第28話 少女達が征く戦車の道。
よく晴れた天下、戦車を操る二人の少女が風を浴びて走っている。
「すごくいい天気!雲一つないじゃん!」
そのうちの一人、美咲が空を見上げながら言う。
「うん!絶好のドライブ日和だねぇ〜!」
その感想に、もう一人の少女も続く。
彼女の言う通り、空には雲一つ浮かんでいなくて。
鮮やかで、眩しくて、なんとも素敵な青色が広がっていた。
しかしながらこのコース、何も空を見上げながら走っていればいいだけの、お遊びコースという訳ではなかった…。
「美咲、前!前!!!」
後続の秋葉が急に大きな声で叫ぶ。
「きゃあっっ…!!」
名前を叫ばれた美咲は…。
「あ…あぶなかった…!!」
呼びかけの甲斐あって間一髪のところで、目の前の危険を回避できた。
「こ…これは…!!」
二人のいく手を阻んだものの正体。それは…
「塹壕!?」
そう。彼女達のいく手を阻んだのは、深さ2m幅1mはある塹壕だった。
「す…すっごい!再現度高すぎない!?」
それらが数十メートルにわたって張り巡らされている光景に、秋葉は思わず見入ってしまう。
「なぁ〜んだ!落とし穴かと思ってびっくりしたよ〜」
そんな彼女の前で、胸を撫で下ろす美咲。
落とし穴ではないことにホッと一安心した彼女は、躊躇なくその堀の上を進み始めた。
戦車の主な設計思想として、”人の耐えられない攻撃を耐え、人の進めない道を進む“というものがあり。
その設計思想が十二分に活かされた代表例として挙げられるのが、いわゆる塹壕の突破だった。
四方八方にいる歩兵からの銃撃に耐え、乗り越えるには手間がかかる堀を無視して進める。
そんな画期的な車両として生まれたのが、戦車なのだ。
「これくらいの幅なら、余裕で通れるよね」
そのため幅1mほどの堀であれば、戦車は難なく走破できるのである。
初めは驚かされた塹壕も、二人は難なく通過した。
「いやぁ、普通に整備された道だと思ってたからさぁ〜」
「だよね〜初見だよ絶対びっくりするよねあれ〜」
二人は、周遊コースの思わぬ作り込みに、やや文句混じりの感想を述べる。
出発前に教官の手を払い除けたことなど忘れて…
それからしばらく、周遊コースを走り続けていると…。
「あれ?なんかあそこ渋滞してない??」
先頭を走る美咲が、そう口を開く。
見てみると、確かに前方の曲がり角辺りで複数両の「Pz.IV」が立ち往生していた。
「なんだろうね?いってみよっか!」
「うん!」
秋葉の提案に、もう一人も賛成する。
渋滞に近づくにつれて、なぜか助けを求めている様な声が聞こえてきた。
「え…美咲…これなんかやばいんじゃない??」
聞こえてきた声に対し、若干の不安を覚える秋葉。
「そうだね…ちょっと急ごうか!」
秋葉の考えに賛同した美咲は、少しスピードを上げる。
程なくして、目標へと到達した二人。
彼女達がそこで見たのは…。
「…あ!ぬかるみにスタックしたんだ!!」
渋滞の先には、ぬかるみに履帯がハマってしまった「Pz IV」が立ち往生していた。
「ちょっと助けが要りそうか、私聞いてくる!」
原因がわかった美咲は戦車から降り、詰まっている前方車の方へと駆け寄っていった。
「ありゃ〜、お腹まで擦っちゃってる…」
一人残った秋葉は救出用のロープを用意しながら、事の惨状に気の毒そうな声を漏らす。
先の「Pz.IV」は右の履帯が完全にハマってしまい、全くもって動けそうにない様子だった。
「今、救援の車両が後ろから来てくれてるって…!」
そんな惨状を秋葉がしばらく見ていると、前の人と話していた美咲が戻ってきて教えてくれた。
「本当!?よかった〜、それならもうしばらくしたら動き出しそうだね…!」
彼女の話を聞いた秋葉が、そう呟いた時…。
「あ、それはもう大丈夫だよ!」
「…え?大丈夫??…ってどういう……」
美咲から妙な返事が返ってきた。
「実は…前の渋滞の人たち、み〜んなリタイアするんだって」
神妙な顔をする秋葉に、美咲がケロッとした顔で答える。
「え!?みんなリタイアするの??」
予想外な答えに、秋葉は目を丸くする。
彼女曰く、スタックした前方車を見てみんな怖気付いてしまったらしい。
「そうなんだ…普通に轍がついてるとこ走ればいいんだけどね…」
「だよねぇ…私もそれ思った…」
前方の人らの発言には、二人して理解できないといった感想を述べる。
「まあ…お先にどうぞって言われたし…いこっか!」
「…だね!さっさと抜けちゃおう…!」
そうして、渋滞の横を通り抜けてぬかるみ道へとはいった美咲と秋葉。
渋滞の列から声援と拍手を浴びせられながら、彼女達は問題なくぬかるみ道を突破した。
塹壕と泥土を難なく進んだ二人。
そんな彼女らを、次に待ち受けていた道は…。
「今度は…池かな?あれ」
見えてきたのは、蓮の葉が浮かんでいる湿地の様だった。
「池は流石に通れないんじゃない?」
流石の秋葉も、池を通るのは躊躇っていた。
「えぇ〜そうかなぁ。通れないってのオチはないんじゃない?」
そんな彼女とは対照的に、美咲の方は通れるだろうと考えていた。
池といっても、ここは周遊コース。
いくらなんでも戦車が浸かってしまう程深くはないはずだ。
互いに意見を言い合いながら、池の近くまでやってきた二人。
するとそこには…
「ほら、やっぱり道があった」
池は大部分が蓮の葉で覆われているが、それを縫う様にして戦車一台が通れるくらいの道が続いていた。
「なぁんだ、普通の池かと思ってビクビクしちゃった」
道の存在を知った秋葉も、緊張が解けた様子だった。
しかし二人はこの後、この池の底に隠されたギミックに
嫌というほど驚かされることになる…。
道があると知った少女達は恐れずに、池の中に向かって走り出した。
「ほらほら、ちゃんと道だよ!」
先頭を走る美咲が、右下を見ながら言う。
彼女の言う通り、池の中には石造りの道が続いていた。
道自体もやや水没しているのだが、せいぜい20cmくらいで問題なく通れる深さだった。
「これはなかなか斬新な発想してていいね!」
「だねぇ〜これは結構アリだと思う!」
周遊コースのよく考えられた設計に、二人は感動していた。
と言うのもぬかるみ道を通ったことで、履帯が泥まみれになっていたのだが。
次に浅い水場を通らせることによって、履帯についた泥を綺麗に洗い流せるのだ。
そんな、合理的なコースの作りを賞賛していると…。
ブシャッッッアアア!!!
「わあっ!!!?」
突然、左側の池から大きな水飛沫が上がった。
「なになになに!!?」
あまりに突拍子もない出来事だったため、二人はその場に急停車した。
停車して、水飛沫が上がったところを見てみると、そこには…。
「ワ…ワニ…!??」
二人が視線をやった方には、人二人くらいなら食べてしまいそうな、巨大なワニが口を開けていた。
「早くいこう早く!!」
「…いやちょっと待って…あれってもしかして…」
急に現れたワニに焦る秋葉を、美咲が止めた。
「あれ……やっぱり作り物だよ!!」
じーっとワニの方を見つめていた美咲が言った。
そう言われて、秋葉も恐る恐るワニを再確認した。
「本当だ〜。もうびっくりしたぁ………」
ワニの口には放水用のホースが仕組まれており、ワニの体には塗装の剥がれがちらほらあった。
「すごい作り込みだね〜」
本物のワニではないとわかった美咲は、ギミックを面白がっていたが…。
「いらないよ〜ワニなんて…トラウマになるじゃん…!!」
「あはは…確かにねぇ〜」
秋葉の方は、驚かされたからか若干不機嫌だった。
それからも、複数頭のワニのオブジェから水飛沫をかけられながら、ようやく湿地ゾーンを抜けた二人。
「やっと抜けたねぇ〜」
「はぁ〜最後の怖かったぁ〜」
「あはっまだ怖がってんのぉ?」
秋葉は未だ湿地での恐怖体験を未だ引きずっているが…。
二人は無事周遊コースを最後まで走り切った。
「hey! amazing girls!!」
コースの終わりで待っていた初めの教官から、お褒めの言葉をかけられた。
こうして、無事に戦車乗車体験を終えた二人は、男子陣達との待ち合わせ場所へと向かって歩き出した。
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