テイク15 和解

『あのさ、今まで「生」の欲求を死ぬ度に一定分を上げてると思っておったんじゃが、ただただゲームに負けた時に起こるイライラ度を増やしていただけだった。それも一定まで上昇すると勝手に止まる仕様になっていたみたいいだ。道理でお主が全然発狂しない訳じゃ』


 神のバカさが如実に現れている。


 ここまでポンコツすぎると、可哀想過ぎて同情してしまうというか。

 この神、マジでなにが出来るんだよ。

 哀れすぎて辛辣且つ素直な感想しか出てこなかった。


 嗣はてっきりその欲求に対して適応しているのか思い込んでいたのだが、そうではなかったようだ。自分は何でも順応出来る素晴らしい能力を持っているのだと慢心さえしていた。そうでなかったと知ってちょっぴり恥ずかしい。

 でもラッキーだろう。もしずっと「生」の欲求が上がっていたのなら神の言うとおり嗣も今頃発狂していただろう。

 薬を使用する度に効果が薄れていくのと同じで、今は神が仕組んだ欲求の効果が薄れているのだと思う。


「まあいいや、行ってくるね」


 神がポンコツで心から良かったと思いつつ、嗣は赤いボタンを手のひらで押した。

 



———




「分かった、飯島。証明しよう。その代わり縄を解いてくれ。そうすれば絶対に誤解を解いてやる」


 嗣は現実世界に戻るや否や犯人である飯島に大声で呼びかけた。

 正直何の根拠もない。でも言うしかこの場は凌げないだろう。

 もう椅子に縛られたまま数えきれないほど死んでいる。生き残るためには何かを変えなければいけない。


「分かった。しかし嘘ついたらいつでも殺してやる」

「良いだろう。それで証明してやる」


 飯島は嗣に告白するだけで嗣を殺せてしまう。彼もそれを理解しての発言だろう。飯島が物分かりよくて嗣にとってはとても助かる。


 飯島は青色の筆箱からハサミを手に取ると、嗣の縄をあっという間に切り刻んだ。

 久しぶりに拘束状態からの解放である。


「助かった」

「そんなのはいい。どうやって証明する?」

「簡単だろ? 愛を証明するなんてな」

「嗣くん、何? きゃっ!」

「何をする!?」


 嗣は強行突破に出た。

 嗣は片手でそれぞれ斎藤と飯島の頭を掴むと、そのまま二人の頭を近づけさせて強制的にキスをさせる。


「人に彼女の盗られて嫌なら自分のものって証明して見せろ!! 恋人らしくキスでもしとけば良いんだよ!!」

「……んっ……はあ……お前っ、何を!?」

「………………………ん……ぷはっ、あれ? ————飯島くん?」


 咄嗟の思いつきでやったことだけど、斎藤は飯島とキスをしたことで目を覚ました。彼女は完全に自我を取り戻したようだ。

 なるほど、異性とキスさせると、もしくは好きな異性とキスさせると自我を取り戻せるらしいな。


「あ、秋。お、俺を分かるのか?」

「え? もちろんだよ、遼くんは私の彼氏なんだから」

「良かった。本当に良かった」


 飯島はとても安心したように涙を流してそっと斎藤を抱き寄せた。

 飯島は嗣の方に向き直る。真剣な面持ちで嗣を見上げた。

 

「家泉、今まですまなかった。代わりに俺も力になれることならなってやる」

「いや、いいよ。うーん、紐を解いてくれただけで助かったよ。じゃあな」

「おう、頑張ってな。言ってくれたらいつでも協力する」

「ああ、助かるよ」


 言葉と共に嗣は教室を後にする。

 教室を出ると、目の前に甲高い声を出す生徒から嫌われるような女性教師がいた。

 

「ちょっと君、待ちなさい」

「何ですか? 急いでるんですが?」


 腕を掴まれた嗣は止まることを余儀なくされた。振り返り女教師の顔を見る。

 ちょっと口調が強くなるくらいには嗣もイラついていたのであった。


「嗣ちゃん、大好きよ。私と付き合ってくれないかしら?」

「うわ、最悪じゃん……」


 ため息を一気に「はあー」と吐き出して力も一緒に抜けていった。

 あー、薄々気づいてたけど、先生もやはり判定に含まれるのか。やらかした。

 とにかく学校は危険ということだ。


 嗣の恋愛対象はせいぜいプラマイ2歳差だ。はるか年上の教師に興味などない。嗣にとってそれはちょっと気分悪くなるくらいにはやめてほしいのだ。

 最悪な要素として、告白してきた女性教師は、日頃からぐちぐち行ってくるおばちゃんお局先生なのである。尚更気持ち悪くて無理だ。


【バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン】


 せめて告白をしてくるのは可愛い女子限定してくれと懇願しながら嗣は死亡したのだった。

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デス・デス〜告白されたら死ぬ世界で俺は生き抜きたい〜 猫山華奈叶 @nekoyamakanato

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