第22話 オムライス
腹を決めてファミレスのメニュー表を開いた一行。
するとそこには…。
「え?これ本当にファミレス…??」
「似てるっちゃ似てるけど…所々違うような…」
メニュー内容は、概ね見知ったファミレスのそれだった。
しかし所々に見た事のないメニューがあって、皆は互いに顔を見合わせる。
「あ!へぇ〜なるほどな…」
「どういう仕組みだったの??」
メニューの違いが気になった樹が、その理由を調べてみた。
「海外店舗の場合は、その国の口に合わせた商品などを提供しているお店もあるんだって」
「なるほどね〜」
確かに、自国にある外国料理もその地に住む人に受け入れられやすい味で、提供されている品が多い。
ファミレスといえど客商売である以上、他国に住む人に合った商品を提供するのは当たり前だろう。
「はっ…ってことは…!」
その情報を知った樹が、隣の宏樹からメニュー表を奪い次のページを開いた。
「お!やっぱり!!」
次のページには、樹や秋葉が待ち望んだおしゃれな西洋料理があった。
「え!?本当じゃん!!ファミレスも捨てたもんじゃないね!」
秋葉が笑顔でそう言う。
…むしろ捨てようとしてたのか…
その発言に宏樹はやや困惑する。
「じゃあ、各々で食べたい料理を決めてね!注文は私がするから」
「オッケー!よろしく頼むよ!」
美咲のその声で、メニューを決め始めた一行。
「私達は決まった!他のみんなは?」
「こっち3人も決まったよ〜!」
それから数分して決まったメニューを、一人一人聞いてメモしていった美咲。
そうして皆のメニューを聞き終えた彼女が席を立ち、注文客が並ぶ人混みへと混ざっていった。
「いやぁ〜それにしても、ファミレスにしてはいい料理出すよね〜」
残された四人は、メニュー内容への驚きの声を述べ合った。
「だな!おしゃれな料理見つけた時の秋葉、すごい顔してたぜ?」
「すごい顔って何よすごい顔って!」
秋葉は幸人のそのやたら鼻につく表現に、少し突っかかる。
「そう言う幸人は何頼んだのよ?」
「え?普通にオムライスだけど…」
ムッときた秋葉が逆質問をすると、彼はキョトンとした顔で答えた。
「オムライス!?海外にまで来て…??」
「いいじゃねぇかオムライス!絶対美味しいぜ?」
好みは人それぞれだが、秋葉の意見もわかる気はする…。
「秋葉もオムライスにすれば良かったじゃん」
「やだよ!お子様ランチみたいだし…」
秋葉のぼそっとディスりに、幸人はあまり納得がいかない様子だった。
そんな他愛もない話をしていると、美咲が注文から戻って来た。
「注文…してきたよ」
「あ!ありがとね美咲!」
「うん…」
しかし、注文から帰って来た美咲はどこか元気がなかった。
「…美咲ちゃん?何かあったの…?」
そんな様子に真っ先に気がついたのは樹だった。
「…美咲?」
彼の気づきで皆が美咲の方を見る。
すると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「じ…実は…」
少し重たい入りに、皆が黙る。
そして、次に彼女は驚きの告発をした。
「…間違えて…5人分のお子様ランチ頼んじゃった…」
「ええええええ!!!???」
そのカミングアウトに皆が一斉に驚きの声をあげる。
「はーはっはっは!!ゲホッゲホッッ…!!」
急に大きな声をあげたせいか、幸人は笑いながら咽せこんでしまう。
「あんたが変なこと言うからでしょ!!?」
そんな様子の幸人に対し、秋葉が理不尽な怒りをぶつける。
「お子様ランチって…あの?」
そんな二人のやり取りの横で、宏樹が美咲に尋ねる。
「…うん」
その質問に美咲は静かに頷く。
彼女はとても申し訳なさそうな表情を浮かべて、俯いている。
美咲がそんな様子だからか、場は一気に静かになる。
「タッチパネルの操作を誤って…そしたら…前の人の注文をしちゃって…」
俯きながら美咲が事の経緯を話す。
それからまた、場に沈黙が流れる。
「ごめん…私がこんな店選んだから…」
美咲の言う通り、確かのこのお店を指さしたのは彼女だった。
ただでさえ海外で食事をするという限られた体験の機会に、ファミレスという場違いな店を選んでしまったというのに。
まさかの注文ミスでお子様ランチを頼んでしまった…。
少なくとも今この時に食べるような料理でなく、美咲が犯したミスは極めて重たいものだった。
しかし…そんな時にある少年が口を開く。
「ま、それもまたありなんじゃね?」
幸人のその言葉で、沈黙の場に光が差し込む。
「そうだね。僕も彼の意見に賛成だよ」
幸人の言葉に、樹も続く。
「え?あのお子様ランチだよ?本当に良いの?」
二人の返答を聞いてもなお、美咲は申し訳なさを拭いきれないでいる。
そんな反応の彼女に対して、秋葉が口を開く。
「おしゃれな料理じゃないけど、美咲が頑張って頼んでくれたから、私もそれを食べるよ!」
先程までおしゃれ料理を待っていたであろう秋葉も、彼女らしい言葉で美咲を慰める。
「だってよ、美咲」
三人の返事を聞いていた宏樹が、最後に美咲に語りかける。
「…ふふっありがとう…みんな…!!」
皆に慰めてもらった美咲は笑顔を取り戻し、なんとか最悪な雰囲気は脱することができた。
そんな話をしばらく続けていると、注文した料理が届いた。
「オマタセシマシター」
料理を運んで来た茶髭の店員さんが、カタコトの日本語でそう言った。
運ばれて来た料理は何故か銀色のクロッシュに包まれており、一つ一つ丁寧にテーブルへと並べられた。
そして、その蓋が開けられた時、皆は目を丸くした。
ーーーようこそクビンクへーーー
そこにはケチャップ文字で、日本語が書かれていたのだ。
「え!?日本語じゃん!!」
秋葉がそう声をあげる。
そんな風に皆が驚いているところに、店員さんが深々と頭を下げて言った。
「ごゆっくりお楽しみくださいませ」
カタコトの日本語だった。
でもそれは、今まで聞いたどんな挨拶よりも丁寧で心のこもったものだった。
「…ありがとうございます!!!」
そんな店員に、皆は感謝の挨拶を返した。
…なんて粋な計らいなんだろうか…!!
素敵な対応をしてくれたお店に対し、宏樹達含めた一行は感動でテンション爆上げだった。
先程まで沈んでいた雰囲気は、一気に最高潮まで達し、いつのまにか皆笑っていた。
「というかあれ?これって…オムライスじゃね!?」
そんな中、幸人がメニューの内容を見てそう声をあげる。
初めケチャップ文字のインパクトで気がつかなかったが、言われてみれば確かに違う。
それは、お子様ランチではなく、幸人の頼んだものと同じオムライスだったのだ。
…これは…間違い………??では…ないってこと……?
普通なら店員が違う料理を出したと思ってしまうだろうが、今の皆にはこれが間違いだとは思えなかった。
「きっと、間違いだと気づいた店員が変えてくれたんだよ!」
「そうだよそうだよ!だってルゾンテから来てる客なんて私達くらいでしょ!」
樹と秋葉が、少し興奮気味にそう言う。
宏樹にはわかった。
二人の声に少しばかりの“気遣い“が含まれていることに。
彼はそのことに気がついてもなお、無言の頷きで二人の考えに賛同の意を示す。
「いやぁ…良い体験をしたな。これは…」
場が静かになった時、宏樹がそう呟く。
「本当にね…!感謝しても仕切れないよ…!」
その呟きに、美咲が涙を拭いながら言う。
彼女の言葉に心から共感した。
まさか海外でこんな温かい体験ができるとは、露ほども思っていなかった。
もし、ファミレスへと入っていなければ、気の優しい店員とは出会っていなかっただろう。
もし、お子様ランチを頼んでいなければ、こんなに温もりのある体験はできなかっただろう。
過ちを犯したからこそ、人の温かさに触れることができた。
過ちを犯したからこそ、本当の正解を見つけることができた。
過ちを犯したからこそ、少年少女はまた思い出すことができた。
いつの間にか忘れてしまった、間違うことの必要性を。
そんな”間違った選択“によって並べられたオムライスは、どこか懐かしい味がした。
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