第2話神無月 雪之丞はみた

『おや? 我、夏の風物詩発見せり』


「どうかしたか?」


 不意に下から会話が聴こえた。

 スマホの角度へ首をかた向けると密会シーンが映る。


 眼下で行っているのはカップルが熱い抱擁、言い換えるとハグしている現場。

 そのまま女が目をつぶってキス待機していた。

 口角をカワハギのように尖らせて懇願しているのが滑稽。


「うちの生徒なのか、二人とも見覚えはない。でも、ユニフォームはバスケなので部員には間違えないのだろうな」


『兄様早くずらかった方がいい。また新しい伝説が誕生する前に』


 ここ教室真下はちょうど校舎裏と体育館裏になっていて死角なのだ。

 密会するには有名な穴場。

 弱点なのが今俺がいるここだけ。

 妹が警鐘するように危険な現場へ出くわしてしまった。

 俺は出歯亀じゃないので早くここから退却したい。


「ああ、分かっている」


『そろりです、そろり』


 幸い気づかれてないから牛歩戦術で亀よろしくそろそろと我が学舎を後にした。


 廊下に映る影法師は俺をからかうかのように、凹凸に当たり形を変形させる。

 もう、用事のない生徒は校舎に残ってない。

 と言っても俺では何の進展もないだろうが。


「ああいう現場の遭遇は極力避けたい。別にトラブルを起こしているわけではないが、先生からも生徒からも距離を置かれているのは痛い」


『ゆいあきらの兄、神無月 雪之丞は、手がつけられない札付きの不良だと学内では認識されているからですもんね』


 無論自分じゃそんなつもりは毛頭ない。

 健全な青少年と言っても過言ではないだろう。

 しかし、世間というか学園の評価は低い。

 遅刻しただけで教師と生徒会の恐喝容疑、早弁しただけで学級崩壊首謀者、授業中トイレに行くだけでボイコットの常習犯。

 まだまだ沢山ある。

 逆に親友の上杉流星は本物の不良なのだが、どういうわけか覚えめでたく優等生と評価されている。


「不良なのは諦めるとして悪ってのは納得がいかない。噂に尾ひれがついて取り返しのつかない事態になっている」


『上杉さんみたく上手くやればいいのに』


「やはり顔か? 日焼けしたような肌と金髪が俺のイメージを悪くしているのか?」


 でも、仕方がない。

 両親から受け継いだ大事な遺伝子だ。それを否定できない。

 母はヨーロッパの出、父はアメリカ日系二世。

 アウトローな外見だが誇りをもって日々生きている。


『兄様、下駄箱前でぶつぶつ呟いていると、身内の結晶でもフォローできないです』

「別にラブレターに期待してなんかいないぞ――ん?」


 おや? 自分の下駄箱へ手を入れると紙切れが置かれていた。


 旧校舎の空き教室へきて

 

 呼び出しをくらったのだ。

 今時律儀に靴箱へ手紙を入れるとは古風というか漫画の読みすぎというか。

 しかし誰だろうか、果たし状にしては芸がない。

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