第5話 魅惑のくまさんパンツ

「竜石堂は思い違いをしている。俺にそんな度胸はないし他人の人生をむちゃくちゃにする程クレイジーじゃない」


 相手に気づかれないようにじりじりと後方へ退避を開始していた。

 人の話を聞かないああいう輩は関わるとろくなことしてこない。

 一歩通行では対話は成立しないのだ。

 だから交渉のテーブルに着かない相手へ無駄な労力は使いたくない。


「今まで万引き、恐喝、学級崩壊、散々悪行三昧をしておきながら今更真人間のふりしても手遅れだよ。あんたに目をつけられて無事でいた生徒はいない。きっと神無月の学園奴隷ハーレムに入れられて私もお嫁にいけない体に………あああああ!」


「悲壮感に浸っていることろ悪いが全部デマだ。竜石堂へ手を出すつもりはないぞ」


「私は悲劇のヒロイン。この魅惑のボディを貪り尽くされるのね」


 付き合いきれない自分に酔っている竜石堂を放っておいて後ろ向いた瞬間、何かを投げつけられた。

 それを反射的にキャッチ。

 生暖かった。

 嫌な予感がする。

 俺はもこもこした謎の物体を慎重に広げた。


「ピンク色のパンツ…………しかもクマさんかよ」


「これをあげる。手付金。口止め料にはならないだろうけど、私は負けないからね!」


「こんな色気がねえ、ばっちいのいらんわ!」


 俺はその場で投げ捨てた。

 力一杯叩きつけた。

 手を丹念に携帯用消毒液でマッサージも忘れない。


「何するのさ! 健全な男の子だったら死んでも欲しいものでしょうが! 現役美少女の脱ぎたて下着はオークションで億も動くんだからね」


「じゃあ俺は健全な男子でなくていい。女に飢えているやつだけが男だと思わないことだ。大体自分で美少女と言っている時点で信憑性低いわ」


 興味がないわけじゃないが、他の男どもと違って彼女が欲しいわけでもないしそれほど重要なことでもない。


「あんたもしかしてホモ? そうでなかったら私に興味がないなんてありえないんだけど」


「ノーマルだ。ただ竜石堂みたいな美少女と認識している性格ブスが嫌いなだけだよ」


「大嫌い」


「それはどうも。気が合うな。もう会うこともないだろう。話しかけんなボケが」


 これだけ悪態をつけとけばいいだろう。

 女子中心に悪い噂を流されるだろうが面倒ごとが増えない方が俺的にはいい。

 去るタイミングがバッチリ噛み合ったのでそのまま出ていった。

 古いせいで立付けが悪い扉だから途中止まった時は内心焦る。


「まて! 待ちなさいよ! 神無月雪之丞ぉぉぉ!」


 背後から響いてくる竜石堂の呼び声は大学生達により行われた路上募金をあっさり拒否して止められるものより大きかった。

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