テイク8その4 優しさの連鎖
野球グランドに向かうとピッチャーマウンドにて一人の女子生徒が座り込んでいた。ピンク髪のツインテールに青色のリボンをした女子生徒の背中は何だか悲しげに見える。
さっき校長に優しさを教わったばかりの嗣はその女子生徒に声を掛けに向かう。
「やめときなさいよ、構う必要なんてないわ」
「まあ大丈夫じゃないか? 一人で逸れているみたいだし。泣いている女の子はほっとけないだろう?」
「それはそうだけど……知らないわよ? あなた死んでも待っていないわよ?」
「ああ、大丈夫だ。仮にそうなっても先に進んでおいてくれ」
横を歩く白銀に止められながらも嗣は彼女の忠告を聞かず、蹲る女子生徒に手を差し伸べた。
「ねえ、そこの君。大丈夫?」
「はい……ありがとうございます」
「何があったの? 立てる?」
「いえ、何でもありません。あ、ありがとうございます」
彼女は俯いたまま嗣の手を掴んだ。
嗣が引っ張ろうとする前に彼女が嗣を彼女の方へと引き寄せる。嗣は「うわっ!」と声を漏らしながら女子生徒の前に倒れ込んだ。
「え?」
「嗣くん、やっとつーかまえたよ。いひひ」
「え?」
「嗣くんは私のモノだ。誰にも渡さないから。いひひ」
「お、俺はお前がだれかも知らない」
「私? 忘れちゃったの? でも嗣くんだから許してあげる。私の名前は
白銀は嗣の死を理解して、そそくさと二人から離れていく。
「あ、あ、まっ……」
「あんた、バカでしょ? 私はやっぱり一人で行く。じゃあね」
「ほら、あんなの放っておいて私と一緒に楽しもうよ、嗣くん」
「あ、嫌だ、嫌だ、嫌だあああああああああああああああああああああああああ! 死にたくなあああああああああああああああああああああああああああい!! やり直したくなあああああああああああああああああああああああああああい!!!!」
「ばーか」
嗣に抱きついて離さない黒澤美沙と、目を押っ開いて手を天へと伸ばす嗣と、気にも留めない白銀。
嗣の大きな声だけが大きな野球グラウンドに響いた。
——これはお約束。
「嗣くん、大好きだよ? 私と付き合ってください」
【バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン】
嗣は久しぶりに死亡した。
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