第15話 夢見る少年少女
予約したお店に入った一行。
「こちらになります」
男性店員に誘導されながらしばらく歩いていくと、他の席と壁で仕切られた半個室の席へと案内された。
「ありがとうございます」
四人は店員にお礼を述べながら恋人同士で席へと入っていく。
「お客様、当店のご利用は初めてでしょうか?」
「はい!」
宏樹達が席に座り終えると、店員がそう尋ねてきた。
「メニュー表はそちらにございます。決まりましたらそちらのボタンでお呼びください。では失礼します」
美咲が初めてだと答えると、店員は簡潔にサービスの説明を済ませてその場を去った。
「はい!ありがとうございます」
…すごい気が利く店員さんだな…
彼女と店員とのやりとりを聞いていた宏樹は、そのサービスの良さに感心する。
「よっし!早速メニュー表見てみようぜ!」
四人だけの空間になった途端、黙っていた幸人が秒でメニュー表を掻っ攫う。
「ちょっと!私も見せて!!」
メニュー表を見ている幸人に被って秋葉もメニューを眺める。
「わぁ〜全部美味しそう…!」
対するこちら側では美咲が先にメニュー表を眺める。
「だねぇ〜、あ!これとか好きでしょ美咲?」
そんな彼女に、宏樹が横からある料理を指差す。
「フルーツ全乗せ!?スイカにメロンにマンゴーまで!!」
それは夏限定!と書かれた豪華な果実パフェだった。
「美咲フルーツ好きじゃん!これ頼みなよ」
彼女は大のフルーツ好きな女の子で、春夏秋冬問わず年中何かしらのフルーツを食べている。
「頼む頼む!絶対これ食べる!」
宏樹の提案したパフェに、案の定美咲は凄まじく興味を示した。
「俺は〜無難にキャラメルラテとシロップパンケーキにしようかな」
目を輝かせている彼女の横で、宏樹がそう呟く。
「二人はもう決まった?」
そうしていると対面の秋葉が、メニュー表を畳んでこちらに問いかけてくる。
「決まったよ〜」
「はーい。じゃあ幸人ならして〜」
「おっけーい」
秋葉にそう言われて、幸人が呼び鈴を鳴らした。
料理を注文をしてから十分後…。
「お待たせいたしました〜」
白く秀麗なエプロンをつけた女性が、これまたレトロチックな木製のキッチンワゴンに注文した料理を乗せて運んで来た。
「…最後に、サマージュエリーパフェのお客様」
「はーい」
美咲が注文した豪華なパフェが彼女の前に置かれる。
「注文は以上でしょうか?」
全員の料理を配り終えた店員が、そう尋ねる。
「はい!ありがとうございます!」
その問いに秋葉が元気な声で返事を返す。
「では、ごゆっくりとお過ごしくださいませ」
明るい声でそう言って店員は、テーブルを後にした。
「ねえこれやばくない!!?めっちゃ大きいんだけど…!」
その直後、静かにしていた美咲がわかりやすくテンションを上げてくる。
「すっげ…どっから食べるんだこれ…??」
「フルーツで埋め尽くされてる!美味しそうじゃん!」
幸人ペアも、彼女が注文したパフェの豪勢さに驚いていた。
「写真撮っとこ!これは絶対映える!!」
美咲はそう言って、スマホでパフェの写真を撮り始める。
「おいおい、写真撮るのは良いけど…溶けないうちに食べろよ?」
その様子を横で眺めていた宏樹。
パフェは下地のアイスの上にさまざまなスイーツが乗っかっているのだが…。
「わっ!…危なかった…」
ちょっと時間が経っただけでアイスが溶け出し、パフェの頂上に乗っていたマンゴーが落ちそうになった。
「ほらぁ〜」
宏樹が呆れた声を上げる。
「ん〜!これこれ!やっぱスイーツはガトーショコラが一番!」
「俺のプリンつまみ食いしておいてよく言えるな…俺ももらうぞ…!」
「あー!ショコラの先端!一番美味しいとこ!!」
向こうは向こうで、スイーツの取り合いが起こっている様子だった。
「ったく…店はオシャレなのに、この三人ときたら…」
店が変わっても相変わらず品のない彼らの様子に、宏樹はやや苦笑する。
「まあまあ、変わらない良さってのもあるじゃん?」
そんな宏樹に対して、コーヒーを啜る秋葉が謎に正論を振りかざす。
「おめぇのことを言ってんだぞ?秋葉…」
すました顔を決めている彼女を、幸人がうらめしそうな顔で見る。
「でもまあ、このお店がオシャレなのは確かだよね」
パフェを食べながらその会話を聞いていた美咲が、スパッと話題を切り替える。
「まあ確かにな。雰囲気の変わりようがすごかった」
美咲が振ったその話題に、幸人が追随する。
「まるで海外みたいじゃない?」
そんな時、秋葉がこのオシャレな雰囲気をまるで海外のようだと形容する。
「あ〜!海外!!それだ!!」
彼女の口から発せられたその的確な表現に、宏樹は妙に納得する。
店の名前は「ボン・ボヤージュ」
フランス語で「よい旅を!」という意味合いがあるそうで、海外を思わせる内装や雰囲気ともよくマッチしている。
秋葉の核心をついた表現に、宏樹は思わず感心してしまった。
そうして料理を食べ終えた彼らは、自然な流れで海外の話へと移っていく。
「海外かぁ〜行ってみたいね海外!」
「確かに!海外だったらこういうオシャレな店がいっぱいありそう!」
美咲の呟きに秋葉も賛成の声を上げる。
「んまあ一度は行ってみたいけど…。俺らお金ねぇじゃん…」
「っ!!?」
抹茶ラテを啜っていた幸人が急に正論を言い始める。
「修学旅行は国内だったし、行ける機会なんてあるかぁ?」
彼は衝撃を受けている秋葉に、畳み掛けるように続けた。
それに対し、女子陣が反論を加えていく。
「もう幸人はぁ…夢がないんだから!」
「そうだよ!夢は大きく持たないと!!」
これだとまるで幸人が悪者のようだが…。
「ほら、言われてるぞ??」
その会話の横で、宏樹が控えめに野次を飛ばす。
「んじゃあそんな秋葉に質問だが、英語は喋れんのか?」
「え…??あーいやぁ〜…えへへ」
その質問の前に彼女は何も答えられない。
「フランス語は?」
「無理…」
「じゃあイタリア語は?」
「全然…」
幸人はここぞとばかりに秋葉をいじり倒す。
「それならドイツ語は…」
「もー!幸人のバカ!!」
いじられ続けた彼女はついに爆発し、幸人の頬をぎゅーっと押しつぶす。
その様子を見ていた宏樹ペアがドッと笑う。
「まあ大人になってからなら、多分行けるようになるよきっと」
「だよねだよね!さっすが美咲わかってんじゃん!」
すかさず美咲が飛ばしたフォローに、秋葉は一瞬で食いついた。
…い、今のフォローのどこに説得力が…??
あまりに中身のないフォローをする美咲を、宏樹が困惑の目で見つめる。
お金の問題や言語の壁などは確かに大きな障壁だと言える。
しかし、ちゃんと仕事をしてお金を稼ぐようになれば、それらの問題はある程度解決できるようになるだろう。
…内心では皆行きたいんだろうな…海外旅行…
宏樹自身、行ける機会があったら一度は海外に行ってみたいと思っている。
それこそ卒業して疎遠になる前に、こうして集まっている仲のいい友人達と一緒に行けるのなら。
楽しくて一生残る思い出を作りたいと、思っている。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そうして、喫茶店で軽食を嗜みながら友人達との楽しい時間を過ごした一行。
「またな〜秋葉!」
「は〜い!二人とも気をつけてね〜」
すっかり暗くなった明倉街道駅で、秋葉と分かれた宏樹と幸人。
「んじゃあ、俺は幸人の家までついていくかな」
そこから宏樹は、念の為彼を家まで送り届けることにした。
「おう…そうか、もう大丈夫だと思うけどな?」
当の幸人はその配慮にやや疑問を抱いていた。
怨魂とはもう戦えるから、別に一人でもいいんじゃないかとのこと。
「んまあ、一応何があるかわからないし…保険だよ保険」
だが宏樹もは念には念をと彼を説得する。
「まあ、別に減るもんじゃねぇし、いいけどな」
幸人は引く気のない宏樹の姿勢に、しょうがないなといったニュアンスでそう答える。
「…ぶっ、変わりすぎだろお前」
「ん?何がだ?」
今の彼があまりにも訓練前の時とは違っていたため、宏樹は思わず笑ってしまった。
「まあ…確かにな」
その理由に幸人も納得する。
そんな会話をしながら幸人を家まで送り届けた宏樹は、ようやく自宅へと向かって歩き始めた。
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