第四章 優秀な友軍
第11話 10日訓練
ーーータッタッタッ…ーーー
踏み固められた土の上を、やや駆け足で走る一人の少年。
…あの部屋にいなかったってことは…!
それは、アルフとの話を終えて図書館から出てきた宏樹だった。
…もう訓練を始めているはず…!!
そんな彼は、とある場所にやや駆け足で向かっていた。
「はぁ、はぁ、やっとついた」
5分ほど走って辿り着いた場所は、都内の訓練場だった。
「さ〜て、どこに行ったかな〜??」
訓練場へと到着した宏樹は、辺りをぐるりと見回した。
そう。彼は共にこの都にやってきた友人の幸人と、彼を預かっている安奈を探しているのだ。
「…え?近くにいないぞ?」
見える範囲は全て見渡してみたが、彼らは見当たらなかった。
訓練場はいくつかの区画に分けられている。
大広場と操縦コース、射撃場に市街地を模したデモフィールドの四箇所だ。
…まさかもう…操縦コースに…??
そのうちの一つである大広場は宏樹が今いる場所で、初めに英傑召喚を習得した場所でもある。
しかし、その大広場に二人の姿はない。
…いやいや、まだ1時間も経っていないぞ…???
とは言っても、ここにいないとなると…。
「とりあえず行ってみよう…!」
宏樹は英傑「KV-2」を召喚し、発動機を唸らせながら操縦コースへと向かった。
それから走り続けること数分、操縦コースへと到着した宏樹。
「あ!いたいた!!お〜い二人とも〜!」
そこには既に英傑「Panther」と英傑「Tiger」に乗っている安奈と幸人がいた。
二人を見つけた宏樹は、早速彼らを呼び止めた。
その声に気がついた二人は、すぐにその場に停止した。
「すいません!もう訓練を始めてるとは知らずに…!今どこまで進みました?」
やや言い訳を含んだ台詞を挟みながら、宏樹はさりげなく訓練の進捗を尋ねる。
すると、安奈から驚きの答えが返ってきた。
「今、訓練コースを一周してきたところよ」
「…え??…え…コースを??もうですか?」
宏樹はその返答のポカンと口を開ける。
「まあな!思っていたよりも楽勝だったぞ!」
状況が飲み込めない様子の宏樹に、幸人はどこか勝ち誇ったかの様な返事をする。
「え!?流石に早すぎない!?一体どう言うことですか安奈さん!」
我に返った宏樹は、驚きながらそう尋ねる。
「私も初めはただの高校生だと思っていたの。だけれど…彼は別格だった」
「べ、別格………?」
その返答に、宏樹は返す言葉を失う。
…安奈さんがそこまで言う!?そんなに凄いのか幸人…!!?
自分が訓練をしていた時でさえ、彼女からそんな評価は受けたことはなかった。
「彼は観察力や理解力に優れ、それらを活かせる素早い判断力も持ち合わせている。戦車兵としてかなり優秀よ」
「いやぁ〜、そんなに褒めないでくださいヨォ〜」
そう安奈が話す横で、幸人はわかりやすく舞い上がっている。
彼女曰く、幸人は英傑「Tiger」の大きな車体をすぐに手足の様に扱い、泥道や倒木道などの悪路をものともせず走行したと言う。
さらに、家から持ってきたと言って双眼鏡を取り出したり、牽引ロープの使用も安奈から言われる前に提案したりと。
「凄いな幸人、お前にそんな知識や能力があったなんて知らなかったぞ」
宏樹はどこか負けた様な気がしつつも、そう彼に伝える。
「だろぉ!?これからの訓練もちゃちゃちゃっと終わらせるぜ!!」
そう伝えられた幸人は、まるで子供の様に調子のいい発言をする。
…まあ…優秀なのはいいことだよな…
もしこれで幸人が全く戦車兵としての適性がなかったら、しばらくは自分が面倒を見ていた可能性もあっただろう。
そう考えれば彼が自分よりも優秀なのは、手がかからないから良かったのかもしれない。
宏樹はそう考えながら、幸人と共に訓練へと参加する旨を二人に伝えた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
初めの操縦コース訓練では…。
「同じ大きさでも『Tiger』と『KV-2』ではパワーが違う!」
幸人はそう言いながら「KV-2」が通れない様なぬかるみ道を、難なく走っていく。
「主砲が重い戦車は、移動する時に重心が前に偏る。だから移動の時は極力主砲は後ろに向けたほうがいい」
「そんなことまで知っているなんて…感心するわ…」
「Tiger」の砲塔を回転させながらそう話す幸人に、安奈は感心で思わず声を漏らす。
彼は「Tiger」の持つ圧倒的マシンパワーと、一般人とは思えないほどのミリタリー知識を武器に、たった1日で操縦コースでの訓練を終わらせた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
お次に射撃訓練。
「狙って狙って…今!」
ドドッッンン!!!
「Tiger」に搭載された強力な88mm砲が、重厚な砲撃音と共に弾を発射する。
「命中!やるわね…!」
放たれた砲弾は、見事に300m先の目標へと着弾した。
「次4発目!次弾装填!!」
「了解!」
それもただの命中弾ではない。今、幸人は3発連続で弾を目標へと当てているのだ。
ムンストの88mm砲、通称「アハトアハト」
史実においても各国の戦車兵はアハトアハトの砲撃音を聞くだけで酷く恐怖したと言われ、砲撃の威力はその史実に納得せざるを得ないほど強力なものだった。
それをさも当然かの様に幸人は使い熟し、射撃訓練もたった5日で終わらせた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
訓練開始から僅か1週間程度で、もう幸人は最後の訓練地である、デモフィールドに足をつけていた。
「ここで相手の背後を取ると言う訓練よ」
「へぇ〜、面白そうな訓練だ」
安奈からの説明を聞きながら幸人は、辺りをキョロキョロと見回す。
「このデモフィールド、一度ぐるっと見て回ってもいいですか?」
「お!いいわよ!地形の把握をするんでしょう?」
いつもよりテンション高めな安奈。戦車兵として思ったより幸人が優秀だったからだろう。
それから、デモフィールドを2周ほどした幸人。
「ある程度建物の配置がわかりました!いつでも始められます」
「了解!それじゃあ、フィールドの両端に行ってちょうだい!」
安奈の声で早速訓練が始まった。
それから4日間にわたってデモフィールドでの訓練を行った。
その結果…。
「13勝17敗!幸人の負け!!」
「うわぁあああ!惜っしぃぃ!!!」
両者の訓練を見ていた宏樹が、その結果を発表する。
「まさか、この訓練で私が苦戦を強いられるなんて思いもしなかった」
訓練の結果を聞いてほっと胸を撫で下ろしながらも、安奈は幸人の持つ力に慄いていた。
彼はこの善戦を、たった一両の召喚車両で生み出していた。
「英傑戦技、不動戦友[ポルシェティーガー]」
幸人は英傑戦技を使用してムンストの「Porsche Tiger」を召喚した。
「こいつにひたすら砲弾を吐かせて「Tiger」の音を掻き消す。この戦法はなかなか効きます」
市街地において索敵をする際、最も重要になる音。それを掻き消された状態では、索敵にかなりの支障が生じることを幸人は知っていた。
同じく88mm砲を装備する「Porsche Tiger」の砲撃は、デモフィールドでの索敵を妨害するためには十分すぎるほどの音を発した。
「なかなかに苦労したわ…」
あの安奈も今回ばかりは緊張したといった表情をしていた。
こうして、デモフィールドでの訓練までを、幸人は見事にやり遂げた。
訓練開始からここまでの期間は、僅か10日間であった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
訓練を終えた3人が訓練場から都に戻っている最中、安奈はずっと幸人のことを褒めちぎっていた。
「今まで多くの傑帥らの訓練を見てきたけれど…たった10日間で3つの訓練を終わらせる者は今までいなかったわ」
安奈は都での訓練があまりに早く終わってしまい、思わず笑みを漏らしながらそう告げる。
「ありがとうございます!そんな風に言ってもらえると嬉しいっす!」
その言葉に幸人は頭をかきながら返事を返す。
こうして、無事都内での訓練を終えた幸人は、次回から早速都外での訓練。
実践訓練へと赴くことが決定したのであった。
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