第25話 戦車博物館へGO!
翌日。
「これこれ、このバスだね」
美咲の声かけで、一行は到着したバスへと乗り込む。
皆が乗り込むとバスは再び移動を始め、ビュンビュンと走る車の流れへと合流していく。
一行が乗り込んだのは「クビン戦車博物館」行きの、高速バスだった。
「いやぁ〜まじで楽しみだなぁ〜」
幸人のその声からは、本当にワクワクしていることが伝わってくる。
「ほんっと幸人って戦車好きだよねぇ〜」
彼のワクワクな姿を見て、どこか呆れを含んだ様な声で秋葉が言う。
彼女のそんな言葉を聞いた幸人は…。
「だって世界最大級の戦車博物館だぜ?300両以上の戦車がズラーっと並んでるんだぜ?死ぬまでに一度は見るべき光景だろ!」
スイッチが入ったロボットの様に、これから行く博物館の凄さを熱く語り始めた。
…見るべき光景…なのか…?
宏樹もその博物館には少し興味があるが、幸人の言葉には少し誇張を感じた。
「見るべき光景って…それはちょっと言い過ぎじゃない?」
宏樹が思っていることと、一言一句同じ感想を秋葉も口にする。
「そう言う秋葉だって、やけに独輪の戦車みたがってたじゃねぇか?」
そんな彼女に対し、幸人がカウンターとばかりに言い返す。
「まあ…それは確かにみたい…」
彼女はそう言いながら苦笑いする。
「だろだろ?楽しみだな!」
その反論にはどうやら秋葉も頷くしかない様だった。
…へぇ〜意外と似たとこ同士な一面もあるんだなぁ…
二人の会話を聞きながら、宏樹は少し感心した。
いつもは油と水、氷と炎みたいな。
似ても似つかない二人だと思っていたのに。
実は”誰も知らない“ところで、彼ら二人は繋がっていたのである。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それからおよそ1時間ほどバスに揺られた一行は、目的地である「クビン戦車博物館」へと到着した。
「うぉぉおおお!!この無骨な感じ!!」
バスから降りるや否や、興奮して入り口へと走りだす幸人。
「まだ到着したってだけなのに…元気だなあいつ」
「本当にね…」
その様子を背後からただ眺めている一行。
そうして入り口で再度合流した皆は、戦車博物館へと入場した。
「まずはどこから行こうか?」
美咲が公式サイトでマップを開きながら、皆に尋ねる。
「俺はまず珍しい車両が見たいな!!Karlとか!!」
「はいはい、幸人は静かにね〜」
未だ熱の冷めない幸人を、軽くあしらう秋葉。
そうして話し合いの結果、始めは無難に倉庫展示場を訪れることになった。
「ここ…かな?ここだね!」
少し迷いはしたものの、程なくして展示場に到着した一行。
意を決して中へと入ると…そこには
「おおおお〜〜!すっごい多い…!」
「迫力やば…!」
奥まで100mほどもある倉庫の中に、ズラーっと一列に戦車が並べられていた。
「見たことない車両もいくつかあるね」
展示車両の中には国存戦争の時代に使われた戦車に加え、1世紀以上前の戦争で使われた戦車なども展示されていた。
「これだけの戦車に囲まれたら…助からないね…」
圧巻の光景を前に、美咲がそう呟く。
「だね。こうなる前に逃げないとやばいよね…!」
それに続いて秋葉も、似たようなセリフを吐く。
そんな風に話をしながら、どんどん戦車に囲まれた道を歩んでいく一行。
「これはSU-100、これはPanther、そしてこれは…なんだろうこれ??」
その時、一つ一つ写真を撮っていた樹がとある戦車の前で足を止める。
「みんな〜この戦車何かわかる?」
そして彼は、少し先をいく皆を呼び止めて尋ねる。
「ん〜どれどれ……なんだろうこれ…?やけに履帯が多いけど…」
樹に呼ばれてやってきた宏樹も、その車両が一体なんなのかわからなかった。
左右の履帯に加え、真ん中にも二本の履帯が備わっている、かなり異質な見た目の戦車。
「え?何これ…?すごい見た目…!こんな戦車見たことない!」
同じく樹に呼ばれた秋葉も、宏樹と同じくこの車両は初見だったらしい。
そうやって騒ぎ立てていると、その話を聞きつけた幸人がやってきた。
「あーこいつか、これは『obj279 early』だ」
彼はさらっとその戦車の名前を言い当て、続けて解説を始めた。
「この戦車はおよそ1947年ごろに、“とある脅威”を克服するために作られた特別な車両なんだ」
「へぇ〜第二次世界大戦後くらいか、でもその“とある脅威”ってなんだ?」
幸人の解説を聞いていた宏樹が、ふと気になったことを尋ねると…
「それは『核爆弾』だよ」
横から入ってきた美咲が、そう告げる。
『核爆弾』
第二次世界大戦で使われたとされる、凶悪な大量破壊兵器の一つ。
現代でこそエネルギー資源やロケット開発など、有効かつ害のないように使用されている「核」
しかし第二次世界大戦では、その凄まじい爆発力を利用した爆弾が作られ戦争に利用されたと言う。
「まあ…この戦車だけは、実戦で使われなくて良かったと思うがな」
幸人のその言葉からは、どこか闇深いものを感じた。
ーーーこんなものが実戦で使われるようなことがあったら、今度こそ人類は滅んでしまうだろうーーー
「obj279 early」の前に置かれた説明文に、ロシア語でそう書かれていた。
長く太く伸びた主砲、戦いの中で洗練された装甲、どんな道でも走破する無限軌道
そのどれをとっても美しく、見るものを魅了する陸上兵器「戦車」
ズラーっと一列に並べられた戦車はとてもカッコよく、完成された現代のロマンの一つだと言える。
しかし、それらは殺戮の日々の中で生み出された“負の遺産”であることも、また事実だった。
そんな話をしながら、しばらく鎮座している戦車群を見てまわっていると…
「お!これだよこれ…!」
とある戦車?が現れたところで幸人が嬉しそうな声を上げた。
彼の目線の先にあったのは、おおよそ戦車と言う枠には収まっていなさそうな車両で。
車体は異様に長く、砲塔の代わりに巨大な大砲の様なものが備わっていた。
「幸人?これなんて戦車なの?」
「こいつはカール自走臼砲、旧独輪で実際に使用された車両だな」
「にしてもでかい大砲だな…何センチあるんだこれ?」
「54cm砲だな、文献ではプロパガンダのために60cmとか書かれてたりするがな」
幸人があちこちから飛んでくる質問に一つ一つ答える。
…カール、さっき幸人が言っていたのはこれか…
少々マニアックだが、いかにも彼が好きそうな車両ではある。
「自走臼砲って…自走砲とは何が違うの?」
秋葉がそう尋ねる。
「単純に砲が違うんだよ。太くて短い臼の様な砲身が特徴的な「臼砲」そんでそれを搭載した自走車両が自走臼砲なんだ」
「へぇ〜なるほどね〜」
幸人が目を瞑りながら説明し、秋葉がそれをじっと聞く。
…やっぱこいつミリオタだな…
一般の人間がまず知らないであろう知識が、すらすらと口から滑り出てくる。
その情報収集力をもっと勉学に当てればいいと、つくづく思う。
だが彼も自分と同じくれっきとした戦車兵。
軍事知識を多く持つ彼のほうが、戦いにおいては有利だと言うのは明白だった。
それから、倉庫に展示された戦車の全てを見終わった一行。
「いやぁ〜見応えはあったねぇ!」
「だね!どれもこれも近くで見ると大迫力だったよ!」
意外にも美咲と秋葉が楽しかったと言った。
「あれが動き出しでもしたら怖いけどね」
「ちょっと樹くん…!怖いじゃん…!!」
樹のセリフに怖がる秋葉。
「まあまあ、これからお楽しみの西洋料理店に行くから、落ち着いて…」
そんな彼女を飯で宥めようとする、原始的な樹。
「え!?本当!!?早く行こ行こ!!」
その誘いにまんまと乗る、同じく原始的な秋葉。
そう。今からお昼ご飯に入る一行は、翻訳班である樹と美咲が厳選した、近くの西洋料理店に行くことになっていた。
たまたま予約キャンセルが入っていたのを聞いて、秒で予約をしたのだと言う。
「美咲ちゃんのリスニング力のおかげだよ」
「いやいや、樹くんがこのお店見つけてくれたからだよ〜」
お互いに譲り合いを見せる翻訳班。
…学があるってなんかカッコいいな…
彼ら二人を見て初めて、学のカッコよさを知った宏樹。
「西洋!料理!」
「お肉!お肉!」
その横でよだれと戦う幸人ペア。
自由きままな一行は、予約しているお店へと向かって歩んで行った。
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