第27話 兵器に乗り込む少女達
「知らなそうな問題か…早速出してくれよ」
不敵な笑みを浮かべる樹に、幸人は恐れずにそう尋ねる。
「それじゃあ…第3問目。戦争後にすべての国で行われた『国名変更』これは一体“なんの目的”のために行われた?」
樹はゆっくりと皆に伝わるように問題を読み上げた。
「国名変更って…確か戦後に行われたあれだよね?」
秋葉は少し自信がなさそうに言った。
「そうそれ。その『国名変更』には、“とある狙い”があったんだ」
樹は彼女の発言に対して、そう付け加える。
「狙い?平和のためとかそう言う感じだろ?」
妙に狙いや目的と言う単語を使う樹に対し、宏樹は思っていたことを口にした。
だが…
「内容は似ているね。でも、今回はそれが答えじゃない」
樹はその回答を聞き、申し訳なさそうに言った。
「じゃあ…なんだ?美咲はわかる?」
考えあぐねた宏樹は、回答権を美咲へと譲った。
「国名変更についてはもちろん知ってるけど…明確な目的までは流石に…」
しかし、第3問目の話は博識な美咲でさえも、わからないようだった。
そんな時、ずっと黙っていた幸人が口を開いて言った。
「世界協和構想の理念の一つ、フェア。これの実現のためだろ?」
彼がそう答えた瞬間、樹の目が変わった。
「…正解!」
「えっすごい!!」
樹の反応に続いて、秋葉が驚く。
「へぇ〜知らなかった!」
「そう言う目的があったんだな…」
美咲と宏樹も初めて知ったという反応を示した。
そんな中、続けて樹が語る。
「戦争を起こしてしまったことで、ノーアタックとノーブラッドは達成できなかった…」
彼の語りを皆が黙って聞いている。
「しかし『国名変更』と言う形でフェアを実現させ、今日まで続く平和な世界への第一歩を、あの日人類は踏み出した」
樹の語りに幸人がそう付け加えて、文を完成させた。
ーーー
『国名変更』
これは国家生存戦争が終結した2046年から2052年にかけて、すべての国家で可決された国家名称の変更案。
この変更案は前述の通り、「世界協和構想の理念の一つ、『フェア』の実現」という目的のために施行されたものであり。
これ以外にも「戦争を起こしたことへの反省」や「全世界平等」といった意味も、この「国名変更」には込められていた。
戦争が起きた後で今更だろうと言う意見もあったそうだが、結果的にこの案の実行は世界情勢を良い方向へと導いた。
戦後、社会主義国や独裁を行なっていた国家が国名変更を機に相次いで民主化し、世界に残った争いの火種は驚くほど早く沈静化していった。
さらに2055年には、凍結されていた「世界協和構想」にて進められていた「洋上住居化」が成功。
これにより多くの難民が新たな住処を獲得し、現在では移民問題はほぼ収束と言っていいレベルで解決している。
ーーー
「国名変更の背景にそんな意図があったなんて、私知らなかった…!」
幸人が話を綺麗にまとめた後、美咲が感心したように言った。
「僕も意外だったよ、軍事マニアに振り切っているとばかり…」
樹も彼の知識幅を見誤っていたことを明かした。
「マニアってのは兵器だけじゃなくて、平和についても調べるんだぜ!」
珍しく大人びた発言をする幸人が、今日はとてもよく映えている。
「ちょっとだけ見直しちゃったよ…幸人のこと!」
そんな彼の姿を見て、秋葉が笑顔でそう言った。
それを聞いた幸人はやや複雑そうな顔をする。
「ちょっとだけってなんだよちょっとだけって…!」
ツッコミをしてる様な…恥じらいを隠している様な…
そんなこんなで、唐突に始まったクイズ大会も終わりを迎える…。
「Thank you for waiting!」
「No problem! Thank you!」
注文していた料理が届いたのだ。
「わぁぁ…………」
目の前に並べられた料理の美しさに、秋葉は思わず声を漏らしてしまう。
「Enjoy your meal!」
店員はそう言い残して、颯爽と席を後にした。
「めっちゃ豪華!ねえねえ写真撮ろ写真!!」
店員が立ち去った後、秋葉がずっと抑えていた興奮を爆発させる。
「おいおい…はしゃぎすぎだぜぇ?」
そんな彼女に注意をする幸人。
ただ、今回はしゃいでいるのは秋葉だけではなかった。
「いやいや、これははしゃいでも仕方がない!おしゃれすぎるよ…!!」
「だよね…!樹くん写真頼んだよ!!」
「ああ!もちろん!任せておいて…!!」
珍しく樹と秋葉が意気投合している。
…そういや樹も西洋料理楽しみにしてたんだったな…
その様子を見ながら、宏樹はふと思い出した。
他愛のない談笑を間に挟みながら、徐に料理を食べ始めた一行。
互いに感想を言い合い、互いに料理を食べ合い、互いに感動を分け合った。
そんな楽しいひとときを作ってくれた西洋料理店に、皆は感謝の気持ちでいっぱいだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
楽しい食事を終えた一行。
「本当に満足したぁ〜」
「今までの行った店の中で、一番おしゃれだった…!!」
女子たちは店を出るなり、賞賛の声を漏らす。
「やっぱり本場は格が違うね…!あんなに感動したのは初めてだった…」
そんな彼女らに混ざって、同じく感動を隠せないでいる樹。
「料理も美味しかったけど、俺は幸人のあの言葉が妙に沁みたな…」
その中で一人、違う感想を述べ始めた宏樹。
料理の話とはまるで違うが、その感想には皆即座に頷く。
平和というものは本来、永遠に繋がれていくべき世界の
だというのに、人類は幾度となくそれらを“くだらない”理由で崩してきた。
仏の顔も三度まで。
もし、平和という存在が仏さまであるのならば。
次に戦争を起こした時が、人類の最後になるのかもしれない…。
それから一行は、男女別れて行動することになった。
男子の方は13時半から開催されるという、火力演習を見に行った。
なんでも、自国で行われるような火力演習のような現代戦車を使った演習ではなく。
実際に国家生存戦争にて使われた戦車を主体とした、ストーリー調の演習なのだという。
「まあ…男子っぽいちゃぽいよね…」
残った女子の一人、美咲がそう呟く。
「そうかなぁ、てっきり幸人はこっちに来ると思ってたけど…」
もう一人の女子、秋葉が言った。
男子たちが演習を見に行っている間、女子たちはとあるブースに並んでいた。
それは、実際に戦車に乗って館内を移動できるという、絶対に男子たちが喜びそうなアトラクションだった。
「あ!確かに…!実際に乗ってみたいっていいそう!」
「だよねだよね…!不思議なこともあるんだなぁ〜」
男子たちの思いがけない行動に、女子たちは互いに共感し合う。
それから、女子二人は周遊するための戦車「Pz IV」に乗り込んだ。
「ドイツ車かぁ〜、なんだか懐かしい」
「えー!懐かしい?それどういう意味〜?」
「なんでもな〜い」
秋葉の妙な発言に、美咲が軽くツッコミを入れる。
戦車に乗り込み、発動機を稼働させた二人。
すると…
「hey! training begin!」
軍服の様なものを着た、いかにも教官といった見た目の人が話しかけてきた。
「training? ah… no thank you!」
すると美咲は、少し考えた後教官に何か言った。
「それじゃあ、行こっか、」
「え…あ、うん!」
二人のやりとりを見ていた秋葉は、動揺しながら前進する美咲に続いた。
「ねえねえ!あの人すごい驚いてたけど、美咲なんて言ったの?」
秋葉はコースへと出てすぐ、美咲に尋ねる。
すると…
「さっきの人?戦車の訓練は要りませんって言っただけだよ〜」
「なるほどね〜………え!?それってどう言うこと??」
彼女の返事に潜んだ違和感に、秋葉は思わずドキッとした。
「どう言うことって…秋葉さっきめっちゃ慣れた手つきで初動機動かしてたじゃん!」
「あ…まあ、確かに」
しかし、その違和感の正体は案外ありふれたものだった。
「ただそれだけ。特に深い意味はないよ〜」
「な〜んだ…」
最後の一文によって、誤解?は溶けたようだった。
そんな妙な会話を挟みながらも、二人は気を取り直して周遊コースを走り出した。
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