第24話 白い空と夜景。



「いやぁ、実はさ…」


事前に約束していた集合時間に1時間近くも遅れた二人。

そのうちの一人である幸人が、事の経緯を話し始めた。


「この後、例の展望塔の登るっていう流れだったじゃん?」

「うんうん」

皆はその問いかけに頷く。


実は昨日の暇な移動時間の間に、皆で今日の観光で周るルートを予め決めておいたのだが。

そのルートの最後に、美しい広場の横にある展望塔に登ると言うものがあった。


しかし…。


「え!工事中!!?…なんで……!?」

幸人の口から飛び出してきた最悪な言葉に、思わず取り乱してしまう秋葉。


彼の話によるとたまたま展望塔の近くを通りかかった時に、工事中の看板を見つけてしまったと言うのだ。

「ま…マジかよ…」


時間と楽しみを同時に失った秋葉と宏樹は、ショックで相当落ち込んだ。


「え…。じゃあなんで二人は遅れたの?」

だが美咲だけは会話の矛盾に気がついており、彼らにそう問いかけた。


「…ここからが話の本番よ」

問いをかけられた幸人が、一瞬の間を置いてそう切り出す。


「僕たちが、そんな残念な情報だけを持ち帰ってくると思うかい?」

そんな幸人に続いて、樹も何やら意味深なセリフを喋ってくる。


「え?なになに?もしかして他の場所があるの?」

「展望台以外には、高い建物無いはずだけど…」

意味ありげな発言に期待する者とそうでない者で、グループは二分される。


「まあまあ、まずは周りを見てみようぜ」

そんな三人らに向かって、まずは幸人が周囲を見るように促す。


「えーっと…何もないけど…」

「…いや…なんだか、皆どこかに向かって移動しているような…」

ピンとこない秋葉と、何かに気がついた美咲。


「そう!実はこの近くを流れる川のほとりに、それはもう綺麗な夜景スポットがあるんだよ!」

場が整ったところで、幸人が声高らかに宣言した。


「や、夜景スポット…!!!」

その単語に、皆の声色が上がる。


二人は、そこの夜景スポットの視察に行っていたそうで、それで遅れてしまったのだと話した。


「確かに、これだけの人がそこに行ってるとなると…」

「帰ってくる時は揉みくちゃにされるだろうな…」

それを聞いて、ようやく納得がいった二人。


「まあ、そう言うことなら、許してあげるよ」

どこか上からではあるが、秋葉も彼らの遅刻について今回ばかりは不問にした。


場が丸く収まったところで、一行は早速その綺麗な夜景スポットへと向かうことになった。


✳︎ ✳︎ ✳︎


歩き始めて十数分。

一行はその綺麗な夜景が見られると言うスポットへと到着した。


「え!やば…!!やばすぎでしょ!!!」

「こんな建造物初めて見た!!」

チラッと見えたその“夜景スポット”に大興奮する秋葉と美咲。


「な、なんだこれは…!本当に橋かこれ…?」

宏樹はその異質な姿をしている“夜景スポット”に、困惑と驚きを隠せない。


「な?すごいだろここ!」


それは一見すると、川に架かっている普通の橋。

しかし横から見てみると、それがただの橋ではないことがすぐにわかった。


その橋は川の中腹辺りまで伸びたところで、ぐいっと急カーブを描いており。

また元の川岸に戻ってくると言う、なんとも変わった構造の橋だった。


「通称『渡らない橋』と呼ばれる、夜景スポットだぜ!!」

幸人がどこか自慢げに語る。


彼の語りを耳にしながら、その橋へと足を踏み入れる一行。


「わぁ〜なんだか不思議な気分…!」

「まるでテーマパークのアトラクションみたいだ…!」

上へ上へと登っていく足場と共に、皆の気分も上々だった。


そして…

橋の頂上へと辿り着くと、そこには…。


「わぁぁああ……!!」

「…なんて美しさだ…!!!」


クビンク最大の都市に聳える数々の建築物。

それら全てが煌々と光を放つ、幻想的な光景。

その光景をより完璧なものにしている、白い空。


「これは…すごすぎるよ…!」

その景色に、皆は語彙力を失うほどの感動を覚える。


少なくとも今まで見てきたどんな夜景よりもそれは美しくて、瞬きを忘れてしまいそうになるほどであった。


「白夜だからこそ、この夜景はさらに輝く…」

樹が、どこか黄昏た様なセリフを呟く。


彼の言う通り、今のクビンクはちょうど白夜の時期。

そのため彼らが見ている景色の上には、自国では絶対に見られない幻想的な白い空が広がっていた。


真っ暗な夜景ももちろん美しいが、やはり普段見られない景色というのは、それだけで見るべき価値があるものだった。


「展望台は登れなかったが、これはこれでいい体験になったな…!」

景色を見ていた幸人がそういうと、皆はそれに感嘆混じりに賛同した。


そんな、白夜と夜景を思う存分眺めた一行は、橋を降りる前に一枚写真を撮ることにした。


「say cheese!」

「cheese!!!」


ーーーカシャッーーー


一行は近くの観光客に頼んで、写真を撮ってもらった。


「thank you!」

「sure!good bye!」


撮ってくれた観光客は手を振りながら橋を降りて行った。


「陽気な人だったなぁ〜」

「ね!おかげでいい写真が撮れたよ!」

美咲はそう言いながら、撮った写真を皆に見せる。


皆が撮ってもらった写真を見ている中、秋葉がとある提案をした。


「ねーねー!私、幸人とも一緒に撮りたい!」

それは、恋人同士で写真を撮りたいという提案だった。


…た、確かに撮りたい…!撮りたいが…!!

宏樹もその意見には大賛成だったが、どこか気まずい気がした。

皆も宏樹と同じ考えがよぎったのか、場には微妙な空気が流れる。


それもそのはず。

この場にいる恋人ペアは2組で、樹だけがハブられてしまうのだ。

しかし、そんな時…。


「僕は構わないから、二人で撮っちゃっていいよ」

場の空気を察した樹が、そう言ってくれた。



それから、カップルペアで写真を撮影した二人組。


「はいチーズ!」

ーーーカシャッーーー

美咲がスマホのシャッターボタンを押す。


「どうどう?いい感じ?」

秋葉が幸人に抱きついたまま尋ねる。


「うん!いい感じ!」

撮った写真を確認した美咲は、OKの返事をしてスマホを秋葉に返した。


「秋葉ちゃん、結構攻めた写真好きだよね」

「えー?そうかなぁ〜〜」


側で眺めていた宏樹の言葉に、秋葉は撮った写真を眺めながら心当たり無さそうな反応をする。


「俺は秋葉のそういうとこ好きだけどな」

「え〜!?もぉ〜なに言ってんの?幸人ぉ〜〜」


不意に幸人に褒められた秋葉は、照れながら幸人のことを軽く叩く。


「いいね!二人を見ているとこっちまで微笑ましくなるよ…!」

そんな二人のやりとりを見ていた樹が、心なしか渇いた様な声で呟く。


その言葉を聞いた秋葉が、少ししてから口を開いた。


「樹くんも、彼女連れてくればよかったじゃん」

それを聞いた樹は、一瞬黙った。


「いいや…”あの子“とはそういう関係じゃないから…」

彼女の発言に、樹の声はさらに渇いたものになった。


「またまた〜そんなこと言っちゃって〜」

しかし秋葉は、そんなのお構いなしに樹を揶揄う。


「ま、まあまあ…人には人の事情があるし、色々考えがあるんじゃない?」

その様子を見かねた美咲が、やんわりと彼女を止める。


「ふ〜ん、まあそういうことなら聞かないでおくわ」

そう言われた彼女は、少し残念そうにその話題から手を引いた。


「そうしてくれると助かるよ」

身を引いた秋葉に対し、樹はやや安堵した声でそう返した。


…“あの子”って一体誰だ…??

そんなやりとりを側で聞いていた宏樹は、あまり話の全容が掴めていなかった。


少し微妙な空気になってしまったため、このタイミングで彼に聞くことはできないが…。

樹と関わりがあるという”あの子”とは、一体誰のことなのだろうか…?


モヤモヤが解消されることはなかったが、自国が7時を回ったので一行はホテルへと向かって歩き始めた。

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