭上に吹っ飛ばされた。
「!?」
後ろを見る。
突き上げられた拳からは、煙がぷしゅぅーっと吹き出していた。
その拳の主は、きっとごろつきたちにとって意外な人物だった。
私にとっても、ほんのちょっとだけ意外だったかもしれない。
だってその人は、清楚で可憐なお姫様だったんだもの。
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