第12話 無双する虎



都での訓練を終わらせた幸人はそれから約10日の間、期末考査期間の放課後を使ってひたすら実戦訓練を行った。


その結果は凄まじく良好で、訓練で学んだことはもちろん持ち合わせている知識も存分に活かしながら戦えていた。


ある場所では双眼鏡を用いて、茂みに潜む戦車を先に発見したり。

また別の場所では豚飯の角度で敵の攻撃を弾きつつ、曲がり角の先に待ち伏せている敵を殲滅したりと。


初実戦とは思えない活躍ぶりを見せた。


普段の幸人はあまり物事を深く考えることはあまりなく、何かに集中している姿も滅多に見ないのだが。

実戦中の彼の目は真剣そのもので、同行している宏樹の方が逆に緊張してしまう程、彼は目の前の戦いに集中していた。


豊富な知識や高い戦闘力を持ち、なおかつ戦車戦ができる気力と精神力を兼ね備えた幸人。

当然、そんな彼はたった10日という短い実戦訓練の中で、数々の奇跡を起こした。


✳︎ ✳︎ ✳︎


とある山道を3人で巡回する様に移動していた時のこと…。


「この橋は破壊される可能性があるわ。だから先に二人で渡ってその後私が渡るわ」

山の中を流れる川に架かる50m程の長さの橋へと差し掛かった一行。

安奈の提案にてその橋を、(1幸人・宏樹)(2安奈)の順で渡ることにした。


「先頭は俺に任せろ!」

提案を受けた二人のうち、幸人がそう声を上げる。


「了解!」

その幸人の主張に対し、宏樹はなんの疑いも持たずに了承の返事を返す。

だがそんな二人の会話に、安奈が異議を唱えた。


「幸人くんが先頭は、少々危ないんじゃないかしら?」

確かに、その意見はまごうことなき正論。


「いや、俺を先頭に行かせてください!その方が経験にもなると思うんで!」

安奈が唱えた異議に対して、幸人は更なる意見を返した。


「…わかった。それじゃあ周囲をしっかりと確認して素早く渡るように!」

「了解!」

安奈は少し考えた後、幸人の意思を汲んでその希望を了承した。


左右をしっかりと確認した幸人が橋を渡り始め、そのあとを追う様に宏樹も渡り始めた。


「よし!問題なく通れる…!」

特に何も起こらず、向こう岸まであと10mというところまで差し掛かった時、これが起こってしまった…。


ドドゴッッッンンン!!ガラガラガラッッッッ!!!!!

「二人とも危ない!!!!!」

突如、破壊的な砲撃音が辺りに鳴り響き、二人が渡っていた橋が崩壊し始めた。


「宏樹くん!急いで後退して!!」

この砲撃音と共に、橋は砲弾が着弾したと思われる箇所が大きく崩落。

辺りには砲撃と崩落による大量の砂塵に覆われ、視界は数メートル先も見えないほどに悪化してしまった。


「…危なかった…!なんとか後退できたけど……!」

崩落が部分的だったため、なんとか橋の入り口まで戻ってくることができた宏樹。

しかし…


「幸人…!!無事か!?幸人…!!」

宏樹の後に戻ってくるであろう幸人の姿がなかった。


「幸人くん!!無事なら返事をして!!」

それに続いて、安奈も灰色に覆われた川底に向かってそう問いかける。


だが…その問いかけに、なかなか返事が返ってこない。


「ど、ど…どうしましょう安奈さん……!!早く助けに行かないと…!!!!」

宏樹は安奈にそう尋ねながら周囲を見まわし、対岸に渡る道を探していた。

そんな彼に対して安奈がこう告げる。


「こんなに視界が悪い中で移動すればさらに被害が拡大するわ!移動は視界が晴れてからよ!」

「…っ!そ、そんな…!!」

こんな視界の悪い中では当然敵なんて見えない。援護も不可能だ。


…くそっ!!

宏樹は悔しさのあまり砲塔を拳で叩きつけ、目の前の灰色をただひたすら見つめていた。


…大丈夫だよな…??ちゃんと無事だよな…??

友人一人も助けに行けない状況に、宏樹の不安は今にも爆発してしまいそうだった。


だが、その心配は全く持って不要だったことを宏樹は思い知らされることになった。



「英傑戦技、不動戦友ふどうせんゆう[ポルシェティーガー]国防猛虎こくぼうもうこ[ヤークトティーガー]」

粉塵の向こう側から、微かに声が聞こえた。


「幸人!!いるのか幸…!!?…な、なんだなんだ!!?」

宏樹が聞こえてきた声に反応した次の瞬間、突如として周囲に大きな風が吹き始めどんどん粉塵を晴らしていく。


そして、粉塵が消え去った後、そこに立っていたのは…。


「幸人…!!!!お前…!」


「もう終わったぜ、ほら!」

そこには英傑「Tiger」に乗っている幸人と、彼が使った英傑戦技によって召喚された「Porsche Tiger」「Jagd Tiger」の二両が鎮座していて。

対岸には大きく燃え盛っているアバディーヌの「T29」三体の残骸が転がっていた。


「う、浮いてる…!しかも履帯が…!!」

驚くべき事実はこれだけにとどまらない。

なんと、幸人の乗る「Tiger」と召喚した戦車が宙に浮かんでおり、履帯には青白い炎を纏っていた。


幸人の操る戦車の履帯を覆っている炎の名は「回遊炎」

宏樹が少し前に河川敷で遭遇した「Alecto」が纏っていたのもこれと同じものだ。


限られたものしか扱えないこの回遊炎を纏った履帯は、並の攻撃では破壊することができず修復速度も非常に早い。

また、この炎を装備した戦車は空を走行することができ、車種によっては自在に攻撃を避けたり上空から攻撃したりといったことも可能になる、強力な装備なのだと言う。


「驚いたわね…たった2週間でここまで…」

この異常なまでの幸人の成長ぶりには、流石の安奈も驚きを隠せないといった様子だった。


そう思うのも無理はない。

2週間足らずで英傑を乗りこなし英傑戦技を用いて無双するだけでは飽き足らず、限られた者しか扱えない特殊な能力まで習得してしまった。


そんな戦車兵は今までに前例がないのだ。


✳︎ ✳︎ ✳︎


そんな奇跡的な戦闘記録を残しながら、10日間に及ぶ実戦訓練を無事に終えた幸人。


「本当に3週間も経たずに訓練が終わったわ…!凄まじい成長ね!」

安奈はまたしても幸人のことをベタ褒めしていた。


「ありがとうございます!」

褒められた幸人も満足そうな表情をしている。


「これだけの資質があるのならば…きっと、前世でも相当腕の立つ戦車乗りだったに違いないわ」

安奈が幸人のことを恍惚そうな眼差しで見つめがらそういった。


「お!腕の立つ戦車兵ですか…!っとなると…ミットマンかクリスペル、いや!?カリオスの可能性も…!!」

安奈からそう言われた幸人は、次々と知らない人名を列挙していく。

…ミットマン…?クリスペル…??一体誰だ…?


「そうそうそう…!可能性は低くないわ…!」

誰の名前かピンときていない宏樹を置きざりに、安奈がまたテンション高めに返事を返す。


…過去の戦争を生きた軍人の名前だろうか…?

ミリタリーの知識が豆粒ほどしかない宏樹は、ただただ二人の話をじっと聞いていることしかできなかった。


「だけど、あなたが優秀である真の理由は技術じゃない。その膨大な知識量よ」

そんな二人歩きの話題を安奈が切り替える。


「た…確かに!それは俺も気になってた!…どこでそれだけの知識を…??」

彼女の良い着眼点に宏樹も思わずそう続いた。


「う〜ん。知識を得ているのは主にネットゲームだなぁ」

幸人はあまり自覚がなさそうに答える。


彼は常日頃から自宅でPCゲームをプレイしているのだが、彼が遊んでいるゲームはミリタリー系のものが多いらしく。

その中には戦車で戦うゲームもいくつか含まれているという。


「なるほど…!ゲームからもそんな知識を得られるのね…」

安奈はその幸人の情報源にやや関心を抱いている様子だった。


「ゲームって…。そんなんで実戦に役立つ知識とかが得られるのか…?」

しかし、宏樹はその話にやや懐疑的だった。


「結構勉強になるぞ!戦術や立ち回りも学べるし、基本的な知識も得られるぞ」

その宏樹の反応に、彼はより得られる知識を具体的に述べた。


「…ふ〜ん。なるほどなぁ」

宏樹は心の底からは納得できなかったが、ゲームも意外に役に立つんだなとちょっとだけ勉強になった。


…まあ…こうして実際に役に立っているから良しとしよう…!

何はともあれ、幸人はなんの問題もなく英傑という存在を受け入れ、早々に訓練を終わらせることができ、結果オーライであった。

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