テイク9 おかえり
『おかえり』
「完全にバカだった。何してんだ、俺」
『そんなの知るか自分に聞け』
「あんたに言ってない」
『あっそうかい』
再開して早々神とそんなやりとりが行われていた。画面が神々しく光っており、嗣は半目で画面を注視する。
『ああ、そうだ。お前はもう死ぬ』
「は? どういうことだ?」
『そのまんまの意味。もう何度も生きられる期間は終了だ』
「は? ああ、さっきかなり生き残ってるから俺に生きられるのが怖いんだろう?」
『どう思っても構わないが、お前が死ぬことには変わりないぞよ?』
「あっそ。ならこのまま煮るなり焼くなり好きにやってくれ」
『ああ、そうするさ』
どうやら嗣の戦いはもうここで終わりを、迎えたようだった。あまりにも急であまりにも呆気なく告げられ嗣の返事も雑な感じになる。
もちろん内心は「生」の欲求が嗣を貪り尽くしイライラが募りに募っているだが、嗣も順応し始めていた。あり得ない適応を見せている。ただ過度なストレス状態は身体状態によろしくはないだろう。早く安全圏に逃げることが求められる。
人間である嗣は神に抵抗など出来っこない。仮に抵抗しても人が目の前の弱った動けぬ虫を潰すくらいには簡単にあしらわれてしまうだろう。もう自分は現実世界で生きられない。
神は画面の向こう側で何か作業を始めたようだ。ガチャガチャ、と変な音が嗣の下にまで届いてくる。
『……あれ? おかしいな……』
「どうしたんだ?」
『何でもない。わしに話しかけるな!』
「あっそうですか」
『っち、時間もないってのに』
「時間?」
今までどれだけ闇の世界に居ても神が時間についての問題を出すことはなかった。神は今になって焦ったような声で作業しているらしい。一体何をしていると言うのだろうか。
『貴様を地獄に送るための手続きみたいなものを今している。黙っておけ』
「ふーん、天界でも人間界のようなものがあるんだな」
『っち! 過ぎちまったーーーーーーーー!! ふざけんな!!!!』
「え?」
『またお前を現実世界に送らなければいけなくなった』
嗣はその情報だけで憶測してみた。地獄や天国に送るには制限時間が設けられてるのではないだろうか。なんでそんなめんどくさい設計になっているのか気になるところであるが、嗣にとっては首の皮一枚繋がった状態になった訳だ。その設計に助けられたのである。
「やったぜ」
『まあいい。一回や二回で変わらないだろうしな。次は絶対に地獄送りにしてやるからな』
「なら俺はこの世界で一度も死ななければいいだけだな」
『お前が現実世界にいる間にこっちの設備全部整えて待っといてやるよ。じゃあな行ってこい』
「ヤッホーい、バイバーーーーい」
『またしてもバカにしおってこの野郎』
———
現実世界に戻った嗣は教室で体を拘束されていた。ガムテープやロープ、どこから持ってきたかも分からない手錠までつけられて身動き一つ取れない状態からのスタートだ。
椅子に頑丈に括り付けられており、体が痛いくらいきつい。
授業中にも関わらず全員が自由に動き回っている異様な光景が広がっている。教師は居らず、代わりに黒板に「自習」の文字がある。
まあ教師だって勉強を教えるどころではないだろう。事情の知らない教師はきっと生徒らに呆れて職員室に籠っていることだ。
「え? ここから?」
「嗣くんがいなくなっちゃう気がするの」
「だからね、みんなで協力して嗣くんを縛ることにしたよ」
「一生ここから動かないで? 全部私たちがお世話してあげるから」
もう一線をとっくに超えてしまっており、彼女らは暴走を始めている。
真鍋由香も鈴川初音も黒山美沙も斎藤秋も熊谷由香里も全員の目のハイライトが消えて、その目は死んでいた。何よりも嗣は恐怖を感じる。
逃げられない、そして抜け出せない。そんな現実が怖すぎる。
彼女らの圧に負けて嗣はついには折れた。
「もういいよ。流石にもう初手から詰んでる。殺してくれ」
「「「「嗣くん、付き合ってください!!」」」」
【バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン】
嗣は初めて納得できる死を遂げたのだった。
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