第7話 再び廃集落へ...
学校生活を何事もなく終えた宏樹。
「起立。礼」
「ありがとうございました〜」
夕方のHRが終わり、教室にいたクラスメイトが蜘蛛の子を散らす様に帰っていく。
宏樹もその群衆へと紛れながら昇降口を目指して歩いていた。
「さようなら〜」
「はい〜さようなら〜」
昇降口に立っていた担任の先生にも挨拶をして、学校を後にした。
…ふぅ〜やっと終わった……
宏樹はなんだか、学校にいた時間をいつもよりも長く感じていた。
たくさんのことを考え込んでいたからだろうか。
そんな疲労気味の宏樹だったが、途中で帰宅ルートを外れて近くの公園へと寄った。
彼は公園に着くなりベンチへと腰掛け、バッグの中からスマホを取り出した。
…幸人は…多分無事だよな……
スマホを開いた宏樹は、幸人に今学校が終わったとだけ送った。
彼とは学校にいる時に何度か連絡をとっていたため、きっと今も問題なく過ごしているだろうと考えたのだ。
…それと…もう一つやることは…
幸人への連絡を入れ終えた宏樹は、次に電話帳を開いた。
…えーっと…よしこれだ…
そして、とある人物へ電話をかけはじめた。
ーーープルルルルルーーープルルー
「もしもし宏樹くん?」
「お疲れ様です安奈さん」
電話をかけた相手は安奈だった。
「何か用事?」
「はい。実は…」
宏樹は少し柔らかい口調でそう言いながら、幸人のことを話し始めた。
「同じ高校の同級生で、昔からの友人がいるんですが…彼が、傑帥かもしれないんです」
「そうなの?そう考えた理由は?」
その返事を求められた宏樹は、一つ一つ丁寧にその理由を述べた。
「過去に記憶も見ていて、その内容も戦争に関わるようなものだったと…」
「うんうん」
安奈は宏樹の話を静かに聞いてくれている。
「自分と同じように街中で戦車に襲われたり、英傑と思われるものとも遭遇したらしいんです」
「…なるほど」
幸人が言っていた内容を一通り伝えた宏樹。
すると、黙って話を聞いていた安奈が口を開く。
「話を聞いた限りでは…傑帥であると言う可能性は高いわね…」
「そうですよね…!!それじゃあ…」
彼女がそう言ってくれたことで、宏樹は少し気が
「早速、友達にそれを…!」
「ちょっと待って!!!」
宏樹がそう言いかけたところで、安奈がストップをかけた。
「連れてくるって言っても、まだ傑帥だと確定したわけではないわ」
「え…あ、確かに……」
その声かけに宏樹は我に返った。
「連れてくるのは構わないわ。でも、来る時は廃屋からではなくて竹藪道を通って来てちょうだい」
その発言を聞いた宏樹は、少しばかり額に汗が滲むのを感じた。
そこで宏樹は確認のために一応聞いてみる。
「都の存在は…伝えてはいけないと言うことですか?」
「ええ。言ってしまうなんて言語道断よ」
宏樹はごくりと唾を飲み込む。
この通話で、幸人が都に行きたがっていると言うことを話そうと思っていただけに、彼は心の中で「あっぶねぇ〜」と叫んだ。
「…わ、わかりました」
もちろんその後、宏樹は都の存在を伝えたことは伏せることにした。
安奈はそんな不自然に動揺している宏樹には構うことなく、サクッと話を切り替えて話し始めた。
「もしその友人に傑帥としての資質があったのなら、その子は私が預からせてもらうわね」
これはきっと、訓練をしてくれると言うことなのだろう。
「あ…ありがとうございます…!」
彼女の意図を読み取った宏樹は、彼女に感謝を伝えた。
「じゃあ、明日を楽しみにしているわ」
宏樹の感謝を受け取った安奈は、最後にそれだけ言い残して通話を切った。
…これで…よかったんだよな…
都の存在を安易に話してしまったことを宏樹は後悔したが、これも経験だったとポジティブに捉えることにした。
…よし、今の話を伝えておかないと…
それから宏樹は安奈との約束になんとか話を合わせるため、幸人に送るメッセージを打ち始めた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
翌日。
「御谷山行き。これに乗るぞ」
宏樹は安奈と話していた通り、幸人を連れて例の廃集落へと向かっていた。
「なあ宏樹、本当にこのバスに乗るのか?」
「まあまあ、そう心配するなって」
到着したバスへと二人乗り込む。
当の幸人には都の話は聞いていないという前提で、と一応伝えているのだが…。
いかんせん本人は、山奥に都が存在しているということを、そもそも信用していないようだった。
それもそのはずだろう。
傑帥の資質を持っているごく少数の人間だけが知っている情報なのだから。
「次は〜きたみたに〜きたみたにです。お降りの際は〜〜」
しばらくバスに揺られていると、あのバス停に到着した。
「ありがとうございました〜」
よく見かける、気のいいお姉さん運転手に見送られながらバスを降りた二人。
「お、おいおい…ガッツリ山の中じゃねぇか!本当にここにあるのかよ宏樹??」
「ついてくればわかるさ」
山に捨てられたかの如く絶望している幸人を尻目に、宏樹はぐんぐんと進み始めた。
…こっちでいいんだよな…
いつもは別のルートを使って集落に入るのだが、今回は幸人がいるということで、自身が初めてここに来た時のルートを通ることにした。
…そうすればきっと、また竹藪道が現れるのだろう…
そう思いながら、前を歩く宏樹は草木が生い茂る廃道路を歩く。
そうして、しばらく廃道路を歩いて行くと…。
<<<北御谷入口>>>
例の看板と草で覆われた階段が現れた。
「おいおい、これ登るのか?」
「そうだ」
宏樹は疑いの目でこちらを見つめる幸人に見せつけるかのように、草木に覆われている階段を躊躇なく進んで行く。
「ったく…本当にこんなところにあるのかよ…」
背後から幸人のうんざりしたような声が聞こえてくる。
そしてしばらく登ると、そこには以前も見た焼け落ちた廃屋の数々があった。
「うわぁ…えぐいなぁこれは」
幸人は宏樹の時と同じような感想を口に出している。
二人はその後、廃集落の先へとぐんぐん進んで行った。
そして、ある程度のところまで来たところで、後ろを振り返り幸人にこう投げかけた。
「幸人」
「ん?…どうした…?」
一瞬黙り、再び口を開く。
「後ろ。振り返ってみろ」
その声に反応した彼が、後ろを振り返ると…。
「……っわぁあ!!!」
すると幸人は変なリアクションと共に、後退りをした。
「な?驚いただろ?さあ、行くぞ!」
宏樹は驚いて開いた口が塞がらない幸人の肩を、ポンっと軽く叩いて先導するようにその小道へと足を踏み入れた。
「お、ぉう!!」
幸人もそんな宏樹の後ろを小走りでついてくる。
そして宏樹の言った通り、その小道を歩いて行くと目の前に大きな館のような建物が姿を現した。
「す…スッゲェ…!!!本当にこんなところに…!!」
幸人はあまりの光景にしばらく固まっていたのだが…。
ーーードサッ!!ーーー
「!?…幸人…?」
彼が突然、なんの前触れもなくその場に倒れ込んだ。
あまりに急なことに宏樹が困惑していると…。
「待っていたわ」
「…安奈さん」
英傑「Panther」に乗った安奈が、建物に沿ってこちらに向かって来た。
「面倒なことを押し付けてしまってごめんなさいね」
彼女は宏樹の顔を見るなりそう謝ってきた。
「手間かもしれないけれど、これも都の存在を悟られないようにするためなの。わかってちょうだい」
彼女は、落ち着いた声で諭すようにそう話す。
そして安奈が喋り終わったと同時に、横たわっていた幸人の体がすぅ〜っとその場から消えた。
「心配しないで。彼は今、都の方へと行ったわ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
宏樹はわざわざ迎えに来てくれた彼女に、感謝の気持ちを伝えた。
「彼が目を覚ますまでしばらく時間があるけど…。その間、君はどうするの?」
そう聞かれた宏樹は、一瞬だけ考えて答えた。
「少しだけアルフさんのところに行きます。少し話したいことがあるので」
「そう。それじゃあ」
安奈はそれだけ言って、そそくさと傑帥に乗り込んで空世へと入った。
…ふぅ…それじゃあ行くか…
宏樹も彼女の後を追って、英傑「KV-2」を召喚しハルマの都へと向かった。
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