第4話 初依頼

 レギオン遺跡は村から歩いて十分もしない場所にあった。そんな場所に魔物が住み着いているのだから村人としては気が気じゃない。門番が60代のお爺ちゃんだし。

 何人もの冒険者が挑み敗北した魔物。S級冒険者のエステラさんなら無理なく勝つだろう。問題なのは私が生き延びられるかである。本当ならエステラさんに任せて村に待機していたかったが、村も村で色々と不安なので、同じ不安ならまだ強い人について行った方がいいだろうということで、私もレギオン遺跡にやってきた。

 洞窟の入口は岩を抉ったところにあった。どう見ても人造のものだった。


「『レギオン遺跡。お入りはこちら⇒』。やる気無くす看板だな」


 正方形の形をした今まで見た事もない光る石で作られた入口に木製の看板が立てかけられていた。


「村長が置いたらしいですよ。冒険者が迷わないようにと。それから遺跡内部には周り道や即死トラップが666個ほど設置されていたそうですが、全て村人で解除しているので、真っ直ぐ行けば件の魔物の元へたどり着けるそうです」

「ダンジョン攻略の醍醐味がぁ! ていうかあのご老人たちそんなとんでもフィジカルの持ち主だったの?! 自分達で魔物倒せばいいじゃんか!」

「村長さん曰く魔物は怖くてムリらしいですよ」

「666の即死トラップは大丈夫ならイケるだろ……」


 というわけで、開始早々興を削がれてしまった訳だが、遺跡攻略を開始した。

 エステラさんが先に行き、私はそれに続く。トラップは無いという話だけどもしかしたら残っているものがあるかもしれない。

 遺跡の中は壁も床も石造りで、所々に入口の所にあった光る石が置いてある。これが松明の役割をこなしている。だが光は青緑色なので、冷たい印象が遺跡内に漂っていてやや不気味だ。背後から声を掛けられたりしたら失禁してしまうだろう。


「レイさん」

「わひぃぃぃ?!」


 突然背後からエステラさんの声が聞こえてきて、ビクリと文字通り体が震えた。


「エステラさん……後ろからなんて卑怯だよ……」

「リラックスですよ」

「むしろリラックスできなくなったよ」


 いつの間にエステラさんが後ろにやって来たのか分からないので、むしろ落ち着けなくなってしまった。

 彼女はユーモアのつもりであんなことをしたのだろうが、思いっきり逆効果に終わったことに気付いていないようだ。しっかりしているようで、抜けているのはここまでの旅で少しずつ分かってきたけれど、天然さをこんな場所で発揮しなくても。


「後ろから急に声かけられたらエステラさんもびっくりするでしょ」

 

 前を歩くエステラさんは、慎重に正面や横の壁を観察している。


「私はS級冒険者ですから、ちょっとやそっとのことじゃ驚きませんよ」

「へぇ」


 後ろから驚かされた恨みは大きい。

 そんなことを言うのなら意地でも驚かしてやろうと思った私は、前を歩くエステラさんの胸元に両手を伸ばした。

 彼女の両胸をわしっと掴むと、吸い付くような感覚が両手に伝わる。私のではこうはいかない。


「……!」


 エステラさんが立ち止まり、肩越しに私を見た。


「確かに驚かない……流石S級」

「あの、手を離してください。凍らされたいなら別に構いませんが」

「すみませんです」


 早く退かないと消すと言いたげなエステラさんの瞳に気圧され、私はすぐに手を離した。もう少し感触を楽しみたかったが、下手なことをしたら永遠に感触を感じれなくされそうだ。


「全く。私にそんなことをするのはあなたくらいですよ。知らないから出来るのでしょうね」

「……エステラさんの過去について聞いてもいいの?」

「今はやめておきましょう。長い話になりますし……それに……」

「それに?」

「どうやらやらかしてしまったようなので」


 エステラさんの言葉の意味を理解した頃には、エステラさんが踏んでいる床が消えていた。落下していくエステラさんの体。私も勢い余って転落しそうだったが、壁から生えた氷の枝が私の体を受け止めた。


「エ、エステラさん?!」

「……こ、これも想定の内です……よ?」

「やらかしたって言ってたのに?!」


 エステラさんが暗闇へと落ちていく。私はそれを見ていることしか出来なかった。

 彼女が落ちた穴を飛び越えて、先を進むべきかどうするか考えた。穴の中は真っ暗闇で、どうなっているのか分からない。エステラさんが落ちてから少し経っても落下の音が聞こえないので、落ち続けているのか、または何らかの方法で落下を回避したか。

 普通に考えれば前者だしもう彼女の命は無いものと見るべきなのだろうけれど、ここは異世界で彼女はS級冒険者だ。案外、余裕なのかもしれない。

 それに想定内と言っていたし。

 ……また胸揉みたいから、生きていてほしいというのが本心だ。


「まあ先進むかな」


 今更帰るのも村の人達にどう説明するかで悩むし、対人で気まずい思いをするくらいなら魔物を相手に潔く死んだ方がいい。

 私は魔剣を呼び出してから遺跡を奥へと進むことにした。

 遺跡と言われているだけあって壁には何らかの文字のような絵のようなものが描かれていた。この世界の成り立ちなんて全く知らないので、見てもチンプンカンプンだ。遺跡の最奥のボスとかがこういう絵に関係しているとかはありがちだけど、今回の敵は余所者ということなので、両方ともにアウェー戦だ。

 紳士的なウェアウルフを倒した実績は思いの外、自信につながっていて、考えれば考えるほどやれる気がしてきた。しかし私の経験上、こういうよく分からない自信を持っている時に限ってとんでもないミスをしでかすのだ。主にテストの時なんかがそうだ。


「テストか。今にして思えば懐かしいよ。もう二度と受けることは無いんだろうね」


 果たして私は、私が居た所に帰ることになるのだろうか。

 そうなったとしたら私はどうしていくのだろうか。

 思考停止。

 考えていても仕方がない。

 それに面白くない事を自分から考えるのは愚かな行為だ。自問自答の答えが何になったってここで死んでしまえば全てお終いなのだから。

 村人が先んじて解除したという話は本当のようで、私は何の問題もなく遺跡を進んでいた。迷いそうな道には必ず標識があって私はそれの通りに道を選んだ。

 エステラさんが落下したのは相当運が悪かったのだろう。

 そして私の目の前には下へ行く階段があった。階段の先はどうやら広い空間になっている様で、そこから異様な気配が階上の私の元まで届いていた。


「……よし」


 パチッと両頬を叩いて気分を入れ替える。

 ここから先は本物の死地だ。ゲーム気分はここで改めなければ容易く死んでしまうだろう。魔具の力で強化されたとしても、私の中身はただの女子高生。戦闘の経験値は赤子レベルだ。


「行きますか!」


 階段を下りていく。

 カツカツと足音が響く。

 何度足を動かしても、一向に下まで辿り着かない。どうやら想像以上にビビっているらしい。


「こんなに怖いのは幼稚園の劇で、代役で主役やらされた時以来かな」


 あの時は確か本来の主役の子が、当日にビビって腹を壊したんだったか。

 まああの時の気持ちに比べれば……いや比べ物にならないだろ。バカか私は。

 無駄口を叩いていたら、いつの間にか階段を下りていたらしい。

 やけに広い空間だった。

 壁と床が光る石で構成されている。この光はサイレンのように点いたり消えたりを繰り返していて、精神的に大変ヨロシクない。周期がずれているのか真っ暗になることはないけれど、常に視界が悪いのには変わりはない。

 そして話に聞いていた通り、多数の冒険者がここに挑んだのだろう。彼らの死体や成れ果てがあちこちに置かれている。置かれているという表現はおかしいか。正しくはそこで死んだのだ。

 鼻腔を突き刺す腐臭に顔をしかめる。胃液がせり上がって来るのをどうにかこらえた。

 甘い思考は捨て去る為に私は目の前にいるそいつに注意を向けた。


「例の魔物が……あれか。ゴブリン? ドワーフ?」


 件の魔物はこの空間の奥。

 階段から真っ直ぐ行った果てにいた。

 まるで玉座のように積まれた屍の山に腰かける姿は地獄の王のようだ。座っているので正確なところは分からないが、恐らく小学生くらいの身長で手足は生えている。

 刀身がボロボロで黒い柄のナイフを大事そうに手入れしている。

 片目の辺りに切り傷があるのか隻眼だ。

 薄緑色の体表といいゴブリンを連想させる見た目だが、それにしてはやけに貫禄がある。ゴブリンというと比較的弱い方にあたる魔物という認識だけど、それはあくまでゲームの設定だけなのだろうか。

 または百戦錬磨の魔物に対して私が単に怖気づいているだけなのか。


「……」


 魔物が私を見た。

 それだけで私は矢に射抜かれたような衝撃を受けた。心臓の鼓動を確認して、自分がまだ生きているのだと知った。

 相手が背丈の小さい魔物だとしても、この依頼はS級冒険者を派遣するようなレベルだ。本来なら私みたいな素人が相手する奴じゃない。何かの間違いで生きて帰れたらイリスに恨み言を吐こう。


「女か」


 魔物が口をひらくと、掠れた声が響いた。

 コイツも喋れるらしい。この世界の魔物は喋れる個体がデフォルトなのか。


「生贄など求めてはいないのだがな」


 魔物は玉座から降りた。全身を黒い革鎧で包んでいる。よく見れば鎧は継ぎ接ぎで黒色も何かがこびりついた結果なのだと分かる。

 あの鎧はここの死体からはぎ取って作ったのだ。それはさながらトロフィーのよう。

 さてどうしようか。あの魔物は私を村人がよこした生贄だと思っているらしい。剣は持っているが眼中にない、つまり見抜かれている。


「女。生贄だというのなら逃げろ。挑戦者だというのなら剣を構えろ」


 全力で謝れば逃がしてくれそうな懐の広そうな魔物だ。だからこそ冗談じゃない。

 私はここに命を賭けにきたのだ。

 せっかく盛り上がったところに水を差されてたまるか。


「生贄じゃない」

「ならば、ここで死ね」


 魔物が地面を蹴る。

 私は割と反射神経には自信がある方だった。ドッジボールなんかでは私を狙ってきた野球部の男子が投げるボールを綺麗に回避したりして、クラスの人から賞賛を受けた記憶だってある。

 なので魔物が少しでも動いた瞬間に、私は全力で横へ跳んだ。

 強化された身体能力は私の体を想像よりも大きく飛ばしてくれたので、着地に失敗した。

 お尻から着地して、痛みに呻くのも一瞬。目の前に魔物がいたので、すぐに状態を起こして後方へバックジャンプ。今度は上手く調整できた。


「動きは悪くない。魔力も中々。しかし経験が浅いな」

「思いっきりバレてる」


 魔剣を構えるけれど、あの魔物の攻撃を回避は出来ても、それに合わせたりカウンターなんて出来そうもない。下手な隙を晒せばきっと一撃で私の命の灯は吹き消されるだろう。一瞬のミスも許されない。

 だからといって耐久は悪手だ。エステラさんが生きていてこちらへ向かっていることが分かっていればそれも手だけど、私は彼女とはもう会えないだろうと思っている。私が死ぬのか、彼女が死ぬのか、そこは分からないけど。

 だから守るのではなく、こちらも一撃必殺を狙う。

 とりあえず攻撃すれば何かの間違いで攻撃が当たって、何かの間違いで魔物が死ぬ可能性だって億に一つはあると思いたい。


「ねぇ、聞いてもいい? あなたは何でここにいるの? 出て行けって言われてもここに居るんだからそれなりの理由があると思うけど」

「それを貴様に話す理由があると思うか?」

「無いね。残念だけど」


 本当に残念だ。

 会話による説得は力無い者の最終手段だというのに。

 どの世界だって結局は暴力が物を言うのだ。

 魔物が私に肉薄する。奴が右手に持ったナイフを振り下ろす。それに構わず私は魔剣を振り上げた。


「ちぃ!」


 ナイフを弾いたが、魔物には傷一つ付いていない。

 だけど奴の武器は飛んで行った。追撃を仕掛ければ……。

 私がよく分からない自信を持ってことに挑む場合、大抵やらかしをしてしまう。

 私は見誤っていた。奴がナイフを持つことで手加減をしていたのだということに気付けなかった。

 私の目、左目へ向けて奴の拳が突き出される。

 素早い攻撃。見ることは出来ても回避は不可能。

 眼前に迫る死に私は……


「……!」


 まるで何かに操られるかのように自然と体が動いていた。

 頭で思うよりも先に体が勝手に動き、魔物の拳を正面から受け止める。ビリビリとした痛みが受け止めた方の腕に走る。


「?」


 私自身、自分が何をしたか全く分からなかった。反射神経には優れているが、これは反射とも違うだろう。

 魔物が私から離れるのを見て、私は追撃をかけた。魔物は驚愕しているのか、先程までの洗練された雰囲気が消えていた。チャンスがあるとしたら今しかない。


「何だ。今のは、何をした」

「知らないよ。知らないけど、ここでやらないと後が無い」


 魔物が地面に落ちているナイフを手に取り、私に向けて投げつけて来た。

 勢いよく駆け抜けている私にナイフを回避するような余裕はない。ならば撃ち落とすのみだ。生憎とナイフの動きは目で追えている。


「はぁ!」


 ナイフを弾き天井に突き刺し、そこから再度地面を蹴った。音を置き去りにする程の速度で私は魔物に肉薄し、


「これで、トドメ!」


 魔物の顔面へ向けて思い切り魔剣を叩き込んだ。

 真っ赤な魔力を放ちながら魔剣は魔物を貫き吹き飛ばす。轟音が洞窟内に響き渡り、吹き飛んだ魔物の体が壁に激突すると、ちょっと心配になるくらいの振動が起きた。

 顔面がぐちゃぐちゃの状態で地面に落ちた痛ましい姿の魔物を見て私は現実に立ち直る。

 体が動いて来ると同時に心も勝手に昂っていたようで、一旦落ち着いてみるとさっきまで見たいな機敏な動きは出来なくなっていた。何よりも、自分を殺そうとしている相手だからってあそこまで遠慮なくやれるとは思わなかった。


「……とりあえずなんとか勝った……! やった」


 S級相当の魔物を単独撃破した新人なんて話題になるに違いない。

 階段を登ろうとした時、他に何か落ちてないか気になったので魔物がいた方を振り返った。魔物の死体は無かった。紳士的なウェアウルフやエステラさんが倒したグリーンドラゴンとやらのの時と同じだ。


「ん?」


 魔物の死体があった場所には一振りの短剣が落ちていた。それはさっきまで魔物が持っていたものに似ているが、刀身は綺麗だった。


「……ドロップアイテムか。貰って行こう」


 短剣に手が触れると、手に痺れるような痛みが走った。私は慌てて手を引っ込める。まるで焼けたようにじんじんとしている手を見たが、何とも無く綺麗なままだった。


「私の美しい手に傷がつくとこだった。……って何言ってんだ私」


 短剣は消えていた。違和感を感じたので、目を閉じて意識の奥底へ集中すると、魔剣アケディアが存在する領域に、先程の短剣が存在していた。

 短剣が手の中にあるイメージをすると、黒い柄の短剣が手の中に現れた。


「これも魔具ってことか」


 ステータスを使用すると、魔具の情報が現れた。名前は『ファントムペイン』。

 幻肢痛の名を持つ短剣型の魔具で、能力は『幻を生み出す』。名前も相まってイマイチどういう能力なのか分かりかねるが、使ってみれば何か分かるだろう。冒険者としてやっていく以上、争いは避けられないだろうし。

 魔具を消してから遺跡の来た道をそのまま戻って外に出た。エステラさんと合流することは無かった。


「……私が生き延びるパターンは想定してなかった……」


 これからどうしようと途方に暮れていると、地面が揺れていることに気付いた。

 遺跡の入口の前、木々が生い茂る辺りで、何かを引きずるような音がしている。音のしている方へ近付いてみると、地面がずれて地下空間へと繋がる穴が出来た。。

 うっすらと床らしきものが見えるが、かなり遠い。落ちたら容易には戻ってこれないだろう。私がしばらく穴を見ていると、そこからエステラさんが出て来た。梯子も階段も無い推定十メートルはくだらない高さを一っ跳びだ。元の世界の常識から考えたら足が折れるなんて話じゃ済まなさそうだけど、魔力のあるこの世界では割と普通なことだ。


「やっぱり生きてたね」

「レイさんこそ、てっきり遺跡の中で一人寂しく野垂れ死んでいたかと」

「酷いなぁ。それにあそこ死体はたくさんあったから死んだとしても一人じゃないよ」

「例の魔物にやられた人達ですね。とりあえず村長さんへ報告に行きましょう」

「私が魔物を倒した……ってこと疑ってないの?」

「魔具を使えるあなたならこのレベルの遺跡は問題ないと思ってましたよ。だからあえて落ちたんです」

「あえて……? 思いっきりやらかしたって言ってたよいうな……」

「あ、あえてですよ。人の失敗を笑う冒険者はロクな目に遭わないですよ」

「失敗したんだね……。犬も歩けば棒に当たるって言うし、一度の失敗くらいでめげないで!」

「何で私が励まされてるんですか?!」


 村への同中でエステラさんがレギオン遺跡の地下の話をしてくれた。

 どうやらエステラさんが落ちた先はこの村の人達も踏み込んでいない領域だそうで、私が戦ったあの魔物よりも危険な個体がわんさかいたらしい。そんな危険地帯を無傷で駆け抜けていたのだからエステラさんは流石としか言いようがない。私が地下に言っていたら間違いなく死んでいただろう。


「そういえば、魔物を倒した時にこんなのを手に入れたんだけど、これも魔具だよね」


 私は手元にファントムペインを出して、エステラさんに見せた。


「……まさかあの大剣失くしたんですか?」

「いや、あるよ?」


 今度は魔剣アケディアを出した。するとファントムペインは消えてしまった。どうやら一回に一個までしか出せないらしい。

 エステラさんが何やら神妙な面持ちで私を見ていた。そんなにじっと見られると何だか気恥ずかしいものだ。


「私に見惚れるのは仕方がないけどさ。何か言ってくれないと不安になっちゃうよ」

「何言ってるんですか」


 村に辿り着くと、60代の門番が居眠りをしていた。

 本当にこの村大丈夫なのだろうか。近くに危険な遺跡があるというのに。

 私が倒したあの魔物。奴がちょっと食料を求めて出てきたら大惨事まっしぐらだ。

 ……何か見落としているような気がする。

 あの魔物は生贄を求めてはいなかった。だったら何であそこにいたのだろう。

 死んでしまった……いや、既に私が殺してしまっているのでその理由は永遠に分からない。私に実力があれば知ることも出来たのだろう。

 何であれそれはもう終わったことで、その結果何が起きたとしてもそれは私とは関わりが無い事だ。私は依頼の通りに魔物を倒した。ただそれだけだ。

 村長の家に入る前に、エステラさんが私の方を振り向いた。


「どうやらあなたは思っていた以上に、特異な人間なのかもしれません」

「え?」

「魔具は契約によって扱うものとは前にも言いましたが、基本的に一人につき一つまでなんです。新たな魔具と契約をするには、それまで契約していた魔具の契約を解除する必要があるんです」

「……なるほど。二つの魔具と契約している私は将来有望ってワケだね」

「そういうことです。では、報酬を貰いに行きましょう」

 

★☆★☆


 報酬を貰った私達は村を出た。

 魔物が出現した理由は村長は知らなかったし、エステラさんが言っていた通り地下遺跡のことも知らないようだった。とりあえず地下遺跡の魔物も含めて殲滅済みだとエステラさんが言うと村長はホッとしていた。

 どうやらあの遺跡をアミューズメント施設にするという計画が進められているらしい。地域に人の流れを作ることで魔物の活性化を防ぎつつ、他所からの観光客を取り入れようとのことだが、肝心要の遺跡に魔物がいるんじゃ話にならない。

 バカバカしい理由だけど依頼は依頼。というか地下遺跡なんてものがある以上、エステラさんも踏み込めていない領域がある可能性だってある。

 アミューズメント施設の計画はきっと頓挫するだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エンドワールドの転生者 Naka @shigure9521

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ