第2話 青年、再び。
…なぜ倒れない…??
何発攻撃を撃ち込んでも「Mark I tank」は一向に倒れる気配を見せない。
…一体どうすりゃいいんだよ…!!
そんな状況に嫌気がさし、一度この場所から撤退をしようと考えていた矢先の事だった。
「宏樹!!」
…っ!?
突然誰かに名前を呼ばれた。
あまりにも急な出来事だったからか、宏樹の体は思わずビクッとなった。
「だ…誰だ!?」
宏樹は驚かされたことに少しムッとして、やや声を荒げてそう言い放つ。
「どこにいるんだ…?」
そんな興奮気味の宏樹を、さらに驚かせる信じられない光景が彼の目に飛び込んできた。
「ここだ!!」
「一体どこに……っ!なっ……!!!?」
声の主と思われる人物は、以前敵に襲われていたところを助けてもらったあの青年だったのだが…。
青年は思いもよらない場所にいた。
「一体なにが起こってるんだ!!どうして空を飛んでいる!?」
青年がいたのは、なんと上空!
地面などあるはずもない空の中を、まるで当たり前かの様に闊歩していたのだ。
先ほど宙を走っている「Alecto」を見たばかりだが、宏樹はまるで初めて見たかの様に驚いた。
口を開けていることしかできない宏樹に、青年が問いかける。
「どうして”ここ“にいる!!!」
…ど…どうしてって……
青年の言いたい節が理解できない宏樹は、ただ黙っていることしかできなかった。
すると…。
「お前は、そんなに命をドブに捨てたいのか!!!」
…一体どういう意味だ…!?
語気強めに問い詰められた宏樹は、訳がわからないまま言い返す。
「そんなつもりはない…!今もこうしてっ…!!」
宏樹がそう口を開いた瞬間…
ガッゴゴゴォオンンン!!!!
「Mark I tank」から砲弾が飛んできて、宏樹が乗る英傑「KV-2」の砲塔側面を抉り取った。
「と、とにかく苦戦しているんだ…!手伝ってくれ!!!」
宏樹は藁にもすがる思いで、青年に助けを求めた。
宏樹がそう言ってからも、青年はしばらく上空に留まっていた。
「もうここで30分以上戦っているんだ…!早く援護を…!」
ガッギギギンンン!!
その間も絶え間なく「Mark I tank」からの攻撃が飛んでくる。
そんな中、やっと青年が下に降りてきて宏樹の横に停車した。
しかしようやく降りてきたと思ったら、開口一番に青年がこう言い放った。
「迷惑だ」
その一言で流石にカチンときた宏樹は、問いただすように反論した。
「…どういう意味だ!?一体、何が迷惑なのか説明してくれ!」
宏樹はまだ英傑に乗り始めて数ヶ月ほどしか経っていないが、安奈を初め多くの傑帥らと共に訓練を重ねてきた。
安奈からも協調性を重んじるようにと言われてきたし、実際に都の傑帥らには訓練中に何度も助けられた。
「俺はただ、救援を出しただけじゃないか!?迷惑なんてかけていない!!」
そんな宏樹だからこそ、青年が放ったその一言が理解できなかったのだ。
宏樹の反論に対して青年は…。
「………」
何も言い返してくることはなく、ただじっと「Mark I tank」の方をじっと眺めていた。
…無視かよ……
そんなカカシの様に動かないままでいる青年に、宏樹がまた話しかけようとした時。
「下がっていろ」
青年は吐き捨てる様に言って、少し前に出た。
…なんなんだこの男は…???
協調性の欠片もない青年に、宏樹は呆れてものも言えなかった。
「…………はぁ…わかったよ」
宏樹は腑に落ちないことばかりだったが、ひとまず青年の命令には従うことにした。
・・・「この敵は俺が倒すんだ!」・・・
…と。豪語できるのならば、当然そう言っていた。
…ここはもう任せてしまおう………
しかし、先ほどの戦いで自分には「Mark I tank」撃破することができないと、宏樹はもうわかっていた。
…この男なら、倒し方くらい知ってるだろう…
だからこそ、彼はおとなしく青年の命令に従ったのだ。
青年は10mほど先へ進んだところで止まった。
そして…。
…あれはなんだ…??
青年の右肩から、突如真っ黒な炎が立ち上り彼の右上半身を覆い尽くした。
その様子をずっと眺めていたその時、青年が徐に口を開き静かな声で言った。
「英傑最終作戦『
青年がそう言った後、彼が乗る英傑「Black Prince」の車体が、全てを吸い込んでしまうかの様な黒色へと変化した。
それから…。
「Black Prince」の砲塔が静かに回転し始め、徐々に「Mark I tank」の方へと砲が向かっていく。
「ふえるなふえるなふえるなぁぁぁああああああ!!!!!!!」
ドドゥォオンン!!
「Mark I tank」に乗った赤黒い異形が、そう言い散らしながら「Black Prince」に対し砲撃を仕掛けた。
カッッン!!!
その攻撃が「Black Prince」の車体正面へと直撃したが、分厚い装甲によって易々とそれを弾き返した。
ダダッン…!
そして次の瞬間「Black Prince」に搭載された17ポンド対戦車砲が火を噴き、静かな一撃を「Mark I tank」にお見舞いした。
「やめろやめろやめろおおおお!!!ギャァァアアアアアァアアァアアアアア!!!!!」
…痛っ!!!?
その攻撃が「Mark I tank」に直撃した瞬間、赤黒い異形が思わず耳を塞ぎたくなるほど大きな断末魔を上げた。
その叫び声と共に「Mark I tank」と、それに乗っていた異形は跡形もなく消滅した。
…やった……?…ほんとに…??
その一部始終を見ていた宏樹は、すぐさま英傑を前進させ青年の元へと駆け寄った。
「本当にやったのか?」
「見ての通りだ」
「Mark I tank」の姿はもうどこにもなかった。
間違いなく、青年は奴を撃破していたようだった。
「一体…あの敵はなんだったんだ?」
宏樹は青年にそう尋ねる。
すると、一呼吸おいて答えが返ってきた。
「あれは『戦車
「宿号……最終作戦……」
「そうだ」
宏樹は青年の口から出てきた、その耳慣れない響きを持った言葉を復唱する。
その様子を横で聞いていた青年が、宏樹の方を横目で見ながらこう言ってきた。
「まさか…知らなかったなんて言わないよな…?」
青年は低く落ち着いた声をしているが、どこか鼻につく言い方があまりにも目立つ。
そんな青年の話し方のせいか、宏樹もついつい感情的になって言い返してしまう。
「都の人たちは、誰も教えてくれなかったんだよ…!!!」
しかし、それは単なる感情に任せた中身のない言い訳に過ぎない。
「お前は自分の意思でそこから出てきたんだろう?都の人間に罪を着せるな」
ズバッと正論を言われてしまい、宏樹はもうなにも言い返せなくなった。
青年の意見もアルフと同様に至極真っ当なものだった。
『戦場において“知らなかった”は基本通用しない』
安奈が言っていた教えの一つだ。
その教えに則るのならば、現実世界に戻る前にしっかり現世にいる敵の情報を調べておき、対策を講じておくところまでしておかなければならない。
なのに宏樹はその過程を全て素通りして現実へと戻ってきた。
その結果がこれだった。
「『他人に頼らず常に自らの足で動く』覚えておくといい」
青年が最後にそう呟いてから、二人の間には静かな時が流れ始めた…。
会話が途切れてしまった後、しばらく互いに黙ったままでいると…。
カカカカカカキィン……ボルゥゥンンン!!!
青年が「Black Prince」の発動機を無言で動かした。
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