第10話 話術の魔術師も馬鹿には効かない

「ならば、弁護士も挟んで正式な契約結ぼう。今後二度と恐喝まがいのことをするのであれば民事訴訟も辞さないというのはどうだ? 示談にも応じるつもりだ。もちろん二度と関わらないのも条件につけよう」


 国の法律が介入するのであれば絶対の安心感があるであろう。

 約定はうちの家では日常茶飯時なので弁護士にとってはいい上客である。


「お金持ちは何かあったら弁護士を頼りにするけど、そんなものはいくらでも抜け道があるじゃない? 自動車保険だって被害者の味方ではなく結局はお金を払っている加害者の味方じゃないのさ。それに国の力を行使するのが気に食わない。示談金とか提示されても私はいらないよ」


 まさかの拒否反応。

 これだけの好条件を一蹴する選択するとは。  

 警戒心が強いのか単にバカなのか。

 竜石堂のことがますますわからなくなる。

 トラブルを公にしようとする連中も似たようなものであるが、欲の権化なのでここまで頑なに拒むことはしないのだ。

 

 困ったものだ。

 中々妥協点を探し当てられない。

 話術の魔術師と恐れられたこの俺が直に関わってもここまで苦労するとは……。

 長年培った交渉のキャリアがこうも返り討ちに遇うとは初めての経験だ。


 ・竜石堂はスキャンダルの証拠をけしてほしい。


 ・俺は何も持っていない。


 ・竜石堂は一切信用しない。


 ・俺は打開案を提示する


 ・竜石堂は一切応じない


 無限ループはゲームの専売特許ではないということが証明された。


「竜石堂。いい加減お互い腹を割って話さないか? 友達になることから始めよう」


「それってなんのマインドコントロール? ネコジエーターの初歩的な手法だよね」


「頭脳バトル漫画の読みすぎだ!」


 竜石堂と本音で語りあい、何を欲していて何が嫌なのか、色々と模索して妥協点を探りたいだけなのに予測通り難航しそうだ。


「あああ! 私はなんて不幸。でも愛する鳳君の為ならジャンヌダルクにもなる覚悟もある!」


「馬鹿か? ジャンヌダルクが愛したのは祖国だろ、それをいうなら死んだロミオの為に後を追い命を絶ったジュリエットの方が正しい」


 周囲を巻き込んで暴走している竜石堂と同じで無駄死にだったけどな。

 でもお前はどちらかというと貂蝉の方だろ?

 かき乱すだけかき乱して何一つ手に入れることはできないあたりとかな。


「うっさい! 揚げ足とるな! 私に意見するな!」


「そろそろ自身がドンキホーテだと認識してくれることを心から信じているよ」


 ――このまま数時間話し合う。

 根気よく取っ掛かりを掴むべく遠回りのよもやま話をする。

 平行線が続く不毛な話し合いの果て、終着点はあるのかと行き着くオアシスを求めて模索続けた。


「いい加減にして欲しいんだけど。あんたが全てを受け入ればいいだけのことでしょ」


「全てを受け入れる? だからそれは無理だと――」


 否定する前に何かに引っ掛かり言葉が詰まる。

 受け入れる? 

 受け入れるとは竜石堂のスキャンダルを目撃した証拠を渡すこと。

 なら、無いのならどうすればいいのか? 

 あいつが納得する好条件………………………そうかその手があったか。

 逆転の発想だ。

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