第19話 ワクワクドキドキ
「ただいまー!!」
ウキウキな気分で自宅へと帰って来た宏樹。
彼が玄関を開けると、リビングから母が顔を覗かせる。
「おかえり。ずいぶん早かったね?」
早朝この家を出る時、彼は昼過ぎくらいに帰ると母に伝えていた。
しかし、現在の時刻はまだ11時を過ぎたばかり…。
「早めに用事が終わったからね!すぐ帰って来たんだ…!」
彼はそういえばそんなこと言ったなぁ…と今更思い出し、適当に理由をつける。
幸い学校の用事としか伝えていないので、特に怪しまれることはなかった。
「昼ご飯はどうする?もう作ろうか?」
そんな母は、今から昼ご飯を食べるかどうか聞いてきた。
しかし…。
「いや!後から食べるからまだ大丈夫!!」
今からやることがある宏樹は、そう母に言いながら急いで階段を駆け上がっていった。
「よし…っと…!そしたら…!」
自室へと戻った彼はひとまず自分の椅子へと腰掛ける。
「まず、状況を整理しよう…!」
未だ興奮気味な彼は、一旦立ち止まりまずこれまでの話を整理するところから始めた。
…図書館で宿号研究をしている玲良さんと会って、情報を教える代わりに任務を任された…
そうして、図書館到着から任務を引き受けたところまで、なんとなく整理をした宏樹。
「そしてこれから…旅行に行くメンバーを決めて…全員を集合させてから……」
それが終わると今度は、今から自分がやるべき行動を頭の中でシミュレーションし始めた。
…いや…集合させるって、なんて説明すればいいんだ…??
だが、詳しくシミュレーションをしていくにつれて、友人を連れて行く上で幾つかの懸念があることがわかってきた。
…怪しまれるのだけは、絶対に避けないと…!
旅行に行ける根拠は?なぜクビンクなのか?なぜお金はかからず日程も自由なのか?
友人を誘う上で対策しておくべき課題は、無数にあった…。
…これは…俺一人じゃ無理だな…
ーーープルルルル…プルルルル…ーーー
あまりの課題の多さに、宏樹は一人では無理だと悟り、ある人物へと電話をかけた。
「あいよー!どしたー??」
「よう幸人!今どこにいる?」
それは友人の幸人だった。
「家にいるぞ」
「少し話できるか?」
宏樹は電話に出た彼に、今の居場所と時間があるかどうか尋ねる。
「おういいぜ!なんかあったか?」
「実はよ…かくかくしかじかあって……」
向こうがその頼みを快く承諾してくれたため、宏樹は早速例の任務の件を彼に話した。
「待て待て!!傑帥じゃない人も連れて行っていいのか…!?」
話を進めていくにつれて、幸人のテンションは宏樹と同じくどんどん上がって行く。
「ああ、ちゃんと確認して許可をもらったぜ」
「か…神すぎるだろそれ…!!」
そうして預かり受けた任務について一通り話し終えた宏樹。
「そこでだ幸人…!俺は他に美咲と秋葉ちゃん、そして樹を連れて行こうと思ってる。どう思う?」
そんな彼は、旅行には仲のいい三人を誘おうという案を幸人に話した。
「いいと思うぜ!俺もその案に賛成だな」
「だろだろ…!?」
宏樹が提案した案は、無事に彼からも承認された。
「そうと決まれば早速!あいつらに集合するように俺が伝えるぜ!!」
その案を聞いた幸人が、SNSでその三人に今夜集合するように呼びかけの連絡をしてくれた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
その日の夜7時。
「おー二人とも来たな!」
先にファミレスについていた宏樹と幸人、そして樹。
「お待たせ〜!」
そこに美咲と秋葉たちが合流して、ようやく5人が揃った。
「一体何なの?話したいことって?」
「まあまあ、それはこれからのお楽しみだぜ」
気が早い秋葉が早くも幸人に尋ねていたが、彼はひとまずそれを受け流す。
それから五人はファミレスの中へと入り、各々が夕食のメニューを注文した。
「はい!じゃあ早速だけど、今日集まってもらった三人に話したいことがある」
注文を終え一息ついたところで、宏樹がそう話を切り出す。
「何だよ、改まって」
「本当にね!そんなに大事な話なの?」
宏樹の様子にどこかおかしさを感じる樹と美咲。
そんな彼らに、宏樹は例の話を”別の形“で話し始める。
「えー!!!嘘でしょ!!?本当なのそれ!???」
「ああ、間違いないぜ」
宏樹の話を聞いて驚く秋葉に、口裏を合わせておいた幸人がすかさず合いの手を入れる。
「へぇ〜やるじゃんか宏樹!」
それに続いて樹もその話に食いつく。
「でもクビンクって、珍しいね?どこの夏祭りで当てたの?」
しかしながら、宏樹が”でっち上げた話“をやや慎重な面持ちで聞いている者がいた。
「博万の商店街だよ。夏休みに入ってすぐにやってたやつ」
…なんか疑ってる顔だな…
「ふ〜ん。博万かぁ」
それは宏樹の恋人である美咲だった。
集まってくれた三人に対し、宏樹が話した内容はこうだ。
「博万の商店街でやっていた夏祭りにたまたま足を運び、抽選会に参加したらクビンク旅行券が当たった」
「まあ確かに、言われてみれば少し妙かも…」
その胡散臭い内容にやや疑問を感じている美咲に、樹まで何やら言いたげな様子を見せる。
…い…樹まで…
「仕方ねぇな…ちょっと待ってな」
そんな風に少し空気が変わってしまったところで、すかさず宏樹がバッグからあるものを取り出す。
…「…ほら!これで信じられるだろ?」
彼が取り出したものは、とあるチケットだった。
「そ、それは…!!!!」
そのチケットを見た三人は、みんな目を丸くして驚いた。
「え!!?当てたのってまさかこれ!!?これなの!?」
その中でも、特に美咲が大きな声で驚き…。
「おいおい!それ本物かよ!?初めて見たよ!!」
樹は普段からは想像もつかないほど興奮していた。
彼らがそんな反応を示すのも無理はない。
なにせ宏樹の手に握られていたのは、5枚のクビンク行きFALtravelチケットだったのだ。
FALtravelチケット。
自由に(Free)誰でも)anyone)贅沢に(luxury)という意味合いを持つこのチケットは、国存戦争終結後に始まった施策によって配布が始まったものであり。
その意味合いの通り、お金や場所などに縛られることなく、誰でも旅行ができてしまうという超豪華なチケットだった。
終戦から半世紀近く経った今でも定期的に発行され続けているようで。
選挙に参加した人限定の応募会だったり、祭りの抽選会などでたびたび目玉商品となっている。
「ああ!本物だとも!!」
そんな誰しもが欲しがっているチケット。
5枚も持っていたら驚かれるのは当然のことだろう。
…良いね良いね…!この反応は良いね…!!
しかしながらこのチケットはもちろん使用済みで、幸人の親がたまたま保管していたものを引っ張り出してきただけだった。
…完璧な流れだな…!!
任務遠征中の支払いも旅行チケットと同じくカード支払いのため、この方法で上手く皆を説得させられるだろうと踏んでいたのだ。
「それにしても、すごいね!それ!!」
そんな裏話があることなど梅雨ほども知らない美咲が、感嘆の声を上げる。
「だろ?当てた時はマジでびっくりしたぜ!」
幸人が持っていた最強の説得材料のおかげで、どうにか旅行の上手く三人に持ちかけることに成功した宏樹。
そんな彼は、続けて彼らに対しこう提案をする。
「そんでこの旅行券なんだけど、今日集まったこの五人で使いたいんだ!」
当初の予定通り、宏樹はこの五人のメンバーで旅行に行きたいと話した。
「え!!本当に!?本当に良いの!?」
秋葉はわかりやすくテンションが上がる。
「それは嬉しいけど…普通は家族と行くんじゃないの?」
「なんか、悪い気がするな…」
だが、その提案を聞いた残り二人は、少し遠慮していた。
…ここで遠慮するのか…それなら…
「…母さんが、友達と一緒に行きなさいって言ってくれたからさ…」
そんな二人に宏樹がそう付け加えて説明をする。
「それなら…。お言葉に甘えようかな…!」
「…じゃあ僕もそうしようかな…!」
それを聞いた二人も秋葉に続いて、宏樹からの提案を喜んで受け入れた。
「よっしゃ!そう来ないとな!」
こうして無事、五人で旅行に行くことで話が纏ったところで、注文していた料理が届いた。
「そんじゃあ、飯を食ってから旅行の計画を皆で立てよう…!」
ご飯が並べられると、宏樹が早速そうみんなに提案した。
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