最終話 特異な敵に襲われ...



「よし…!ここまでくればなんとか…!!」

迫り来る怨魂らからなんとか距離を開けるため、中学校の近くの川まで走ってきた宏樹。


…念の為、下の方まで降りて身を隠そう…!

そこから坂道を下って河原へと降りて、追ってくるであろう怨魂からしばらく身を潜めることにした。


河原へと降りた宏樹は英傑「KV-2」の車体を180°旋回させ、川の上流の方へと向かって移動した。


…流石にここまでくれば大丈夫だろう……

宏樹はこんな場所まで怨魂が追ってくることはないだろうと踏んでいた。


これまでにも説明した通り、怨魂らは視認範囲が極端に狭く100mほど離れていればまず見つからない。

だから、ある程度の距離を開けた上で姿をくらませば確実に怨魂はこちらを見つけられなくなる。


…最悪こっちにきても、なんとかなる…

それに咥えて、怨魂らは基本的に群れて行動することはないため、もし河原へと降りてきたとしても一体のみである可能性が高い。


…もし追ってきたとしても、ここは一本道だから一撃で仕留めればいい…

この河原に降りるための坂道は一本しかなく、待ち伏せがしやすいため難なく対処することができるだろう。


…こんなにも有利な場所が家の近くにあったんだな…!

咄嗟の判断で逃げ込んだにしては、なかなかナイスな逃げ場が見つかった宏樹は、少しだけ得意げになった。


…よし……この場所でしばらく隠れていよう…

いい逃げ場を見つけた宏樹は、ここでしばらく待機することにした。


宏樹が考えている作戦はこうだ。

まずしばらくの間、ここの河原でしばらく待機する。

それからある程度の時間が経ったら、河原から上がってもう一度あの怨魂を探しにいくというものだ。


…奴らは基本的に群れない…時が経てばバラバラになっているはず……

こうすれば、怨魂がバラバラに散らばって一体ずつを相手に戦うことができると考えていた。


「ふぅ…」

まだ何も始まってはいないのだが、宏樹はまるで緊張から解放されたかのような気になっていた。


これから、予想を遥かに超える怪異に見舞われるということも知らずに…。



それから10分ほどの時間がたっただろうか?


…よし……そろそろいいだろう………

宏樹は意を決して河原から地上の方へ戻るため、車体を旋回させた。


…早く現実世界に戻って幸人を送り届けなくちゃいけない……

待機中に、幸人が気絶しているだけで無事だということがわかり、一刻も早く彼を自宅に送り届けるという新たな目標も生まれた。


…すぐに片付けよう…

宏樹はその目標をすぐにでも達成するため、怨魂を素早く見つけて素早く撃破するつもりでいた。


しかし、宏樹が河原から出る坂道に差し掛かろうとした時…


…んっ!?…何か聞こえる…

宏樹は自らの英傑が発している音とは違う音が、どこからか響いてくるのを感じ取った。


…発動機の音だ……近くにいる…!

それはおそらく戦車の駆動音であり、徐々に大きくなっていった。


そして…

…!!?


息を潜めている宏樹の上空を何かが通過して、川の向こう岸へと走っていった。


…まずい!まずい!!まずい!!!

それは、先ほど遭遇したものと同一と思われる「Alecto」三体だった。


…なぜだなぜだ…!奴ら群れては行動しないはずだろ…!??

宏樹は一体何が起こっているのか、わからないまま急いで移動を始め、下流側にかかっている橋の下へと逃げ込もうとした。


…だめだ、追ってきてる…!!!

だが、咄嗟の判断も虚しく奴らは逃げる宏樹を捕捉し襲いかかってきた。


…くそ…!こうなったら…!!!

ドゥゴッッッッゴゴゴーーンン

宏樹は50mほどまで距離を詰めてきた「Alecto」らに対して英傑「KV-2」による砲撃を行った。


…なっ…!??…

しかし、その攻撃は予想だにしない動きによって回避されてしまう。


…なんだなんだ…!??どうなってるんだ…!!?

宏樹が砲弾を放った瞬間「Alecto」が視界の中から消えた。

その理由は単純。奴らが砲弾を回避するために上空へと逃げたからだ。


…履帯か…!?その履帯が原因なのか…!???

怨魂である「Alecto」らは、紅く発光した履帯に赤黒い色をした炎を纏っており、まるで魔法でもかかったかのように空中を自由自在に走り回っていた。


…新種か!?それとも怨魂の突然変異…!?

それがなんであれ、今の宏樹には関係なかった。


…とりあえず早く仕留めなければ…!

「英傑戦技、装輪『ベーテータンク』」


宏樹は「BT-7」の英傑戦技を使用して「BT-7」三両を召喚し、日の沈んだ河原にて戦車戦を開始した。


「『BT-7』右前方の怨魂『Alecto』を蜂の巣にするんだ!」

宏樹は目標を1体の怨魂に絞って、攻撃を始めた。


…くそっ!また上空に…!

こちらは「BT-7」が3両もいるというのに、なかなか敵を追い詰めることができなかった。


それもそのはず、敵「Alecto」は3次元的に動くことができるため、追い詰めたところですぐこちらの攻撃が届かない高所に逃げられてしまうのだ。


…だが、そう簡単に逃がすわけにはいかない…!

それでもなんとか「BT-7」の移動妨害によって動きが遅くなっている「Alecto」に対して、英傑による砲撃を行い1体を撃破することに成功した。


…ここから一気に片をつけるぞ…!!!

この撃破によって勢いをつけた宏樹は、さらに戦力を増加することにした。


「英傑戦技、多砲塔『ミュール・メリリズ』」

英傑戦技によって「T-28」を召喚してさらなる猛攻を仕掛けた。


…ちょこまかと…!逃げるだけなのか…!?

怨魂はこちらに対して反撃をしてくるどころか、ただただ縦横無尽に逃げ回っているだけだった。


…くっそ!動くと当たらない…!!

その動きからは、まるで煽られているかのような感覚を覚えた。


…こうなったら…こっちも奥の手だ…!!

しかし、ずっと指を咥えてその状況を見ているつもりはない。


宏樹は英傑戦技によって召喚した「T-28」の副砲塔を車体から切り離し、それを浮遊爆弾として「Alecto」に突撃させた。


「よっしゃあ!命中!!!」

「T-28」の副砲塔は「Alecto」の車体にぶつかって大爆発を起こし、そのまま「Alecto」は沈黙した。


…あと残り一体…!

二体の「Alecto」を撃破したことで、残すは一体だけとなり宏樹は一気に前へ出た。


「英傑戦技、装輪『BT-7』」

宏樹はもう二体の「BT-7」を召喚して、囮として動かし「Alecto」を追い込む戦術を選んだ。


だが、その時…!


…!?背後から何かっ…!!

宏樹は背を向けている上流の方から何かが向かってきているのを感じ取った。


「逃げるなぁ…!!悪鬼羅刹がぁ…!!」

宏樹が後ろを振り返った瞬間、濁り淀んだ声でそう聞こえてきた。


…いつのまに…!!?

そこにいたのは姿をくらましていた「Mark I Tank」とあの謎の人影だったのだ。


…あの高さを…強引に降りてきたのか…!?

地上から河原までは4mはある。

戦車とはいえ、降りれば履帯が破損したり横転したりといった危険性がある。


…とにかく、こいつは対処しないと…!!!

色々言っても仕方がない、このまま「Mark I tank」を放置するという選択肢はなかった。


宏樹はすぐに英傑を旋回させ、砲を「Mark I tank」に向けた。


「喰らえやぁ!!!!!」

ドゥゴッッッゴォッゴゴゴーーーーンン!!!!!


英傑「KV-2」の152mm砲を「Mark I tank」に対してお見舞いした。

しかし…


……!!???

「それやがった…!!!!」

砲撃による硝煙が薄れた時、そこにはまだ無傷の「Mark I tank」が鎮座していた。


こんな大事な場面にも関わらず、宏樹が放った砲弾は「Mark I tank」に命中することなく、後方へと逸れてしまっていたのだ。

…まずい…!撃たれる…!


宏樹は反撃をもらうと悟り、車体の向きを一刻も早く整えようとした。

だが…


ドドゥッンン!!ガッゴゴン!!!!

「ぐぉっ!!!!」


防御姿勢を取る前に「Mark I tank」が砲撃を始めてしまい、宏樹は攻撃をモロに受けてしまったのだ…。

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