第20話 ゴージャス!プレシャス!マーベラス!



それから数日後…。


ついにやって来たクビンク出発当日。

旅行メンバーである5人は、福兵ふくべ空港へと集まった。


飛行機の搭乗時刻までは、およそ30分ほど時間がある

それまでの間、宏樹達はロビーで雑談をしていた。


「ついに出発だね!みんな!!」

美咲がわくわくしながら口にする。


「だな!たまたま抽選に参加して本当良かった!!」

その言葉に宏樹も乗っかって賛同する。


「本当にね…!自腹じゃ絶っっ対に払いきれない額だったもん…!!」

彼のその発言に、秋葉が苦笑いしながら不穏なことを呟く。


「そうだな…少なく見積もっても120は超えてたし…」

それに続いて、幸人が恐ろしい言葉を口にした。


「確かにお金はかかったけど、今回行く場所はそれだけの価値があると思う」

二人がそんな生々しい話をしていると、樹がサクッと話の路線を変えた。


そう彼が語る今回の旅先はと言うと、初めに「美しい広場」とその横の「ポロフスキー大聖堂」

そして翌日と翌々日にそれぞれ「クビン戦車博物館」と「英雄都市」の三箇所を巡ることになっていた。


これらの観光地は樹の言う通り、歴史・文化的にも大変価値ある土地なため社会勉強になるのは間違いないだろう。


「確かに!宏樹が決めた割には案外悪くない旅先になったと思う!」

樹の力説を聞いた美咲が、余計なことを口走る。


「それ思った!最初は銀ちゃんに任せるの不安だったけど!」

その意見に、秋葉も同じことを思っていたと話す。


「まるで期待してなかったみたいな言い草だな…?」

その二人の発言に、いまいち納得のいかない宏樹。


そんな彼女達の話しからもわかるように、今回の旅行日程を決めたのは主に宏樹だった。


そうしなければならなかった理由はただ一つ。

偵察地であるヴォルグとクビンを確実に経由する必要があったからである。


この宏樹の決定には、当然ながら反対意見が上がり、一時はどう説明しようかと思っていたが…。

彼はそこを『絶対に納得する旅先を選ぶから』という力説でなんとか突破し、無事に皆の承認を得ることに成功したのだ。


「まあでも、次旅行に行く時は皆で決めような」

「…そうだね…!」

そんな手に汗握る重たい場面をどうにか乗り越え、ようやく待望の旅行が今始まろうとしていた。



雑談をしていた一行は、ようやく準備が終わった機体へと搭乗し、長い長い空の旅へと飛びたった。


宏樹は小さい頃によく飛行機に乗っていたと、親から聞かされていたのだが。

いざ、離陸をすると言う時に嫌な浮遊感に襲われ、若干酔ってしまった。


彼は昔から乗り物酔いが酷く、移動する車の中でスマホを見ようものなら一日中頭痛を引っ張ってしまうほどだった。


平気そうに軽食を食べたり音楽を聴きながらうとうとしている友人を横目で見て、宏樹は羨ましく思いつつ窓外の景色に目を戻した。


それから数時間に及ぶ飛行機での移動が終わり、一行は目的の地「クビンク国際空港」へと到着した。


✳︎ ✳︎ ✳︎


「ーーー白銀の大地、クビンクへようこそーーー」

Добро пожаловать в ようこそクビКубинкンクへーーー」


機内アナウンスからは、日本語とロシア語の両方が流れてくる。


「きたねきたね!!海外!!!」

「初めての海外…!!まるで異世界に来たみたい!!」

機内から降りるや否や、子供のように大はしゃぎする美咲と秋葉。


それもそのはず。

国が違えば、ある程度建築物の在り方も変わるもの。


「確かに…ルゾンテとはかなり雰囲気が違うな…」

同じ空港でも、やはり自国のそれとはどこか違うものを感じた。


「そうだな…!海外はやっぱこうでなくちゃ!」

女子二人がはしゃいで自撮りなどをしている間、男子陣はスマホで空港ロビーを撮影し始めた。


「持ってきておいて正解だったよ、一眼レフ」

皆がスマホを片手に持つ中、樹だけは本格的なカメラを持ってきていた。


「後で撮った写真をみんなに送るよ」

「本当!?ありがとう樹くん!」

彼の提案に、秋葉がそう感謝を伝える。


彼は趣味で街や河川などの風景を普段からよく撮っている。

旅行の写真は彼に任せてておけば、間違いないだろう。


そんなロビーでのひと時を過ごした一行は、美咲の先導でバスへと乗り込み、予約をしているホテルへと向かった。


玲良の言っていた通りこの時期のクビンクはあまり寒くはなく、路面には雪一つ見当たらなかった。


雪がないおかげか思った以上にバスでの移動は快適で、酔いやすい宏樹を除く他四人はうとうと眠っていた。


そうして、ついにバスが目的地のホテルへと到着し、ようやく丸一日に及んだ移動が終わりを迎えた。


「あぁ〜長かった〜!!」

バスから降りた美咲がぐぅ〜んと大きく背伸びをする。


「長かったって…美咲は一番初めに寝てたじゃん笑」

バスでの移動中、ずっと起きていた宏樹が笑い混じりに公言する。


「えー!見ないでよエロい!!」

「いや、エロいってなんだよエロいって…!」

唐突に謎の疑いをかけられた宏樹は、呆れながらツッコミ返す。


その後、ホテルの中へと入った一行は、美咲がチェックインをしている間、ロビーの中で待機していた。


「すっごぉぉおおーいい!!あまりにも…ゴージャス……!!!」

ロビーで待っている間、秋葉が周囲をぐるりと見回しながら、感嘆の声を漏らす。


空港の雰囲気もかなり新鮮だったが、このホテルの内装はそれを軽々と超えていた。


床には鏡のような輝きを放っている白い大理石が使われ、高い高い天井には金色の麗しい装飾が施されている。

天井からは花火を思わせるような豪勢なシャンデリアが吊るされ、それと同様のオブジェがシャンデリアの下に鎮座していた。


壁に目を向ければ中世的なお城が描かれた大きな絵画が飾られており、どこを切り取っても美しい内装を拝むことができた。


「これはレベルが違うね。撮り甲斐があるよ」

皆がそんな優雅な内装を眺めて堪能している中、樹はカメラ片手にロビーの至るところを撮影していた。


楽しみ方は人それぞれだったが、普段見ることのないオシャレなものを前に、皆の気分は最高そのものだった。


「ヤッホー、お待たせ〜チェックイン終わったよ〜」

「お〜、ありがとう美咲!」

そんなこんなしていると、チェックインを終えた彼女が皆の元に戻って来た。


チェックイン後、キャリーケース片手にエレベーターへと乗り込み、今夜宿泊する部屋へと向かう一行。


「あたし達は、1310で男子達は向かいの1311だよ。はい!これ部屋の鍵」

13階にある宿泊部屋の前へと着くと、美咲が軽く説明を挟み部屋の鍵を手渡してきた。


渡された鍵を使って男子達は部屋に入った…。


「…!?…うっわぁあ……おしゃれすぎるだろこれは………」

「やっばいな…まぁじでレベチだわ………」

「だな…足を踏み入れるのも迷うくらいだ……」

部屋へと入った3人は、すぐに立ち止まる。


床に天井、壁。

そして大きな一枚窓から見えるクビンクの美しい夜景。


ロビーの豪勢さもさることながら宿泊する部屋もまた、漏れることなく優雅で完成された作りをしていた。


まだ旅は始まったばかりだと言うのに、男子達はまるで人生の最高到達点にいるかの如く。

満ち足りた表情を浮かべながら、部屋の中へと入り込んだ。


「ベッドに鏡に照明も!全てにおいて抜かりない…」

「これはマジですごい…!」

「どこを撮っても絵になるとは、まさにこのことだね」


改めて部屋の中をじっくり見渡してみた男子達は、それぞれが思ったことを口にする。


部屋の中は基本的な外装だけでなく、ベッドや鏡などの家具。

スリッパやアメニティなどの小さな備品に至るまで、どれもこだわり抜かれた一級品ばかりだった。


それから、ホテルの部屋でしばらく夜景を見たり、写真を撮ったりしてくつろいでいた3人。


このまま夜が明けるまで過ごしてみたい気分ではあったが、明日も朝早くから観光の予定が入っている。

一日中歩き回るだろうから、今夜はゆっくり眠ったほうが賢明だろう。


そう思った彼らは、順番にシャワーを浴びパジャマへと着替えると、11時過ぎにはベッドへと入り。

明日からのクビンク旅行開始に備えて、早めに就寝した。

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