第26話 唐突に始まるクイズ大会!



「あ!あそこでしょあそこ!!」

一行のうちの一人、秋葉が指差しながらそう声をあげる。


その声を聞いた皆が、彼女の指差す方を注視する。


「そうだね!あれが予約してた店だよ!」

「だよねだよね…!すっごい洒落た店じゃん…!!」

美咲のその返事に、とても喜ぶ秋葉。


発見から程なくして、目的の西洋料理店へと到着した一行。


「え…これ…絶対高いお店だよね…??」

あんなにはしゃいでいた秋葉が、お店を前にした途端急に静かになった。


「う…うん、一人2くらいはするお店…」

そんな彼女の横で衝撃の告白をする美咲。


「一人で2って…やばすぎだろ…」

「普段絶対こんな店入らないから…緊張するな…」

衝撃の価格に驚く幸人と、肩の力が抜けない樹。


そうやって、いつまでもまごついている皆の前に、店の中から颯爽と紳士そうな男性が出てきた。


「Do you have a reservation?」

「ah~ yes yes! yes it is!!」


美咲が男性からの質問に答える。


「Please come in!!」

「Cheers!」


会話が終了すると、男性は中へと入り皆を導いた。

この人はおそらく、この店のウェイトレスだろう。


「ねえやばい!おしゃれすぎるこの店!!」

誘導に従いながら歩く秋葉が、興奮しながら言う。


微妙に不揃いなところがおしゃれな、年季の入った壁のレンガ様。

その壁に取り付けられたアンティークな燭台が、ほのかで暖かな灯りを放っている。


黒っぽい天井はマス目調になっていて、一つ一つに花模様が描かれているのが、蝋燭の灯りでほんのりと見えた。

床も天井と同じく黒系の木材が使われているが、それもまた西洋な雰囲気作りに一役買っていて悪くない。


「これは来てよかった…もう満足だよ僕」

西洋店の好きな樹は、目的も忘れてうっとりとしている。


「だな…普段こんなところ絶対来られないぞ…」

「マジでおしゃれすぎる…」

そんな彼の意見の横に並ぶ、宏樹と幸人。


「ね…!本っ当に海外ってすごい…!!!」

「私たちは眺めているから、写真は任せたよ樹くん…!」

同じく感動を口から漏らす美咲と、少し横柄な注文を投げる秋葉。


そんな談笑を挟みながら歩いていると、前方を歩くウェイトレスが歩みを止め、とある席へと座る様促してきた。

おそらくここが、自分たちの席なのだろう。


「Enjoy your meal!」

「サンキューサンキュー!」


テンションが上がっている秋葉が、ウェイトレスにそう返答する。


…さっきまで会話任せっきりだったのに…

その姿を横に見る宏樹は、調子に乗っているな…といった感想を抱く。


「なあなあ!早くメニュー開こうぜ!!」

「だねだね!開こ開こ!!」

しかし、当の本人はそんな視線には気づきもせず、手元に置かれたメニューを開き始めた。


…まあ…いいか…

宏樹もこれ以上余計なことは考えず、注文を決める彼らの輪におとなしく加わった。



そうして開いたメニュー表を、各々で眺め始めてからしばらくして…


「え!やばくない!?どれもこれも豪華すぎじゃん!!」

秋葉が思わず声をあげる。


「チキンにパスタにシチュー!どれもこれも高級感やばい!!」

それに続いて、美咲も語彙力低めで絶賛を口にする。


そんな大絶賛もさることながら、メニューを決め終えた一行。


「それじゃあ、みんなメニューを閉じて!」

「はーい」

美咲の声かけで、皆が一斉にメニュー表を閉じた。すると…


「hi! order ready?」


清楚で美しい女性の店員が尋ねてきた。


「Yes! Start okay?」

「okay please!」


美咲はやって来た店員にメニューを見せながら、慎重に注文をしていく。


「will that be all?」

「Yes! Can’t wait!」


しばらくして彼女はメニューを閉じ、店員に向かって一言添える。


「look forward to!」


すると程なくして店員も、一言添えて席を後にした。


「注文終わったよ〜」

なんとかやり切った美咲が、皆にそう告げる。


「店員さん最後なんて言ったの?」

それを横で見ていた秋葉が、彼女に尋ねる。


「お楽しみに〜とかじゃない?知らんけど」

そんな秋葉の疑問に対し、幸人が横から口を挟む。


「そう!よくわかったね?」

美咲曰く、確かに店員はお楽しみにと言ったと言う。


「だろ!?物知りだろぉ?」

すぐ調子に乗る幸人。

「最後の一言がなければね…」

そんな恋人を哀れな目で見る秋葉。


「それじゃあそんな頭の良い幸人に、僕が問題を出すよ」

そんなふうに二人が言い合いを始めようとした時、傍観者である樹がそう提案した。


「お!それいいな、せっかく博物館に来てるわけだし」

彼の提案をよく思った宏樹も、賛同の意を示した。



それから樹の一声によって、頼んだ料理が来るまでの間にクイズ大会を開くことになった。



「それじゃあ、まずは第一問」

「テーレン!」

樹に続き、秋葉がセルフSEを奏でる。


「第三次世界大戦である国存戦争は、なぜ起こった?」


最初からしっかりと歴史の問題だ。

しかし、幸人は少し笑って口を開く。


「そんなの簡単すぎるぜ…。『世界協和構想』の失敗だろ?」

幸人は乾いた笑いと共に正解を答えた。


ーーー


『世界協和構想』

これは各地で繰り返される紛争を無くすために考案された計画のことだ。


2N1P「ノーアタック・フェア・ノーブラッド」を主な理念とし「銃規制」「戦力放棄」「洋上住居化」と言った、紛争解消へ向けた様々な活動が行われていた。


しかしこれらの計画は、一部の反対勢力達のデマによって徐々に頓挫していき、それらの人々に軍事介入を行ったことで理念が破綻。

この介入を皮切りに再び紛争が各地で起きるようになり、平和を願った構想は結果として戦争の引き金となってしまったのである。


当然、そんなことが起きてしまえば計画も凍結せざるを終えなかった…と言う背景が戦前にはあった。


ーーー


「正解だね。これは常識すぎたかな…。それじゃあ2問目」

気を取り直して…。


「国存戦争で使われた戦車と、それまでに使われていた戦車の決定的な違いは?」

第二問目は、自分たちも乗っている戦車についての問題だった。


…ぐ…決定的な違いか…なんだ…??

急に難易度が増した問題に、宏樹は悩ましい顔をする。


「違い…?そもそも違いなんてあるの…???」

宏樹と同じく、秋葉も首を傾げていた。


「おいおい…嘘だろ秋葉…?簡単じゃねえかこんなの…」

そんな彼女に対して、幸人が呆れた様な反応を見せる。


「そう言う幸人君はわかるの?」

その様子を見た美咲が、幸人に問い詰める。


「単独での戦闘が可能になったんだよ。第二次大戦時は4〜5人くらいの乗員が当たり前だったんだ」

問い詰められた彼は、ゆっくり息を吐きながら解説を始めた。


ーーー


『戦車』

それは陸の王者とも評される、代表的な軍事車両の一つ。


幸人の解説通り、第二次大戦時に使用されていた戦車は車長の他に「装填手」「砲手」「操縦手」「無選手」「整備士」等々…。

多くの乗員が乗っていたおり、操縦も今のようなデジタル式ではなくアナログチックなものであったと言う。


それが国存戦争では改良され、車長単独で全ての戦闘行動が行えるようになった。


この改良は、それまで撃たれれば終わりだった歩兵の存在を大きく変え、何万台と言う規模で戦車が作られることになった。


さらに、前述の『世界協和構想』の「戦力放棄」によって、多くの国が空海における絶対的軍事力を持っていなかったこと。

志願兵の多くが戦車兵を希望するほど士気の高く、人的資源をすぐにでも生かす必要があったこと。


それらの情勢が戦車開発の追い風となり、国存戦争ではそれまでと比にならないほどの大規模な戦車戦が繰り広げられることになった。


ーーー


「流石は幸人!ミリオタなだけはあるね」

「だろだろぉ?」

樹が褒めると、またしても幸人は調子に乗る。


「別に、カッコよくはないけどね…」

そんな彼に負け惜しみを吐く秋葉。


「それじゃあ…今度は幸人が知らなそうな問題を出すよ」

そんな余裕そうに笑みを浮かべる幸人に、樹が不敵な笑みを浮かべて言った。

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