第9話 天井世界の最終攻防戦
常々思う、学舎の最上階とは己の秘めた想いを解放させる空間、または別世界への憧れを簡単に成就できる場所ではなかろうか。
扉を開いた瞬間から視界が一気に広がり街並みが一望。
されど行き止まり、まるで人生のような青春の限界のような金網に囲まれてそこかとなく悲しい。
この閉ざされた箱庭は利休の茶室と通ずるものがある。
校舎が二つ繋がっているので屋上の面積はかなり広い。
木も植えてありベンチ多く設置してある。
なまじ近所の公園よりも広く馬鹿にできない。
他の高校はわからないが、我が校は普段から解放されているので誰でも入ることを許されている。
お昼になると昼食を食べる為スポットの一つとして賑わいをみせていた。
だが流石にこれから授業が始まるので周りには誰もいない。
春にふさわしいまだ気温が低い朝の洗礼が体を小刻みに震わせていた。
「もう俺に関わるな。俺は退学になるわけにはいかないんだ」
はぁはぁと生き絶え絶え開口一番に心情を訴える。
別れ話を切り出したクズ男感もあるがどちらかというと俺が被害者だ。
しかしこんなところ第三者へ目撃されたら今度は恐喝容疑で速攻に通報されるだろう。
「そんなの今までの自業自得でしょう!」
「竜石堂は信用しないみたいだけど、本当に写真というかデータは残っていないんだ。だから返すことは無理だ」
「それでは私を脅さないという保証はどこにもないよね? 代わりに私を安心させる代案はあるの?」
俺はしばし頭をひねる。
この場を収める相応しい最適解を弾き出した。
毎日親族同士で足の引っ張り合いをやっている神無月では、長年大人たちに混ざって心理戦を繰り広げていると命運を分ける大事な場面でも、蛇口をひねった水のように自然と頭から出てくるようになる。
なので俺もトラブルの対処には長けていた。
「そうだな、ならこうしよう。俺の恥ずかしい写真をお前にやる。それでイーブンだ、チャラにしよう」
「あんたの汚名を私も共有するということ?」
「そうだ」
これは中々いい案だと思う。
あいつが望むゴールが心の安寧なら相手にも同じ立場にしてあげれば対等になる。
「いや、間に合ってます。漫画とかでもあるけど一般的には弱みでも本人とっては全然平気というものはあるんじゃないの、策士になったらそのぐらい平気で使うでしょ」
俺は諸葛亮孔明か!?
憧れはするが空城の計とか石兵八陣なんて不可能だぞ。
せめて情勢と世界を敵に回しても己の信念を貫いた真田幸村でありたい。絶対の信頼で結ばれた真田十勇士もいるからボッチじゃないし。
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