第3話 不良先輩と女子バスケ部エースの邂逅
『兄様、喧嘩はほどほどにね』
「待て、まだ野郎と決まった訳ではない」
『はいはい、じゃあまた夜にでも話しましょう』
言いたいことだけ言ってとっとと通信を切った結晶。
携帯のお陰で地球の裏側にいる感覚がない。
改めてノートの切れ端を何度も読み返す。
されど言葉通り以外答えは導かれない。
このまま無視しても問題はないが、万が一がある。
もし相手がシャイで想いを伝えるのが苦手女子なら不登校になることだってある。
なので差出人のお望み通り、俺は旧校舎の空き教室前に出向く。
俺は逃げない。
敢えて降りかかる火の粉に飛び込むこそ漢だろう。
開けるとカビ臭さとハウスダストが舞い広がり、換気をしてないから咳き込む。
相手の名前は知らない。
もし野郎で喧嘩だったら受けて立つだけだ。
無論ラブレターの可能性も捨てきれないけど旧校舎にある教室へ来いとは些か無骨すぎる気もする。
「待ってたよ。神無月 雪之丞」
腕を組んでそれはいた。
仁王立ちして唇を固く結んでいる。
女だ。
バスケ部のジャージとユニホームを着ている。
予測を遥かに裏切られたシャイでも野郎でもない美少女は、意思の強そうな瞳で俺を睨み付ける。
「誰だお前? ってかでけえなぁ」
タッパがあるな。
俺とそんなに変わらねえ。
底上げブーツかと足に目が行くもスポーツシューズだった。
「私の名前は竜石堂漆葉(りゅうせきどう うるは)。あんたの隣クラスだよ。それより出会い頭に私の胸がでかいって失礼な奴ね。値踏みするかのようにまじまじと視線移動させてさ」
「初対面の相手に言うわけないだろうが! 頭大丈夫か?」
そんなつもり更々ないし。
確かに巨乳だがそんなの自慢することでもなかろうに。
ジャージじゃ収まりきれない二つの凹凸は主と一緒で自己主張が強い。
「私はあんたのこと知っているよ。有名人だからね。神無月雪之丞十七歳。白川桜華学園二年一組。一年ダブって実は先輩。金髪、日焼け、ピアスを初め装飾品を身に付けているワル。家は大金持ちで権力で素行の悪さをねじ曲げている」
有名人というか悪目立ちしている。
大袈裟で色々と誇張されているが、今更言い訳しても学校名と違い俺のスクールライフはサクラ色にならないな。
それより怖い、何この情報収集能力。
エフビーアイにコネでもあるの?
「それでバスケ部の美少女様が何の御用ですかな?」
「理由は簡単、先程スマホで撮った写真を消してよ」
「写真はとってない。妹に学校の日常を見せていたんだ」
「うわ…………やっぱ変態だったんだね! あんた私達のキスシーン撮っていたでしょ?」
「こいつ人の話を聞いてないな」
キス?
ああ、あの時の片割れか。
これは困ったぞ。
「未遂で終わったのもあんたのせいだ!」
「それは御愁傷様。でもな構ってられない。俺は忙しいからこれにて失礼させてもらうぞ」
失敗しようが成功しようが俺には関わりはない。所詮は他人事。
喧嘩だったら買うが女を殴る趣味はないので、脱兎のごとく逃げ出したいから踵を返す。
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