第23話 観光、そしてショッピング!



ファミレスでの昼食を終えた一行。


「いやぁ〜すっごく美味しかったね!」

「だな!結構量もあったし!満足満足」

秋葉と幸人が笑いながらそう話している。


…秋葉ちゃんが一番美味しそうに食べてたな…

その様子を背後から見ていた宏樹と樹が、互いに顔を合わせながら違和感を共有し合う。


そんな一行は、ファミレスから出た後に再び「美しい広場」の中を散策し始めた。



先に紹介したポロフスキー大聖堂の反対側、そこにも一つ有名な建築物があった。

それは1000年もの歴史を誇る一枚の壁「クレミリー城壁じょうへき」と、城壁にくっついている博物館よりも高い時計塔「レフスカヤ塔」だった。


城壁は赤茶一色だけで構成されており、大聖堂と比べると派手さはあまりないのだが…

ゆうにマンション程の高さがあるその壁は、何世紀も前に作られたものとは思えず、凄まじい存在感を放っていた。


近くには、かつての帝国の指導者が眠っていたとされる霊廟や、シンメトリーで豪勢な大統領府などがあり。

どれをとってもクビンクの雄大かつ長久な歴史を現していて、見応えのある建築物ばかりだった。


さらにさらに、広場にあるのはこれだけでは終わらない。


先程訪問した歴史博物館の隣に、これまた大聖堂のような派手さを誇る建築物「カザナン聖母聖堂」が鎮座していた。


派手な外観とは裏腹に、内部へと入るとそこは熱心な信者達が集う神聖な場所となっていて。

鼻を刺激する線香の匂いと、耳を響かせる美しい讃美歌が、より一層スピリチュアルな空間を完成させていた。


こじんまりとしていたためか、聖堂観光はすぐに終わってしまい、残す寄り先は一箇所だけとなった。


「さあ、お待ちかねの!」

「ショッピングタイムー!!!」

最後に残った寄り先へ、はしゃぎながら向かっていく美咲と秋葉。


彼女らのはしゃぎ様からもわかるように、最後に残った寄り先は大きな百貨店だった。

それも、ただの百貨店ではなく2世紀近く前から存在していると言う、歴史あるお店「グエム百貨店」である。


この建物はかつてクビンクが、複数の国で構成された連邦国家の一部だった時代から存在しており。

大聖堂や博物館に引けを取らないほどの長い歴史を誇る、とても貴重な建物だと言う。


さらに驚くべき所は、この百貨店が現役であると言う点だろう。


「わぁ〜おしゃれすぎる…!!」

「だな…!すっっげぇ綺麗!」


建物は一本の長い廊下のような作りになっていて、壁や床などには西洋チックな装飾が細かく施されている。

高い天井にはアーチ型の窓が貼られ、3階の渡り廊下の中心に立った時に見える左右対称な構図は、思わず口が開いたままになってしまうほどに美しいものだった。


そんな建物が自分たちが生まれる、100年以上も前からあったと思うと、身震いすらしてしまう。


もちろん百貨店というだけあって、廊下の壁にはいくつものお店が扉を開けていて、客をお出迎えする準備が整っていた。


どのお店も若者に大人気のブランドばかりがずらりと並んでいて、その中には手の届かない値段の商品も少なくなかった。

しかし…


「これって買っても大丈夫だよね…?」

「持ち歩ける範囲でなら、いいんじゃない?」


そう、彼らは完全無料という名目で旅行をしているため、今だけは財布の中を気にすることなく買い物をすることができるのだ。


「やったー!じゃあ私買うやつ決めてくる!」

「あ!秋葉ちゃん早い!」

宏樹の言葉を聞くや否や、秋葉がダッシュで階段を駆け降りていく。


そんな彼女を見て、他の少年少女らも昼下がりのショッピングへと繰り出していった。


✳︎ ✳︎ ✳︎


まずは宏樹・美咲・秋葉の三人。


「ねーねー宏樹!ジャーン!!」

美咲が宏樹にそう声をかけ、とあるものを見せてきた。


「“氷のカチューシャ”か!めちゃ可愛いじゃん!」

「でしょでしょ?こういう可愛いのつけて街中歩いてみたいな〜」


いつもの美咲にしては珍しく、可愛らしい品物を欲しがっているな〜と少しだけほっこりした宏樹。


そんな会話をしていた二人の所に、秋葉が現れる。

「美咲!それなにー?」


「秋葉!これ見て!氷のカチューシャ!」

カチューシャをつけた美咲が、それを後ろにいる秋葉に見せる。


「え!何それ可愛いぃ!ねえねえ!これもつけてみてよ!」

ひとしきりカチューシャを眺めた彼女は、手に持っていたとあるものを美咲に手渡す。


「これは…」

秋葉が手渡したものは“桜の髪結い紐”だった。


「可愛いでしょ??つけてみてよ!」

「えー?これちょっと派手すぎない??」

美咲の言う通り、その結い紐は装飾部がやや大きくて、扱いには苦労しそうだった。


「宏樹はどう思う?この結い紐」

装着に悩んだ美咲は、悪質なことに判断の全てを宏樹へと投げた。


「ん〜そうだな…」

少し考えた宏樹は、パッと閃いた。


「ちょっと秋葉ちゃん、そのカチューシャつけてみてよ」

「え?私が?」

宏樹は、まず美咲が最初につけていた氷のカチューシャを秋葉につけるよう頼んだ。


「え!?すごい似合ってるよ!!」

「え…?ほんと…!?」

美咲の褒めに秋葉は少し照れる。


秋葉の赤みがかった茶髪のボブヘアーには、さりげなく水色を主張する氷のカチューシャが、とてもよく似合っていた。


その流れで、今度は美咲の番。


「じゃあ、つけてみるよ」

彼女はそう言って、手に持った桜の髪結い紐で綺麗な黒髪を結っていく。


…綺麗だな、美咲の髪…

宏樹はそのサラサラと彼女の肩を泳ぐ黒髪に、少し見惚れていた。


「どう?」

「いいじゃんいいじゃん!めちゃ似合ってるよ!!」

秋葉に褒められた美咲は満更でもない表情を浮かべる。


「…可愛い?」

「うん、可愛いよ」

「なら…買っていこうかな!」

宏樹からもお墨付きをもらった彼女は、少しれ照れくさそうに言った。


高価な宝石ももちろん欲しいが、今の僕たちにはこれくらいの品がちょうどいいだろう。

将来、もっとお金を貯めてから買う時のために、この”喜び“は取っておいた方がいい。


宏樹は心の中でそう呟きながら、他の二人と共に次の雑貨コーナーへと足を踏み入れた。



一方その頃、幸人と樹。

二人はミリタリー系の雑貨店を彷徨いていた。


「おいおい!これ見ろよ樹!」

「おお、これは…」

幸人がとある”戦車“の模型を発見した。


「King tiger…!マジでカッケェ!!!」

国存戦争において、陸軍最強と謳われたムンストの「King tiger」

その1/15サイズの模型が、デカデカと店の入り口に置かれていた。


「いくらだろう?」

模型に見惚れる幸人の隣で、すかさず値札を確認する樹。


「うっ…これはちょっと…」

「いくらだった?」

値段を確認した樹は、幸人からそう尋ねられそっと値札を見せた。


「うっげ…高すぎんだろ…」

まさかの6桁代の金額に、唖然とする幸人。


「まあそもそも、こんなの買っても持ち運べないし…」

「だな…これ買うくらいなら、あっちのキーホルダー買った方がいいよな…」


値段の高さにビビッた二人は、もっと小さくてリーズナブルな商品を探しに、場所を移動することにした。



そんなショッピングタイムを各々で楽しんだ一行。


「う〜ん、遅いなぁ〜」

「ったく何やってんんだろ、あの二人…」

ポロフスキー大聖堂の前で、美咲と秋葉が不満げな小言を漏らす。


「ごめーん!遅くなった!!」

そんな時、別行動していた樹と幸人が戻ってきた。


「おそーい!」

「1時間ぐらい遅いじゃん…!!」

戻ってきた二人に、怒りをぶつける女子二人。


「本当にごめん、人混みがすごくってさ…!!」

樹が息を切らしながら謝罪をする。


と言うのもグエム百貨店に入る前、きちんと集合場所と時刻をお互いに伝え合っていた。

しかし彼らは、その約束の時刻に1時間近くも遅れてきたのだ。


秋葉達が怒るのも仕方はない…しかし…。


「何があったんだ?」

…幸人はともかく、樹は時間には厳しい方だ…

…遅れてしまったのには何か訳があるかもしれない…


そう考えた宏樹は、二人に問いかけた。


「いやぁ、実はさ…」

問いかけられた二人のうちの一人、幸人がその理由を話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る