2.
3.
「それでだな、ささやかではあるが、君を王付きの貴族にしてあげようかと思ってだな」
「貴族ですか」
「いやか?」
「王付きは受け入れますが、せっかくの異世界ですし、堅苦しいのは嫌です」
「では何を望む」
「その、推しと、のんびり生活したいです」
「ふむ、ならば良い場所があるぞ、ついて参れ」
そう言われて案内されたのは王宮内にある庭園の一角にある小屋でした。
そこは一見普通の建物に見えるのですが、中に入ってみるとびっくりです。
なんと、中にはお風呂やトイレなど完備されており、キッチンまでありました。
しかも、ベッドまであるじゃないですか!
これはもう住むしかありませんね。
それから暫くして、王様が戻って来ると私にこう言った。
「今日からここが君の家だ好きに使ってくれて構わないよ」
それだけ言うと彼は帰って行ったので私も部屋に戻り休むことにしました。
翌朝目が覚めると、推しが居ない、これでは、生活を満喫できない。
「推し探しに行きますか」
そうと決まれば早速行動開始です。
先ずは情報収集からです。
幸いにもここは王宮なので情報は直ぐに集まりますし、何よりメイドさんが沢山いるので聞き放題なのです。
そんなこんなで情報を集めていると気になる情報を手に入れました。
何でもこの国には王子様がいるのだとか……。
推しはやはり、異性に限ります。
それに、王子ともなればきっとイケメンに違いないでしょうしね。
そんな訳でやって来ました王城へ……ではなくお城の外に来ています。
お城の中に入る事は簡単ですが、それでは意味がないですからね。
「私は、王付きだから、お城の出入りは自由だし」
独り言を呟きながら歩いていると、何やら人だかりができていました。
気になったので近付いて見ると、どうやら誰かが喧嘩をしているようです。
相手はどうやら男の子のようで、歳は同じくらいでしょうか?
それにしても、凄いですねあの少年、大人相手に一歩も引いていません。
それどころか逆に押し返していますよ。
ですが、子供っぽい気がします。
まぁ、子供の喧嘩に口を出すつもりはありませんけどね。
それにしてもあの少年どこかで見た事がある気がするんですよね?
気のせいですかね?
まぁ、今はそんな事よりも彼を探す方が先ですね。
そう思いその場を離れようとした時、不意に後ろから声を掛けられたので振り返ってみました。
するとそこには先程の少年が立って居ました。
「いたぁ、百合」
は? どなたですか……。
「貴方は?」
「ひどいな、勇者会議に参加していただろう、レイだよ」
「あぁ~あの時の」
確かに言われてみれば面影がありますね。
でも何故ここに居るのでしょう? まさかとは思いますが……。
「どうしてこちらに」
「父上に聞いたよ、百合が王付きに成ったんだって?」
「えぇ、そうですけど何か?」
「僕も一緒に行っても良いかい?」
「別に構いませんけど」
彼と共に自分の部屋に戻ると、これからの事を話し合う事にしました。
「さて、どうしますかね」
「そうだね、取り敢えず当面の目的は決まったかな」
「そうですね、でもその前に一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「貴方って男ですよね?」
「そうだけどそれがどうかしたのかい?」
「いえ、何でもないです」
それを聞いて、ほっとしました。
やはり、推しは異性でなくてはなりませんからね!
その後私達は今後の方針について話し合いましたが、結局何も決まらずその日は解散することになりました。
翌日、朝食を済ませた後、昨日と同じ場所に行ってみると既に彼が待って居ました。
そして開口一番こんな事を言い始めたのです。
その内容を聞いて驚きました。
何故なら彼の目的は私と一緒に暮らす為だったのですから!
4.
それを聞いて嬉しくなり思わず抱きついてしまいました。
だってそうでしょう!
こんな可愛い子に一緒に暮らしたいだなんて言われたら誰だって嬉しいはずです!
こうして私達の共同生活が始まりました。
それから数日が経過したある日の事、突然部屋のドアがノックされました。
「レイ、誰か来たみたい」
そう言うと彼は慌てて布団に潜り込んでしまいました。
(全く仕方のない人ですね)
そんな事を考えながらもドアを開けるとそこには兵士が立っていた。
「百合様、こちらにレイ王子はいませんか」
突然の事に驚いていると、兵士は慌てて謝罪して来た。
しかし、よく見てみると何処かで見た覚えのある顔だと思い尋ねてみた所、案の定先日の騒ぎの時に見かけた人物でした。
(確かあの時は女性の兵士さんでしたね)
そんな事を考えていると再び兵士が話し掛けてきた。
「レイ様が居たら、至急稽古場に行くようにお伝えください」
「分かりました」
そう言ってドアを閉めようとした時、ふとある考えが頭を過りました。
(このまま彼を行かせて良いのでしょうか?)
そんな事を考えてしまった私は、つい余計な事を言ってしまいました。
それは……。
「レイ、稽古行かないの?」
その言葉を聞いた瞬間、彼の顔が真っ青になりました。
あ、このタイプはへなちょこ王子だわ。
何となくそう思った私でしたが、次の瞬間彼に腕を掴まれてこう言われてしまいました。
「むり、痛いし行きたくない、僕は、百合といる」
そう言いながらしがみついてくる姿はまるで幼子のように見えました。
仕方ないですね、こうなったら私が一肌脱ぎましょう!
それから数日後、とうとうその時は訪れました。
それはいつものように二人でまったりと過ごしているので今日こそ伝えます。
「レイ、稽古みたいな」
その瞬間、まるでこの世の終わりの様な表情を浮かべていました。
ですがそれも一瞬のことでした。
すぐに笑顔になると私に言いました。
「ごめん、百合嫌なんだ、だから行かない」
それを聞いた瞬間、私の中の何かがキレた様な気がしました。
その為、気が付いた時には全力で頬を叩いていました。
大きな音と共に彼は倒れてしまいました。
正直やり過ぎたとは思いましたが後悔はしていません。
それよりも問題は目の前の彼です。
「王子でしょ、何かあったらどうするの」
そう叱りつけながら手を差し伸べると同時に涙が溢れてきました。
怖かったのです。
もしあのまま目を覚まさなかったらと考えると怖くてたまりませんでした。
だからこそ余計に涙が止まりませんでした。
暫くして落ち着いた後、改めて話を聞こうとしたのですが何故か口を閉ざしたまま話してくれません。
そこで仕方なくこちらから質問をしてみることにしました。
「レイは、勇者瑠衣に憧れているんでしょ」
そう尋ねると、小さく頷いてくれました。
やっぱりそうでしたか……。
私も一度しか会いませんでしたが、勇者として覚醒に立ち合えたのは、嬉しかったです。
「私は勇者では無かったけど、レイは家族で私の推しなの」
そう言うと彼は嬉しそうに微笑んでくれました。
「勇者不在で、貴方まで弱かったら、誰がゼウス城を守るのよ」
そう言うと彼は力強く頷きました。
それを見て安心した私はそのまま眠りにつきました。
翌朝目を覚ますと隣に居たはずのレイの姿がありませんでした。
恐らく先に行ってしまったのでしょう。
そう思うと無性に寂しくなってきました。
(いけない、こんなことではいけませんね)
気持ちを切り替えて簡単にレイの為にお弁当を作ります。
と言っても大した物は作れませんけどね。
それでも無いよりはマシでしょうから持って行く事にします。
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