第21話 美しい広場にて...



翌日。

一行は「美しい広場」と呼ばれている観光地へと足を運んだ。


「わぁぁぁ………」

「すごい景色……!!」


だんだんと近づいてくる見慣れない建築物の数々に、皆は感嘆の声を漏らす。


まず目の前に姿を現したのは「聖ポロフスキー大聖堂」

まるでお菓子でできたお城かと思うほどカラフルで、それでいて荘厳さも兼ね備えた美しすぎる建築物だ。


「いやぁ〜にしても、多いねぇ〜」

5人組のうちの一人、美咲がそう話す。


「本当本当!まさに観光地に来たって感じがする!」

その感想に秋葉がありきたりな返事を返す。


二人がそう話している通りこの「美しい広場」は、クビンクの中でも屈指の観光名所となっており。

昼夜や季節を問わず多くの観光客が足を運んでいるのだ。


もちろんこの広場内にある美しい建築物の数々を見に来ている者も多いのだが。

この広場にある魅力は、何も建築物だけではない。


「お!見えてきた見えてきた!!」

「ん?何が見えてきたんだ??」


樹がある建物を発見したようだ。

「ん…?あれは確か……」


樹が指差す方にあったのは、これまた立派な城のような建物だった。


「あれはなんだ?城か??」

幸人が頭に浮かんだ疑問符を、そのまま口に出す。


「確かあれは…博物館だったっけ…?」

旅行計画を立てていた宏樹は、ネットでちらっと見た情報を頭の中から引っ張り出して喋る。


「そう。あれは『クビンク国立歴史博物館』だよ」

宏樹の回答の後に、樹が正解を発表する。


『クビンク国立歴史博物館』

赤煉瓦で作られたその建築物は、絵本に出てくる城を思わせるような特徴的な外観をしており。

大聖堂や城壁にも引けを取らないほど、存在感溢れる建物だ。


そんな博物館の前まで歩いて来た一行。


「にしても…あまりにデカいな…」

その博物館を前に、幸人は息を呑んで天を見上げる。


「どれくらいあるの?」

秋葉が幸人にそう尋ねる。


「え…?いやぁ〜100mくらいはあるんじゃね??」

「100m?そんなに高いの!?ビルじゃん!」

そんな二人のやりとりを聞いていた樹が、口を開く。


「今現在の高さは、およそ60mだとされているよ」

「へ…へぇ〜そうなんだ…」

幸人が恥ずかしそうにしていると、樹がさらに続ける。


「昔は70m前後あったらしいんだけど、戦争によって建物の一部が壊れてしまったんだ」

「戦争で…?」


樹曰くここモスコワはクビンクの首都であるため、戦時中は集中的に狙われたそうで。

その影響が今でも色濃く残っていると話してくれた。


「なるほどねぇ〜」

「勉強になるよ!」

幸人と美咲がそれぞれ、樹の話に感想を述べる。


「樹はほんと物知りだなぁ」

「だよね!インテリって感じがするもん!」

二人の感想の後、宏樹と秋葉が樹のことを誉め立てる。


「まあ、この場所の歴史を語るには、僕の口だけでは数が少なすぎるかな」

その賞賛の声に、彼もノリノリでインテリを演じる。



そんなやりとりをしていた一行は、それから「美しい広場」の中を自由に歩き回った。


まず、皆が足を運んだのは目の前の建物「クビンク国立歴史博物館」だ。


「わぁ〜、なんて迫力…!」

「これは…まじでやばいな………」

館内に入った一行は、目の前に飛び込んで来た光景に言葉を失う。


はじめに一行を迎えたのは、天井に描かれた皇帝や大公らのフレスコ画だった。

数十体の偉人たちが一斉にこちらを見つめている様子は、まさに圧巻の一言に尽きるものだった。


そんな驚きと共に始まった博物館観光。


主な展示物は、かつての帝国時代を生きた我々の祖先達の暮らしに関するもの。

加えて、皇室にて皇帝らが使っていたとされる、宝石や武器といった品物なども展示されていた。


「え!?ねえねえ幸人!これ…ダイヤモンド!!?」

その展示物である宝石を見るや否や、大興奮する秋葉。


「おぉ!確かにそうだ!初めて見た!!」

そんな秋葉の驚きに、しっかり続く幸人。


…へぇ〜これがダイヤモンドか…!!

ダイヤモンドという存在は知っているが、実物を見たのは確かに初めてかもしれない。


そんなレアなものを間近に見ながら、さらに歩みを進めていく一行。

そして、とある絵画が見えてきたところで、一人が声を上げた。


「あ…!あれは…!!」

その人物は、見えた絵画に小走りで向かっていった。


「樹…?…この絵画は…?」

「この絵は歴史好きにはたまらない絵画だよ!!」

珍しく興奮している樹を見ると、宏樹は少しだけこの絵に興味が湧いた。


「なんていう名前なんだ?」

そんな彼は、樹にそう聞いてみる。


「これはビクトレー・ヴァスネクフが書いた、『石器時代』っていう絵画だね」

すると、二人の話に美咲が入ってきて、そう説明した。


「ちなみにヴァスネクフは、宗教画や歴史画などを描いた19世紀の画家だよ!」

「そうそう!宗教からの派生で神和などの絵画もたくさん描いているんだ!」


会話に入ってきた美咲は、流れるように宏樹のポジションを奪い、樹との話を勝手に進めていく。


「な…なんだなんだ…?急によくわからん画家の名前…」

「私たち、知識がないからわかんないよ…」


そんな話を横で聞いていた秋葉と幸人が揃って微妙な顔をする。


「それじゃあ、私がこの絵画について色々語ろうか?」

「宗教画には強いから、そこの解説は僕が担当するよ!」


浅学な二人に対し、美咲と樹がここぞとばかりに学を出そうとする。


「いや…俺はいいかな」

「私もいいや」

「ちぇぇ〜、つれないなぁ」

しかし、そのお誘いは残念ながら遠慮されてしまった。


…俺も正直よくわかんないし…いいかな…

話の発端である宏樹は、その4人のやりとりを遠い目で眺めていた。


展示物への興味は人それぞれであったが、博物館観光には皆満足したようで、3時間近くを館内で過ごした。


✳︎ ✳︎ ✳︎


そんなこんなしているうちに、時刻はそろそろ12時を回ろうとしていた。


「おーい3人とも!こっちこっち!」

別々で動いていた樹と美咲が手を振ってこちらを呼んだ。


「どうしたの?」

「そろそろ混んでくる時間帯だから、早めにお昼にしようと思ってさ」

再び5人集まったところで、樹がそう提案した。


「確かに、昼頃になるとお店は混むだろうし…!」

その意見に賛成した一行は博物館を後にして、近くの飲食店を探し始めた。


それから数分歩いて程なく、美咲が人の集まるレストランを発見した。


「結構人が入ってるね!」

秋葉がウキウキな顔でわくわくを口からこぼす。


「本当だ!有名なレストランなのかな??」

内装からして飲食店なのだろうが、看板などがないためパッと見ではなんのお店なのかわからなかった。


しかし、中に入って店員に案内されたテーブルへと着いた時、一行はすぐにそのお店の正体がわかった!


「え!?嘘!?…ここファミレス!!!??」

美咲が口を押さえながら驚く。


見慣れたメニュー表に押しベル、そして何度も目を通したお決まりのメニュー表。

そう。一行が入ったお店は、地元でもよく行っているファミレスだったのだ。


「うぉーい!!ファミレスかよ…!!」

「海外にもファミレスあるんだな…」

外観からはファミレス感は感じられず、看板等もなかったため気づくことができなかったのだが…。

まさかこんな展開になるとは…。


「えぇ〜…おしゃれなお店だと思ったのに…!!」

秋葉は旅行に行く前から海外に憧れていたのもあって、心底がっかりしていた。


「西洋料理に触れられると思ったんだけど……」

そんな中、樹も別の理由で落ち込んでいた。


「ごめんごめん、明日はいいお店予約してるから落ち込まないで」

「え!?本当!??」

美咲のそのフォローに凄まじい勢いでテンションを取り戻す秋葉。


「それは西洋料理?」

「もちろん!」

「なら…。今日は諦めようかな」

その言葉に樹も納得した表情を見せた。


少々残念ではあるが、ようやくファミレスでご飯を食べると腹を決めた一行。

そんな彼らは各々メニュー表を手に取り、中を開いてメニューを眺め始めた。


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