第17話 弄ばれて大ピンチ!?



「うわ!!!?!」

静かな図書館に、宏樹の悲鳴が響く。

あまりに驚いた彼は、座っていた椅子から転げ落ちてしまう。


「な…なにするんですか急に??」

転げ落ちた彼は突然驚かされたことへの怒りと、いったい誰だ?という疑問が混じった声を、背後にいる者に投げかけた。


…だ…誰だ…?この人……

後ろを振り返ると、そこには見知らぬ女性が立っていた。


「ああ…ごめんね。そんなに驚くとは思わなかった…」

宏樹が女性のことをじっと見つめていると、彼女は少し申し訳なさそうに言った。

謝れば良いものでもないぞ?と思っていたが…。


「君みたいな若い子に話しかけるのは久しぶりでさ…どう声をかけて良いかわからなかったんだ…」

女性がどこか物憂げに呟くので、彼は少し冷静さを取り戻した。


「は…はあ…普通に声をかけてくれれば…良いと思いますよ…」

宏樹はそんなオドオドしている彼女に、親切に助言する。

すると…。


…え…??なになに!今度はなに…!?

「な、なんですか……!??」

すると女性は地面にへたり込む宏樹に近づいて来て、着ているスカートを舞い踊らせながらその場にしゃがんだ。


「ふふ…。優しいんだね…君は…」

女性が低い声で話しかけてくる。

しかし、今の宏樹はそれに返事を返すどころではなかった。


「…いや…そんなことは…」

なにせ彼の視界には、女性のスカートの中が丸見えな状態で広がっていたのだから。


「…まあ。それはさておいて…」

宏樹が恥ずかしそうに視線を逸らしていると、彼女はそう言いながらスッと立ち上がり、背後にあるテーブル横の椅子に腰掛けた。


「…?」

「君も座って。いろいろ話したいことがあるからさ」

女性は、ケロッとした顔で地面に腰をついている宏樹に呼び掛ける。


「…わ、わかりました……」

突然声をかけられ驚かされた上に、あられのない物まで見させられて、いまいち彼女のペースについていけないが…。

ひとまず話がしたいと申し出てきたので、彼は大人しく彼女の指示に従うことにした。



「まず、紹介がまだだったよね」

徐に立ち上がった宏樹が近くの椅子に腰掛けると、謎の女性は改めて自己紹介を始めた。


「私は吉故よしもと玲良れいら。年齢は23歳」

玲良と名乗った人物は、さっきのイタズラ好きな小悪魔感が嘘のように、まともに話を展開していく。


「英傑はアバディーヌの『T34』に乗っていて、ここの主力傑帥も務めてるんだ」

「え!主力って…安奈さんと同じじゃないですか!!」

そんな彼女が主力傑帥を務めていると知り、宏樹は少し驚いた。


「じゃあ…すごく強いんですよね?」

「まあ…安奈ほどじゃないけれど…それなりに腕は立つ方だよ」


…な〜んだ…ちゃんとしてるじゃん…!

それを聞いた宏樹は、玲良に対する見方が少し変わった。


「職業はこの図書館の司書をしていて、今日もその仕事をしに来たんだ」

彼女は少し変わっている所こそあるけれど、ひとまずしっかりしてそうな相手だったので安心した。


「へぇ〜司書さんなんですね。なんというか…そんな風には見えませんでした…」

そんな玲良の話を一通り聞いていた宏樹だが、司書をしていると聞いて少し意外だなと思った。


司書だと話す彼女の服装が、およそ彼の中の“それ“のイメージとかけ離れていたからだ。


青藍色のハイウエストスカートと、襟元に同じく青藍色のリボンがあしらわれた白色のロリータブラウス。

躍動感に溢れるキャラメル色でミディアム程の長さの髪。そのスタイルを完成に導いているチャーミングな雪のピアス。


その様は本を扱う司書というより、本から出て来たお姫様という方が正しくて。

その姿は同じ世に住む人とは思えないほど美麗で、良い意味で非現実感があった。


「…え?もしかしてこの服装…変だった??」

「いやいや!自分のイメージとは違うってだけで、その服はすごい良いですよ!!」

宏樹は先ほど自分が言った言葉が、ややネガティブに伝わりそうだったので急いで弁明した。


「むしろ、古めの図書館とうまく溶け合っていると思いますよ」

「本当?それなら良かった。この服すごく気に入ってるんだ」

少し微笑みながらそう告げる玲良の姿を見て、宏樹は心の中でホッと安堵のため息をついた。


彼女の紹介が終わったところで、宏樹の方も自分のことを紹介した。


「へぇ〜17歳なんだ…!若くっていいなぁ〜」

年齢を公表すると真っ先に玲良がそう突っ込んでくる。


「いやいや…玲良さんと歳近いじゃないですか」

宏樹はそんな彼女にさらに鋭いツッコミを返す。


「えー!すごい変わるよ!6年あったら女の子は色々変わるんだから!」

「…そ…そうなんですね」


…誰かの彼女みたいな感じだな…

微妙にずれたことを言う姿が、どこか幸人の彼女に似ているなと宏樹は思った。


「…まあそれはさておいて…。自己紹介も終わったことだし!早速、本題に入っても良いかな?」

そんなこんなで自己紹介も無事終わり、今度は彼女が話の主導権を握った。


「いいですよ〜。それで、本題って何を話すんですか?」

宏樹も歳の話題を引きずるのは面倒だと思い、快くその提案に乗っかった。


「それを話す前に一つ、聞いておきたいことがあるんだけど…」

宏樹の了承を得た彼女はやや声量を下げ、なにやら意味ありげに言ってきた。


「聞きたいこと…ですか?」

「うん…」

一体なんだろう?と思っていると…


「宏樹君は…ここで何をしていたの?」

「…え………」

恐ろしく心臓に悪い質問が飛んできて、宏樹は言葉を失った。


「あ〜…えっと、少し本にきょうみがあって…それで…」

あまりに急に聞かれたもので、彼はしどろもどろになってしまう。


「ふ〜ん。何か探し物をしていたみたいだけど?」

「…いや…別になにも探しては…」

不意を突かれてしまった宏樹は、なんとか言い訳をしようとしたが…。


「そうなんだ…。じゃあ…さっきの独り言は私の聞き間違いだったのかな?」

そんな彼に対し、玲良が首を傾け考え混むような表情で言い放った。


…えっ!!?

その発言を聞いて宏樹はゾッとした。


…この人…いったい何時からここにいたんだ…??

誰もいないと思って喋っていた独り言を、どうやら玲良に聞かれてしまっていたらしい。


「…いつから…聞いてたんですか?」

宏樹が恐る恐る彼女にそう聞いてみると…。


「君が図書館に来た時くらいから聞いてたよ」

「そうですか……」

それを聞いた彼は絶望した…。


…なるほど…ずっと聞かれてたんだな…

宏樹はもう言い逃れはできないなと思い、正直に何をしていたかを打ち明けようと決心した。

しかし…話の展開は誰も予想していなかった方向へと向かっていくことになる…。


「安心して。君を責めるつもりはないから」

「…はい」

彼は、今からお説教が始まるのだと思いながら話を聞いていた。


だが彼女は、思いもよらないことを言った。

「だって、私も君と同じ取り組みをしているんだから」


………え?????

「え!…それって…どう言う意味ですか…!??」

宏樹が目を丸くして玲良を見つめていると、彼女はクスッと笑う。


「え〜?わかるでしょ?宿号の研究だよ!」


「……ええええ!?」

…宿号の…研究…!!!?

その話に宏樹は思わず大きな声を出す。


「し〜〜〜」

「あ…!…すいません……」

あまりに大きな声だったせいで彼女に注意された。


「…それでね。本題っていうのは私が宿号の研究をしているよって話」

「そうだったんですか…!」

冷静になってもなお、宏樹は驚きと感動が声に出る。


「今、君が欲しがっているっていう情報も、持っているかもよ?」

「マ…マジですか…!!?」

それを聞いた彼のテンションは、最高潮に達しそうだった。


「教えてください!その情報…!!!」

宏樹は藁にもすがる思いで玲良に頼み込んだ。


「教えてあげても良いけど、一つ頼み事を聞いてくれるかな?」

すると彼女は情報を教える代わりに、とある依頼を聞いて欲しいと言ってきた。


…頼み事か…難しくなければ良いけれど…

その要求に対し宏樹は一抹の不安こそ感じたが、ここで引きさがる理由にはならなかった。


「...はい!僕にできることなら何でもします!!」

意を決した宏樹は、玲良からの依頼を受けることにした。

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