第8話 難攻不落の勘違い要塞

「まあまあ竜石堂ちゃん、落ち着いて落ち着いて」


「上杉くん、悪いけど話に入ってこないでくれない?」


 興奮ぎみのスーパースターをなだめる流星。

 二人は知り合いのようだ。

 まあ、流星はスポーツ万能だから助っ人で複数の部活を掛け持ちしているから不思議な話ではない。


 イラついているのか竜石堂は髪を掻きむしる。 

 癖毛なのかセットしたのか分からないウェーブのかかった髪からシャンプーの匂いが漂った。

 朝練の後にシャワーを浴びたことが一目瞭然でわかる。

 バスケやっているからショートなのは分かるが、ボリューム満点なので量産型の没個性にはならない。


「そういうわけにいかないよ。オレの親友だからね。それでなくても雪ちゃんはトラブルに巻き込まれやすいから」


「今までの悪行の数々をトラブルの一言で片付けようとは何ともおこがましいのか。上杉君も神無月の狡猾さに騙されているんだよ」


「竜石堂ちゃんは相変わらず思い込みが激しいなあ」


「な、この無敵勘違い要塞相手じゃ馬に念仏、犬に論語、蛙の面に水、重課金者に限度額だ」


 難攻不落の強情ものに、はぁぁぁと大きくため息をつく俺。

 力なく突っ伏した机の温度が心地よく感じた。

 最大の窮地だが、もう、否定する気も起きない。


「 このまま追い込まれると鳳くんの未来が閉ざされてしまう。私はどんなに汚れても何でもするから彼の将来を奪わないで」


「どんどん勝手に泥沼へ嵌まっていくな………お前」


 竜石堂は追い込まれているとおもっているだろうが、実際は俺が追い込まれているという事実を早く認識して欲しいものだ。


「大体こんなところで議論を交わすことじゃないよ。噂が広がったら君に迷惑かかるし、竜石堂ちゃんの彼氏にも迷惑かかるんじゃないかな?」


 おお! 流星ナイス! 泣き所とはうまいところを突く。

 ことの重要性がわかったのか竜石堂は、あ、とつぶやき周りを見渡した。

 一見普通の教室だが何処かよそよそしい。

 

「ここは一度手を引いてくれないかな。改めて話し合いの席を設けよう」


「もう面倒見きれない。帰れ帰れ」


 「あれだけ私を無理矢理もてあそんでおいて、飽きたら捨てるってこと?」


 お前言い方ー!


 いっきに教室内がざわめき出す。

 一斉にスマホ画面を弾く音がミュージックを作り出した。


 呆れて首を横に振る親友をよそに耐えかねた俺はたまらず、「ちょっとこっちへこい!」嫌がる竜石堂の手を引っ張っり廊下へ。


「なにするのさ! 離せ! 離せ!」

 

 綱引きというよりも大きなカブみたいな胆力を相手に力ずくで上へ上へと階段を引き上げる。流石は全国クラスのモンスター。

 日々鍛練を積んでいるので女でも一筋縄には行かない。


 アウエー感マックスのあそこでは何気ない会話でも俺の退学が待ったなしに訪れる。 

 信長も本能寺で同じ思いをしたに違いない。

 人でなし、凌辱魔、異常性愛者、などの事実無根である誹謗中傷、罵詈雑言を浴びながら屋上へ一気に駆け上がった。

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