第五章 海外旅行を頼まれる?
第16話 手掛かり探し
終業式から数日が経ったとある日の早朝。
ーーーギィィィィ〜〜〜ーーー
鈍く大きな音が周りに響き渡る。
それはハルマの都の図書館の扉を開ける音だった。
「失礼しま〜す」
扉を開けた少年が小声でそう言いながら、図書館の中に入る。
それは夏季休暇中の宏樹だった。
…誰もいないかな…?大丈夫そうかな…?
彼は図書館の中をぐるっと見て周り、ひとまず図書館に誰もいないことを確認した。
彼はとある用事のためにここに来ていた。
「結構広いぞここ…」
改めて図書館の中を見て周った宏樹はそんな感想を抱いた。
それもそのはず…
「この中から探すのはだいぶ骨が折れるな…」
彼の用事というのは青年から言われていた、図書館に眠っている宿号の情報を探すことだった。
だからこそ、この広い図書館を前に少々萎えているのだ。
「仕分けもされていなさそうだし…」
加えて、木製の書棚には本の所在を示すようなものは書かれておらず。
ただひたすら本が並んでいるだけのシンプルかつ意地悪なデザインだった。
「こんなんどうやって探せばいいんだよ……」
そうは言っても、目の前の書棚だけが今の自分が知っている唯一の情報源。
他に思い当たる手掛かりもない。
「まあ…とりあえずやるしかないか……」
宏樹はそう言って、書棚に並べられた本を片っ端から手に取りはじめた。
「んんんんん〜〜〜〜……この列はないな…」
まず初めに、彼が始めたのは書棚に並べられた本を目視で見ることだった。
幸いなことに本の背表紙には内容を示すタイトルが書かれており、目視でも概ね目的の情報が書かれていそうな本を探すことは可能だった。
「…お!あの辺りならありそう…!!」
そうやって目視で書棚を見て周っていると、ようやくそれらしい本を見つけた。
ーーー都と戦争ーーー
宏樹が手に取った本の表紙にそう書かれていた。
「都…例の襲撃事件の話だろうか?」
そのタイトルから何か情報が得られるかもと思い、本を開けてみる。
「ん〜〜?これは……」
開けた本のページをパラパラとめくってみると、そこには国存戦争時代に起こった都市の占領に関する情報が書き連ねられていた。
「違うか…」
彼は本の内容に肩を落とし、その本を元に戻した。
「ん〜〜〜と…この列には……無いな……」
そうして気を取り直した宏樹が、また並んだ本を眺めていると…。
「お!あの本はそれっぽいぞ!」
先ほどよりも希望のありそうな本を見つけた。
ーーー消滅した村と謎の襲撃者たちーーー
背表紙に描かれた字面からは、まさに宿号のことを書いてあるように見えた。
だが、現実はそう甘くない…。
「これは…」
そこに書かれていた内容は、同じく国存戦争時代に旧仏門国の村で起こったとされる、残虐な略奪行為に関する歴史文献だった。
「これもダメかぁ〜」
彼はまたしても肩を落とし、手に取った本を書棚に戻した。
そうやって、目についた本を手当たり次第に取り出しては開けていった宏樹。
「ん〜これも違うかぁ〜…これも…どれも違うなぁ〜」
彼はある時から本をまとめて手に取り、それらをテーブルに並べてから中身を見るようになった。
図書館に置かれた本は戦争に関する内容が書かれたものが多く、一つ一つ取り出しては都度中身を確認する。
そんなことをしていては日が暮れると思ったのだ。
幸いにもファミレスの六人席ほどの大きさのテーブルが図書館内にいくつか置かれており、本を並べる場所は確保されていた。
そのため、この方法で宏樹は一度に多くの本を閲覧することができた。
しかしながら、その方法を試したとて宿号の情報を手に入れられるという保証はどこにも無かった。
「…もう2時間…こんなに本を開いたというのに…」
椅子に座ってそう呟く宏樹の前には、大量の本が積み重ねられている。
「はぁ…」
書棚の前に立っては本を取り出して並べ見るという作業を、もう十数回は繰り返した結果…。
何の成果も得られなかった。
「…本当にここに宿号の情報なんてあるのか…??」
積み上がった本の前で、彼はそう口に出す。
…いや…そもそもおかしくないか…??
そう口に出した時、矛盾とも言える疑問が彼の中に宿った。
…あの青年はもう20年も失踪しているんだよな…
ずっとここにいるアルフから聞いた話だから、その情報は正しいはず。
…なのにどうして、この図書館に宿号に関する情報が眠っているなんて知ってるんだ??
考えてみたらそうだ。
襲撃事件後に建てられたこの都には、あの青年は一度も来たことがないはず。
だぁら、ここの図書館の書棚事情を知っているのは、どう考えてもおかしい。
…あの青年…出鱈目言ってるわけじゃないよな…?
まだ全ての本を調べ終わったわけではないが、彼の心に宿った疑念は簡単には晴れなかった。
…宿号の情報は一応あったから、流石にそれは考えすぎか…
青年に対して少し懐疑的になりつつあった宏樹だが、全く情報が見つからなかったわけでもない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それは、いくつかの本の中からある一冊の古本を開けた時だった…。
「…!?何だよ…これ………」
宏樹はあまりの衝撃的な光景に思わず言葉を失う。
「まるまる切り取られている…!一体誰が……」
なんと開いた古本の中心部が、約20ページほどにわたって切り取られていたのだ。
「くそっ!こんなことされたら、一生見つからねぇじゃねーか!!」
これには流石の宏樹も憤りを隠せなかった。
この本がもしどこにでもある普通の古本だったら、彼もここまで怒ってはいなかっただろう。
だが、この古本には宿号の研究に関する内容や、青年が使っていたものと思われる技に関する情報が、いくつか記されていたのだ。
「ったく…一体誰がこんな…」
ようやく見つけた貴重な本の無惨な姿に、宏樹は残念な思いでいっぱいだった。
かつて北御谷の集落で行われていたという宿号研究は、襲撃があったことからも少なからず、危険を伴う取り組みだったことは明白。
その研究の集大成とも言える本を、こんな姿にされては研究をしていた人達があまりにも不憫だ。
「酷すぎだろこれは…」
悲惨な姿になった古本を前に宏樹が、苦言を呈していると…。
「ん!?…何か書いてあるなここ…!!」
切り取られたページの残った部分に、どこか意味身長な文字を見つけた。
『宿号。すなわちそれは
「どういう意味だ…??絶望はわかるが…希死って……」
その言葉の意味自体はもちろん知っている。
だが、それが宿号とどう関係があるのかは、全く持って不明だった。
「発見はあったけど…進展はしてないよな…」
この謎の文面は発見でこそあれど欲しかった情報ではなく、ただただ謎が深まってしまっただけだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「はぁ〜」
宏樹は机に並べていた本を、書棚に戻していた。
焦燥や疲弊といった負の感情が、彼の背中に幾つも寄りかかっている。
「これじゃあ、何をしに来たかわかんないな…」
2時間にわたる手掛かり探しで得たものは、戦争に関する情報だけ。
宿号に関する情報もあの謎の文面だけで、欲している情報は何一つ見つからなかった。
「まあ…まだ探し始めたばかりだし…」
とは言っても、2時間の作業の中で宏樹が目を通せた書物は図書館内のおよそ5分の1程度。
捜索はまだまだ始まったばかりだった。
「一回休憩挟んで、もう一回始めようかな」
しかしながら、再び作業に取り掛かるような気力は残ってはいなかった。
そこで、彼は一度休息を取ることにした。
「1時間くらいしたら、また再開しよう」
そう呟いて、宏樹が机に突っ伏して休憩をし始めてからすぐのこと…。
「ん…なんか………」
突然、鼻に違和感を覚えた。
さっきまでしなかった、甘い匂いを感じたのだ。
…この匂い…花じゃないよな…ってことは…
誰かの気配を察した宏樹が顔を上げて、辺りをキョロキョロとし始めたその時…!
「何の本読んでたの?」
耳元で誰かがそう囁いた。
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