ふわふわ!独り言コミュニケーション

奈名瀬

ふわふわ!独り言コミュニケーション

「なあ、犬って好き?」

「犬? 結構好きだよ」


 質問に答え、『犬神明神いぬがみみょうじんは知ってる?』と続けようとした瞬間――ぬいぐるみをもらってしまった。


「……いらないか?」

「……ううん、貰う」


 直後、彼がほっとしたように口元を緩める。

 その横顔がくすぐったくて、すぐにもらったぬいぐるみへと目線を逃がしてしまった。



 ぬいぐるみを自室へ連れて帰るなり、「う~ん」と唸る。

 ホラー、伝奇ジャンルの本で埋め尽くされた本棚は壁と呼んで差し支えない程に隙間がなく、棚や机にもぬいぐるみを置けるような場所などなかったからだ。

 でも、せっかく彼がくれたのに飾らず仕舞うようなことはしたくない。

 そこで、唇を結んだまま枕元へと向き直った。

 ぱちりと目が合ったのは幼い頃から一緒にいるにゃんこのぬいぐるみ。 


「…………」


 の機嫌を窺うように、そっとベッドへと座り込み……その後、「……喧嘩しないでね?」と小声で呟いてからふたつのぬいぐるみを並べた。

 すると、手を離した途端、わんこがにゃんこに向かってこてんと傾く。

 それは、ぬいぐるみの形状が自立に不向きだったために起きた現象だ。

 しかし、私の目にはふたりが恋人みたいに肩を寄せ合ったようにしか見えない。


「……おぉ」


 気付いた時にはスマホのカメラがオンとなり、シャッター音を聞いていた。


 それから、『いいかも』と思える写真に出会うまで撮影会は続き、満足のいく写真が撮れた時、『そうだ。彼に送ろう』と思いつく。


 メッセージアプリが起動させ――、


『見て、仲良し』


 ――なんて一言を写真に添えて送ったが、なかなか『既読』と表示されない。

 だから、ふっと視線をあげ、再びふたりに向かって話しかけた。


「ねぇ、ふたりはお礼何がいいと思う?」


 声は返ってこない。

 けど、胸の奥から彼女たちが言いそうな言葉が溢れてきて――、


「それ、いいかもね」


 ――つい、そんな独り言を言ってしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふわふわ!独り言コミュニケーション 奈名瀬 @nanase-tomoya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ