第一章 謎の青年と異形
第1話 異形との戦い
軍服の女性と雪景色。
…これが俺の前世…
その全ては今初めて見たもので、前世のものと言われてもピンと来ず懐かしさも感じなかった。
しかし…
…この後が、気になる……
記憶の中で見るものには、不思議と引き込まれてしまう独特な魅力があり、宏樹は満更でもない感情を抱いていた。
…次は一体、どんな記憶を見るんだろうか…?
そんな前世の記憶に入り浸っていた宏樹だったが、彼はある重要なことを忘れてしまっていたことに、気付かされてしまう。
ガッゴゴォォオン!!!
…ぐっ!!?
「KV-2」に乗っていた宏樹の体に、まるで感電してしまったかのような凄まじい衝撃が伝わる。
…う、撃たれたのか!!
その衝撃によって我に返った宏樹。目の前には赤黒い
くそっ、こんな時に…!
できることなら記憶で見たものを忘れないよう、何かに書き留めておきたいところだが…。
…また撃ってくるぞ…!!
宏樹は咄嗟に「KV-2」の車体を斜めに振って敵の攻撃を弾いた。
…こんな状況じゃダメだッ…!!!
ここは夜の河原であり戦場。呑気に記憶のことを考えている場合ではなさそうだった。
…まずこいつを片付けないと…!!
宏樹は記憶のことを一旦忘れて、目の前の敵に集中することにした。
敵は残り二体。
「Mark I tank」と「Alecto」が一体ずつ。
…あまり時間は経っていないのか…?
宏樹が記憶を見ていたのはほんの一瞬のことだったのか、戦況はほとんど変わっていなかった。
「よくもわたしのてしたたちを…!
「Mark I tank」に乗っている、赤黒い色をした異形が金切り声を上げた。
「一体…何のことだ!!?」
宏樹は怖気付きながらも、その異形の発言に対して疑問を投げかける。
「許さない!許ざない!!許ざないッッ!!!」
だがその問いかけが聞こえないのか、はたまたわからないのか。戦車の上の異形が返事を返してくることはなかった。
ドドゥォオン!!!
「あぶねっ!!」
それどころか異形を乗せた「Mark I tank」はこちらに砲撃を仕掛けてきた。
…このままじゃまずい…!
そう肌で感じとった宏樹は、反撃を開始することにした。
「『BT-7』あいつを蜂の巣にするんだ!!」
宏樹はまず初めに宙を飛び回る「Alecto」を撃破するべく、召喚していた三両の「BT-7」を「Alecto」に突撃させた。
ダダッンダダダッン!!
「BT-7」は「Alecto」を取り囲み、一斉に45mm砲を撃ち込んでいった。
…よし…!あいつはベーテーに任せて俺はこっちを…!
その間、宏樹は「Mark I tank」を撃破するべく、砲塔を回した。
…そこを動くなよ…!!
そして宏樹が
「…!?何の音だ……??!」
背後の方からボウボウと風が唸っているかのような音が聞こえてきた。
宏樹がバッと後ろへと振り返ってみるとそこには…
「炎!?…まさか…!!」
川に架かっている橋の上で、青白い色をした大きな炎の塊がゆらゆらと揺れていたのだ。
ボウボウと音を立てて燃え上がる炎は、徐々に形を変え主砲・車体・履帯と徐々にその姿を露わにしていった。
独特なマズルブレーキに図太い主砲。KV戦車の車体に固定された戦闘室。
「あ!あれは…!!!」
宏樹はその戦車に見覚えがあった。
「絶対あれだ…!知ってるぞ…!!」
その戦車を一度目にしていた宏樹は、咄嗟に橋上に現れた戦車の名を叫んだ。
「
グゥゥンンンブグォォォンンン!!!!
その叫びが橋上の戦車へと届いたのか、鎮座していた戦車はゆっくりと車体を旋回させ、その主砲で目標を睨みつけた。
そして…。
ッッドドドッッッゴゴゴッッッ!!!!
いいっ…!!?!!
塞いでいた耳が痛くなるほど大きな轟音と共に、橋上の戦車が「Mark I tank」に対して砲撃をした。
…とんでもない威力だっ…!!
砲撃によって辺りには濃い硝煙が立ち込める。
その煙の濃さが砲撃の凄まじさを物語っていた。
それから程なくして…。砲撃による音は徐々に静まっていき、夜の河原に相応しい静寂が流れ始めた。
「やった…のか?」
濃い煙に視界を奪われているため、敵戦車が今どうなっているのかは確認できない。
「これは…やっただろ…!」
しかし、あんな威力の砲撃を受けて無事でいられるとも考えにくい。
少年の背後に現れた戦車の名は「SU-152」
史実ではその驚異的な破壊力で、向かって来る鉄と肉の群れをことごとく土に還していったと言われる残忍な兵器。
「KV-2」と同様152mmもの極太な主砲を積んでおり、その砲弾によって破壊された戦車は1000両はくだらないと言われている。
その功績から「
…そんな戦車に撃たれて無事なはずがない…!…俺の勝ちだ…!!
そう確信していた、直後のことだった。
ガッギギギィィッッッンン!!!
…ぐぉ!!!?
突然、正面の方から砲弾が飛んできた。
…ま…まさか…!?
砲弾が飛んできた方角は“奴”が最後にいた場所だった。
その直後、立ち込めていた煙が徐々に晴れていき、周囲の状況が少しずつ見え始めた。
そして、砲弾が飛んできた方の先には…
「まだ動いてるのか!??」
なんとそこには、未だに動き続けている「Mark I tank」の姿があった。
…嘘だろ…あの攻撃を受けたのに…!!
車体上部についている三角屋根は派手に吹き飛び車体も大きく焦げ付いている。
「SU-152」の攻撃は明らかに命中していた。
にも関わらず「Mark I tank」は何事も無かったかのようにそこに立っていたのだ。
「いたいいたいいだいいだいいだあああああいいいい!!!!!!!」
「Mark I tank」に乗っている赤黒い異形が、およそ人とは思えないような奇声を発している。
…やばいやばい…!早くこいつをなんとかしないと…!!!
宏樹はすぐさま「Mark I tank」へと照準を定め「KV-2」による砲撃を行った。
ッドドッッゴゴゴオウンン!!!!
「KV-2」の主砲が火を噴き、辺りは再び煙に包まれる。
…今度こそは…!
流石にこれで沈黙しただろう…と宏樹は思っていた。
しかし、そんな考えの斜め上をいくようなとんでもない様子が煙の先に広がっていた。
「なん…だと………!!?」
煙が晴れた先には先ほどと同じ「Mark I tank」がいたのだが…
なんと砲撃によって与えたはずの損傷が綺麗さっぱり消え去っていたのだ。
「回復!?回復するのかお前!!!?」
その光景を目にした宏樹は、動揺を隠せずに思わずそう口から出てしまった。
…手下を使った攻撃に、異常に高い耐久力。そして…回復まで…!!
ただでさえ、今までの怨魂とは別物レベルで厄介なのに、回復という技まで使ってくる。
いやいや諦めるな…!とにかく撃ち続けろ…!!!
宏樹は絶望しながらも、とにかく何も考えず撃ち続けることにした。
だが、その成果が出ることはなく…。
…もう…20発は撃ったか…???
どれだけ砲弾を撃ち込んでも「Mark I tank」は倒れる気配すら見せなかった。
「SU-152」「KV-2」から放たれる砲弾はもう何度も敵の正面装甲へと命中しており、普通だったら原型を保っていられないはずだ。
だが「Mark I tank」は撃たれては回復、撃たれては回復と。
まるで不死身の怪物という言葉がピッタリ当てはまるような、前代未聞の動きを見せてくる。
幸い敵の主砲は威力が低いため、衝撃以外に大したダメージは受けない。
しかしそれはこちらも同じことで、攻撃が与えられないとなればこの戦いを終わらせる術はもう無い。
…もうどうすりゃいいんだよ!!
そんな対処しようのない敵相手に、宏樹は若干心が折れかけていた。
そんな時、とあることが起こった…。
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