第14話 四人揃って新天地
ーーーカンカンカンーーー
「もう来たんじゃない!?」
「マジかよ!早っ…!!」
駅まで後200mほどという所で踏切の音が聞こえてきて、二人は突然焦って走り始める。
「おーい!早くしろー!」
そんな二人に、駅のホームで待っている幸人がそう声を飛ばしてくる。
「ーーー2番線乗り場に、空神行き普通列車が到着しますーーー」
…よっし間に合いそう…!!
券売機で乗車切符を買った二人は、改札を通ってホームへと向かう。
「二人ともこっちこっち!!」
電車から幸人の彼女が顔を覗かせ、二人に手を振ってそう呼びかける。
そうして、なんとか予定していた時間の電車に乗れた二人。
「はぁ…はぁ…良かった…間に合って…」
「はぁ…こんなに走ることになるなんて…」
まだ何も始まっていないと言うのに、二人はもう既にヘトヘトと言った様子だった。
「ーーー扉が閉まります。ドアにご注意くださいーーー」
ーーープルルルルルーーー
二人が電車に飛び乗ってからほどなくして車内にアナウンスが流れ、扉が閉まり電車が動き始めた。
「二人ともお疲れ」
「もぉ〜本当に疲れた!!」
幸人の恋人にそう言われた美咲は、うんざりした表情でそう愚痴を漏らす。
「ごぉめん美咲ぃー!悪気はなかったんだってぇ!」
その様子から彼女の心の内を察した宏樹は、そう謝罪の意を伝えた。
「まあまあ、なんとか間に合って良かったな!」
「そうだねぇ〜」
すかさず幸人がフォローを飛ばすも、美咲の声には未だ不満げな感情が残っているようだった。
「にしても、なんで遅れそうになったの?」
そんな時、幸人の恋人である少女がそう二人に尋ねる。
彼女の名は「
宏樹達と同じ御谷山高校の二年生で「福祉学科」へと通い日々福祉の勉強をしている女の子だ。
本人曰く周りからは内気であまり目立たないと言われるそうだが、仲の良い友人達と居る時は泣いたり笑ったり時に怒ったりと。
感情豊かな姿を見せることも多く、どちらかといえば活発な女の子で地味だと言う印象は抱いたことがない。
彼女とは小学校低学年の頃から仲が良かったと言うのもあり、恋人である美咲よりも馬が合うと感じる時は少なくない。
そんな彼女は今、友人である幸人と交際しているため、仲の良い友人として良好な関係を築いている。
秋葉にそう尋ねられた宏樹は、まるで苦虫を噛み潰したような表情でこう答える。
「実は…ある人と話しててさ…」
「ある人って誰だ…?」
ぼかした表現を使う宏樹に対して、当然幸人が疑問符を突き立てる。
「二人は覚えてるかな?守久愛優哉って人」
「もりくま…?」
宏樹が口に出したその名前に、幸人は首を傾げながら考える。
「…あ!あの人だっけ!?確か、交流授業で変なこと言ってた…!」
「そうそう!その人!!」
目を瞑って考えていた秋葉がその人物を思い出した。
「あ〜!なんか噂で聞いたことあるぞ!!」
秋葉がそう言うと、幸人もなんとなく引っ掛かりを感じた様子だった。
「え、その人ってもしかして…最近転入して来た人だよね?」
「そうみたい」
美咲は優哉と同じ特進コースに通っているから、既に知っているようだった。
「え待って!?あの人今この御谷高にいるの!?」
「おいおいマジかよ…!!なんか変わってるって話だろ??」
美咲が口走った転入という単語に、幸人達が喰いつく。
「そう…そうみたいなんだよ、それでさっき俺を尋ねて来ててさ…」
「あ〜…それで遅れたってことね…」
遅れた理由を宏樹が明かすと、秋葉は色々察したような表情でそう言った。
「え?そんなに変わった人なの?」
「あっそうだよね!美咲は学校違かったもんね」
その会話のよそで少女が一人、話の根幹を知らないでいた。
今ここにいる四人の中で美咲だけは「御谷山小学校」の出身のため、“あの時”の出来事は知らなかった。
「まあ…悪い奴じゃあないんだけど…変わり者ではあるかな…」
美咲の質問にそう宏樹が答える。
「ふ〜ん。まあ学年は一つ上だから、関わることはあんまりなさそうだけどね」
それを聞いた美咲は、あまり関心が無さそうな口調でそう返事をする。
「まあ、それもそうだな」
美咲が特に気にしていないからか、宏樹も特段彼についての話題をそれ以上掘り下げることはなかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ーーー空神。空神です。お降りの際はお忘れ物の無いよう…ーーー」
そんな会話をしながら電車に揺られること30分。車内にアナウンスが流れ始め、一行はようやく目的の空神駅へと到着した。
「ーーーピンポンパンポーンーーー」
心地いいメロディを奏でながら電車の扉が開く。
それと同時に電車の中に詰まっていた人々が、一斉に駅の改札へと歩み出す。
「いやぁ〜空神はマジで久々に来たなぁ〜!」
幸人が周りの景色を眺めながらそう口に出す。
「だねぇ〜、もう二年以上来てないんじゃないかなぁ〜」
感想を述べる幸人に、秋葉も続く。
「前と比べて景色も変わってるだろうな」
そんな二人に宏樹がそう付け加える。
「小旅行って感じがする!」
美咲は久々にやって来た都会に、心躍っていると様子だった。
そうして雑談をしながら駅の改札を通った一行は、予約していたお店へと向かって歩いた。
「
「わぁ〜!すっごいおしゃれ〜!」
予約を取った美咲曰く、そのお店は空神の地下に広がっているおしゃれな商店街に最近できた店だそうで。
「楽しみだね美咲!」
「ほんとにね!いや〜待ち遠しかったなぁ」
あまりに人気なため、予約は一番早くて2週間待ちだったそうだ。
「テストも無事終わったことだし、心置きなく楽しめて最高だな!」
「マジでそれな!」
喫茶店にはよく行っているからか、幸人もワクワクしている様子だった。
そんな会話をしながら、15分ほど歩いていると…。
「あ!あれじゃない!?」
「どれどれ?…あ!そうかも…!」
秋葉が指差した方向には、探し求めていたお店があった。
「いこいこー!!」
「秋葉ちょっと…!んもう…二人とも追いかけるよ!」
お店を見つけるなり颯爽と駆け出していく秋葉の後を、3人が追いかける。
「いらっしゃいませ〜。ご予約はされていますでしょうか?」
「はい!」
先に到着した秋葉が、受付をしている男性店員と話をしている。
「お名前と予約番号をお伺いしてもよろしいですか?」
「美咲ー!予約番号教えて〜」
店員に必要事項を尋ねられた秋葉が、大声でそう言う。
「4372です!」
ようやく辿り着いた美咲が、そう店員に伝える。
「白待様でお間違いないでしょうか?」
「はい!」
「確認致します。少々お待ちください」
店員はそう言うと、手に持った端末に文字を打ち込んでいく。
「もう〜先走らないでよ秋葉」
店員が確認を取っている間、美咲は秋葉にそう苦言を呈する。
「ごめんごめん〜つい嬉しくなっちゃってー」
当の秋葉はあまり反省していないのか、言い訳混じりに謝罪する。
「お待たせ致しました。確認が取れましたのでご案内致します」
そんな時、店員がそう言って店内へと入るよう二人に促した。
「はーい!」
「よっしゃ行くか!」
秋葉と美咲がその店員についていくのを確認して、幸人と宏樹も中に入った。
「おぉ〜スッゲェ……!」
「思った以上だな…」
店内に入った幸人と宏樹は、まずガラッと変わった雰囲気に息を呑む。
天井から吊り下がったランタンからは、オレンジ色の暖かな光が溢れ。
辺りには
それだけじゃない。
地下にある店とは思えないほど高い天井と、雪国のペンションを思わせるようなビンテージな内装は、まるで異世界に入ったかのような気さえ感じさせる。
「すごい…!写真とは大違い…」
ネットのレビューで見た写真以上のものを目の当たりにした一行は、思わず驚きと感動の声を溢した。
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