第11話 雪之丞流空城の計。起死回生の一ヶ月間契約友人


「竜石堂、お前には根負けした。証拠は返すよ」


「やっぱり持っていたんだね」


「ああ、ただし条件がある」


 俺は水を得た魚のように頭をフル回転させて作戦を立案、相手を納得させてその間に対策をとる方法へ出た。


「それって何?」


「簡単なことだ。友達契約を結ぶこと」


「はぁ? 友達契約?」


・条件として一ヶ月間毎日会うこと。

 脅す証拠なんて持ってないから本来なら成立しないのだが、お互いを知れば誤解はすぐに解けるはず。

   

・こちらから明言しない限り何もやらないこと。

 勿論竜石堂が早とちりして淫行というか、けしからんことをしないための予防線。


・友達のふりをすること。

 今まで撒き散らした疑念と言う周囲の誤解をただの喧嘩として処理。

 これで暫くは安寧を手に入れられる。


 一見相手の要望を全面的に受け入れたような内容だが、こちらの条件もつけた。 

 脅迫だがこうしないと怪しんでまた振り出しに戻るに違いない。

 もうこれ以上は揉めている現場を公の場に晒したくはないんだ。

 

 証拠がないなら持ったふりをする。

 これぞ神無月 雪之丞流空城の計なり。 

 交渉術でもないものをあるものに見せかけるのはよく使う手。


 それに失敗しても証拠をでっち上げれば済むことだ。

 ただバレたら偽証罪で逮捕。

 しかし、苦し紛れな水際対策だが強情っぱりを納得させる唯一の方法なのだ。

 ならやるしかない。腹をくくれ神無月雪之丞。


「いいよ。受け入れる」


「そうか」


「これでこの人でなしに私の人生はめちゃくちゃにされるのね。でも鳳くんのためだったらいくらでも我慢できる」


「おい、そう言いながらブラウスのボタンに手をかけるのはやめろ! 破滅したいのか?」


 言っている側からこれかよ。

 ならば口上だけじゃなくて書面にした方が色々と強制力がありそうだな。


「見えそうで見えないところでプレーするのはネトリの定番だと思って。あんたは慎重派なんだね」


 その情報元はどこから来てるのか是非とも知りたい。類似している作品も詳しくリストアップして欲しいものだ。


「プレーはプレーでもスタンドプレーはやめてくれ。とにかくこれからは友人として振る舞ってもらうぞ竜石堂」


 慎重派でも何でもないただごまかしたいだけだ。

 妹の留学にも影響は出てしまうので何が何でも絶体絶命へ対処しなければいけなかった。


「でもさ、考えてることが全く分からないんだけど? あれだけ散々引っ張っておいて一ヶ月間ただ会うだけ。言い方によっては私を自由に出来たのに。それともこれも作戦?」


「竜石堂、お前を悪いようにはしない」


 余計なことは言い控えた。

 この本能剥き出しゴリラに精密機械を与えても狩りをする鈍器にしか使えないだろう。


 作戦の要は一ヶ月間毎日会うこと。

 この期間になんとしてでもくだらない誤解を解くのだ。

 それで友達という契約が役に立つ。

 別に信頼しなくてもいい。

 そう振る舞ってくれればいいのだ。

 それで全て順応する。

 目標は友達は無理でも俺の学園ライフを謳歌するための協力者にはなって欲しいもの。


 さりとて油断はできないが。

 幼い頃より海千山千の大人相手に研ぎ澄ませてきた交渉術がこの脳筋相手だと全く通用しないのだ。

 将棋の有段者が始めたばかりの初心者に散々掻き回されると同じこと。


 それに学園には厄介な敵がたくさんいる。

 なりを潜めているが虎視眈々と俺と親父を神無月家後継者候補序列から引きずり下ろそうとしているのだ。

 俺は別に神無月を継承するのはまっぴらごめんなのだが、異国人のお袋が全てを失い路頭に迷うのは忍び難い。

 だからあからさまな執拗な嫌がらせも我慢してきたのだ。


 今日もこれから定期報告の名のもと、一人会うことになっている。

 俺が親族の中でもっとも苦手な部類のぬらりひょんみたいな女だ。

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