第二章 深まる謎

第6話 衝撃の真実



翌日。


宏樹は目に光を感じて起きた。目を開けると開けられた窓からは気持ちのいい朝日が溢れてきているのが見えた。

壁にかけられた電波時計が朝の7時半を指していた。


「おはよう宏樹」

目を覚ました宏樹に、幸人が声をかける。


「おはよ〜」

宏樹はその声に返事をしながら体を起こし、廊下に出て洗面所に向かった。


洗顔と歯磨きを終え部屋に戻ってきた宏樹は、テーブルに置かれていた朝食を食べ始めた。


「なあ幸人、さっきから何してるんだ?」

宏樹は自分が起きてから、ずっとPCに向かっている幸人に対してそう問いかけた。


「ん?まあ…流石に…色々あったからな…」

そう言われてもピンとこなかった宏樹は、徐に幸人の近くへと寄った。


パンを頬張りながらPCを覗き込んだ宏樹。

「んん…??」


デスクトップ上のモニターには、調べ物をしたサイトと日記のようなものが表示されていた。

彼は意外にも調べ物をしながら日記のようなものを書いていたのだ。


「日記か…」

やはり相当ショックだったんだなと改めて感じた宏樹。


「そう。最近起こったことを、整理しておこうと思ってな」

そう説明する幸人をじっと見ていると、彼はカバンから一枚の紙を取り出した。


「だから今日は、欠席することにする」

彼が取り出したのは記入済みの欠席届だった。

それを見た宏樹は、少し不安そうな顔をした。


「欠席するって…一人で大丈夫かよ?」

幸人の頭の整理をしたいという考えは大事かもしれないが、宏樹はそれ以上に彼の身が心配だった。


「2階にいれば安全なんだろ?ならここからでなければ良いってことだよな?」

「…ま、まあそれはそうだけど……」

そう言われてしまった宏樹は、微妙な反応をした。


彼には昨日夕飯を食べている最中に、ある程度「怨魂」に関する情報を教えていた。


確かに怨魂らは2階にいればそうそうこちらを見つけられはしないだろう。

ましてやこの辺りは住宅街であるため、近くまで怨魂が入り込んで来ることも少ない。


「でも…昨日あんなに怖がってたじゃないか」

しかし、彼が一人でいるのが怖いと言ったために今ここにいるということもあり、心配してしまう気持ちはそう簡単には拭えなかった。


「大丈夫大丈夫。もし何かあったなんとか学校まで走ってくるさ」

「………そうか…わかった…」

それでも大丈夫だと言い張る幸人を、宏樹はこれ以上引き止めることはしなかった。


✳︎ ✳︎ ✳︎


それから宏樹は、幸人の家を後にしていつものように学校に登校した。


「おはよ〜宏樹」

「おう、おはよ〜」

教室に入った宏樹は自分の席に腰掛けて、リュックバッグを机の横にかけた。


「あれ、今日幸人は?」

すると、一人の友人がそう声をかけてきた。


「あ〜、あいつ今日は休むって言ってたよ」

「え?また?なぁんかあいつらしくねぇ〜なぁ〜」

その言葉を聞いた友人は、気を落としてしまったのかどこかに行ってしまった。


幸人は同じクラスの友人達にとってムードメーカーのような存在。

そんな彼がいないとなればテンションが下がるのもわからなくはない。


自分だって、理由は違うが幸人には学校に来てほしかった。

比較的安全な家にいるとはいえ100%大丈夫とは言い切れないし、昨日の件もあるからできれば一人にはしたくはない。


…まあ…自分もそうだったから、彼の判断に任せよう……

だが、今は一人になって考えたい時なのだろうと思って、今回ばかりは彼の思いを汲むことにしたのだ。



それから、いつものように学校生活を送った宏樹。


昼休みには幸人に連絡を入れてみたが、特段変わった様子はないようだった。


…昨日はあんなに怖がってたのにな…

今日は学校を休んでくれと頼まれるだろうと思っていたのだが、やはり幸人は相変わらずで。

昨日体験した出来事を早々に受け入れて、すでにそれと向き合おうとしている。


…まあ…これはこれで良かったのかも……

宏樹はなんだか要らぬ心配をした気分だったが、むしろ幸人のこの落ち着き様は見習うべきなのかもしれないとも思った。

もし、幸人がパニックになっていたら学校どころじゃなかっただろうし。


…余計な手間もかからないし…

パニックを起こしでもしたら、十中八九走って学校を飛び出さなければならない。

その後の対応はかなり面倒なことになるはずだ。


…そう考えたら…ありがたいのかもな……

そう思った宏樹は別に自分が何か迷惑をかけているわけではないのに、なぜか自然と幸人に対して感謝していた。



そんな宏樹だが、幸人と連絡をする傍らで調べ物もしていた。

調べた内容は自身が「宿号」と戦っていた時に颯爽と現れた、あの青年に関してだった。


…ん?…そういえば、青年の乗っていた戦車って……

調べるとは言ったものの、宏樹は検索バーに一体なんと打ち込めばいいのかで悩んでいた。


…見たことない車両だったよな………


そう。宏樹はあの青年が乗っていた戦車の名前を知らなかった。


それだけじゃない。


…国名すらわからないよな……

一体どこの国の戦車なのかすらもわかっていなかった。


…こうなったら…まずは片っ端から探すか……

悩んだ宏樹は、国家生存戦争中に使われた各国の戦車の中から、青年が乗っていた車両をしらみつぶしに探すことにした。


しかし…


…ない…どこの国にも…

複数の戦車サイトを調べても、あの青年が乗っていた戦車はおろか、僅かな情報すらも見つけられなかった。


…なんでだ…??調べ方が悪いのか…??

宏樹は無意識で眉をひそめながら、検索バーに戻って別の単語を考え始めた。


…え〜っと…ん〜…戦車…試作………いや、違うな…

打った単語を一度消す。


…戦車……戦後…………ん?あ!待てよ…??

思いつく単語を打っていたその時、宏樹はとある言葉が頭に浮かんだ。


…ブラック…プリンス…っと…!よし…!検索してみよう…

その言葉とは、あの青年が夜の河原で使っていた技の名前だった。


宏樹が早速「ブラックプリンス」で検索をかけてみると…。


…出た!出た出た…!!これだろ…!!!

検索結果の一番上に、あの青年が乗っていた車両と思われる戦車が表示された。


…あ?…え??…

意気揚々とそのサイトを開いてみた宏樹だったが、ある情報を見て違和感を覚えた。


…第二次…世界大戦…??

なんと、あの青年が乗っていた「Black Prince」と言う戦車は、国存戦争では使われていないことが判明した。


…じゃ、じゃあ…この戦車が作られたのは………っ!!?

宏樹が「Black Prince」の制作時期を調べてみると…。


…1945年…!!一世紀半前…!!

宏樹は目を丸くした。

その戦車が作られたのは、約一世紀半前に起こったとされる第二次世界大戦の時代だった。


さらにそれだけではない。


…し、しかもこの戦車…試作されただけって……

なんと「Black Prince」は二次大戦時に6両だけ試作されただけで、実戦投入はされなかったと書かれていたのだ。


…いやいやいや…!!そんなことがあるわけ……

その衝撃の事実に、宏樹は開いた口が塞がらなかった。


この事実が、あの青年が明らかに普通の存在ではないことを示していたからだ。


…傑帥って…記憶で見た戦車しか使えないはずだろ…??

一世紀以上前から傑帥で、かつ使用されなかった幻の戦車に乗っている。


…なんだ?あの青年は一体何者なんだ???

ただでさえ口数が少なく、つかみどころのない性格をしているのに。


存在さえ、“黒”いベールに巻かれていたのだ。


そんな思いもよらなかった衝撃の事実に、宏樹がただ呆然としていると…。


「おい宏樹!!もう授業始まってるぞー!!!」

「え…!…あ…はい…!!」


すでに昼休みは終了していて、五限目の授業が始まっていた。

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