テイク10 ただいま
「ただいま」
『え? もう帰ってきたの? 早くない?』
「しゃーなくね? あれはもうさー」
想像してみてほしい。いや、想像しなくても考えなくてもわかることだろう。途中、素人からプロがゲームを代わるとして、何も動けない状態で変わってみろ。プロさえも理不尽だと言ってそのままゲームオーバーになるだろう。
つまりはそう言うことだ。
誰であってもどうしようもない場面はある。例外があるならば、何かバグを引き起こすこと、くらいだろうが現実世界にバグも仕様もないけど、クソはある。神に侵されたこの学校はクソだらけだ。
「ってことで殺してくれ。殺すんだろう?」
『お前、わざと言ってるだろ? わしのさっきの反応聞いたか? 「え? もう帰ってきたの?」だぞ? まだ準備出来てる訳ないだろう? お前がもっと生き残ってくると思ってゆっくりやってたわ』
(そういえばコイツ、ポンコツだった。なるほど、なるほどねー。あはは、なるほどー!!!)
このままだったらまた時間切れになるだろう。警報で学校が休みになるのを願う一部学生のように嗣も今か今かとその時を待ち侘びた。
『あーーー、治らねえー。もう一回行ってこーーーーい』
「ラジャーーーーーーー!!!! うっしゃーーーーーいい」
『クソおおおおー! もっと生き延びてきやがれええええ』
「おっほーーーーーい」
警報が休みになる時間まで解除されなかった時のように嗣は大いにはしゃいだ。
嗣はむしろ神に押し出される形で闇世界を後にしたのだった。
———
でも、現実に戻ったところで拘束状態から解放されていないようだ。
嗣はその現状に思わず重いため息を吐いた。
「俺に何をどうしろと?」
「どうしたの? 嗣くん、大好き。可愛い。」
「好き好き好き。ああ、愛しい」
「私の嗣くんはずっと一緒だよ」
永遠ループとは恐ろしい。それを実感することで改めて感じる。
「誰か、逃がしてくれ」
「ダメだよ? 絶対に嗣くんはここから動けないんだよ」
「と、トイレ行かせてくれ」
「そこでしていいよ? みんながお世話するね、えへへ」
ああ、やっぱりそう言うことだ。ここで漏らせってことだ。糞をしても、放尿しても、男子生徒は知らないが、女子生徒は引くどころか喜びすらするのではなかろうか。どうすんだよ、これ。収集つかねえぞ。マジで。
結局自分の死ぬ運命からは逃れられないという事なのだろうか。
最大限に抗いたい。なのに数の暴力に屈してしまう。
「クソ、ゴミゴミゴミがよ!」
「好き、アイアイアイしてる!」
「真似事すんな、バカが」
「愛しているよ、嗣君を」
もはや誰が喋っているのかもわからない。教室にいる奴らは全員敵という解釈で間違っていない事だけはわかるが、他はさっぱりである。もう何もかもめちゃくちゃだ。
何を言っても無駄。自分の声が届かないのはどれだけ悲しい事だろう。
そう言えば、ネガティブ発言をしたらどんな反応が返ってくるのだろうか。例えば自ら死ぬなんて言い出したら。
「死にたい」
「ダメだよ? 死ぬなら私たちと一緒だよ?」
「そもそもその状態じゃ嗣くん、死ねないじゃん」
「やめてよー、驚かさないでー。嗣君がいなくなっちゃったら私死んじゃう〜」
「へー、そーかいそーかい」
そういうことだ。訳分からない言葉が飛び交う結果となった。
今回も結局このまま死ぬのだろう。この状態から生き残りたいなら本気で作戦を一から練り直す必要があるようだ。
死ぬのも早いし、ワンチャン神が準備出来ていない可能性もあるので、今回は甘んじて死を受け入れよう。結果的に生き残れば嗣の勝ちなのだ。
「しゃーないな、どうぞ誰か俺に告白してください」
「「「「え? いいの!?」」」」
「いっつもしてるやろうがい」
記憶を失い目を燦々と輝かせている彼女らに思わず突っ込んだ。が、別に誰も気にしている様子などありやしない。
そして嗣は今からもう日常茶飯事化してきている彼女らからの告白を受ける。
「「「「「嗣くん、好きです! 付き合ってください!」」」」」
【バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン】
嗣は目を瞑ったまま死亡した。
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