第43話 暗闇に潜むモノ
「次は〜みたにざん〜みたにざんです。お降りの際は………」
時刻は夜8時前。
楽しかった1日も終わりを迎え宏樹はようやく自宅近くの駅へと戻ってきた。
「それじゃあ、またね美咲」
「うん、帰り道気をつけてね」
宏樹は、電車の中で美咲と分かれて出入り口の前に立った。
ーーーポ〜〜ンーーー
電車から降りた宏樹は改札口へと向かって歩いて行く。
辺りはすっかり真っ暗闇に包まれ、夜も遅いため電車から降りる人数もそう多くなかった。
「お気をつけてお帰りください」
改札を出て駅を後にした宏樹は、急足で自宅に向かって歩き始めた。
…外は生ぬるいな……
もう7月も中旬。風こそ吹いているがその風はどこか涼しさを感じられない。
訓練で忙しい日々を過ごしていたからあまり実感が湧かないが、もうすっかり世間は夏だと言えるだろう。
そんなことを思いながら10分ほど歩いただろうか。
…こっちからの方が早いか…
宏樹はちょっぴり薄暗く歩道も無い道を選んで進んだ。
そっちの方がいくらか近道になるからだ。
…うわぁ〜懐かしいなぁここ……
宏樹が選んだ道の側には、宏樹が通っていた中学校「
…卒業してから一度も来てないな、久々に行ってみようかな……
宏樹はそんな思い出に浸りながら、呑気に歩いていた。
この後、予想だにしない不幸が自分の身に降りかかることになるとは、思ってもいなかった。
中学校が見え始めてから少し歩いたくらいの時だろうか…?
「…っん…!?……停電……?」
宏樹が歩いていた道の街頭や、道の側に設置されている自動販売機の明かりが突如として消えたのだ。
ただでさえ街頭が少なくて薄暗かったのに、この停電によって辺りは真っ暗闇に包まれてしまった。
…落ち着け…。落ち着け…。
宏樹は焦りを感じながらも一度背を低くして、ショルダーバッグの中からスマホを取り出して画面を開いた。
…やっぱりか……
スマホの電波を確認してみると圏外と表示されており、ここが空世であることが確定してしまった。
…大丈夫大丈夫…いつものようにやればいいだけだ……
宏樹はそう自分に言い聞かせながら周囲に人がいないか確認し、急いで英傑召喚の準備に取り掛かった。
「英傑『KV-2』」
名を呼び英傑「KV-2」を召喚した宏樹は、早速それに乗り込んで発動機を起動させた。
…後方よし!前方よし!左右障害物なし……!!
心の中で指差喚呼をして、周りの安全を確かめてから移動を始めた。
まず初めに、宏樹は通って来た道を引き返して、中学校と隣にある大きな商業施設の間にある道路から探索を始めることにした。
…やっぱ全部消えてる……めっちゃ不気味……
ここの商業施設はもちろん今の時間帯も営業しているはずだ。
だが、施設内の明かりは全て消えており、とても近づけるような雰囲気ではなかった。
…そろそろ大通りに出るな…
そろりそろりと商業施設と中学校の間を通って、宏樹はようやく大通りに出た。
…いない…かぁ……
もちろん、大通りに人の気配は無かった。
しかし、怨魂の気配も同様に無かった。
とは言ってもここは開けている場所だから、敵がいる可能性はあまり高くない。
…もう少し進んでみよう…
それでも、まだ中学校の周辺に敵が潜んでいる可能性が十分あるため、宏樹は続けて探索を行った。
それから大通りを少し進み、ガソリンスタンドがある交差点を左に曲がった。
そこからの道は住宅街なのだが、そこにはどこか違う世界に繋がっているのかと思うほど真っ暗で不穏な道が延々と続いていた。
…嫌な感じがするな…ここ……
空世だから仕方がないとはいえ、やはり誰もいない暗闇の道というのは、本能的に怖さを覚えてしまう。
…でも…行くしかないよな……
まるで気は進まないが、この周辺は私生活でもしばしば通る道だから、絶対に確認しておいた方がいい。
………進もう…!
しばらくして宏樹は、意を決して車載のライトをつけ、暗闇を照らしながらゆっくりと前進して行った。
…何も出てくるな…!今出てきたら絶対漏らす………
宏樹は戦えるだけの戦力は持っているが、今だけは出てこないでくれと切に願った。
それから徐行くらいの速度で3分ほど進んだ。
…もうすぐ中学校に着くな……
あんなに恐ろしく見えた道も、いざ通ってみたら予想以上に何も起こらず、怨魂とも遭遇しなかった。
…もしかして…逃げられた…?
いや、それはない。
安奈から「奴らは逃げるという概念が無く壊れるまで動き続け襲ってくる」と聞いている。
…すれ違いになったとか……?…まあどっちでもいい……
詳しいことはわからないが、結果として怨魂は見つからなかった。
そのまま何事も起こることなく、宏樹は中学校のグラウンド横まで戻って来た。
…一体なんだったんだろう…?
空世に迷い込んだ時はいつも決まって怨魂と遭遇していたから、宏樹は今の状況がどこか腑に落ちなかった。
…考えてもしょうがないか……
過程はどうであれ、結果的に何も起こらなかったのだからいいだろう。
…そう考えて宏樹が人気の無いところに移動しようとした…その時。
……ん…??あれは………
宏樹は真っ暗な中学校の中に、何かを見つけた。
…人……か?……いやいや…………
それはグラウンドを挟んだ先にある校舎の近くで動いている、何者かの影だった。
距離がある上に真っ暗闇なため、それが誰なのか?そもそも人なのかさえもわからなかった。
しかしながら、それが人であれ獣であれ、確認しないわけにはいかない。
もし怨魂だとしたらしっかり倒しておかないと、他の誰かに危害が加わるかもしれない。
…確認しに行こう…!
宏樹は車載のライトを消し、学校の敷地内に入るため前進しようとした…。
だが、次の瞬間…!
グゥァァァアアアアアアア!!!!!!
…なになになになに!!!??
突然、どこからか身の毛もよだつような唸り声が聞こえてきた…。
そして…
…うわっ!!!?なんだあれ…!!?
唸り声が聞こえたと同時に、先ほど謎の影が動いていた校舎付近で、突如として赤黒い色をした火柱のようなものが複数立ち上った。
校舎に立ち上った“それ”は、見ていると心が不安定になりそうなほど気色の悪い色を呈している。
…怨魂が現れた…!!
さらに、その赤黒い火柱が消え去ったかと思うと、そこに数体の怨魂が姿を表していた。
「くそッ!」
…どうする…!……!!
背後にはだだっ広い畑が広がっていて、正面も学校のグラウンドがあって、身を隠せそうな障害物は見当たらなかった。
…こんな開けたところで戦ったら…絶対に負けるぞ!!
怨魂一体だけならまだしも、敵勢力は見たところ4体はいた。
…一旦距離を置いてから、
そう決意した宏樹は、急いで離れるために移動しようとした。
するとその時、またしても宏樹の耳に何者かの声が入ってきた。
「……けて…!!…」
……??…
何かが聞こえた宏樹は辺りを見回す。
「…た……て…れ…!!」
…後ろ…!じゃない…前か!!?
宏樹が声のする方を注視すると…。
…誰かいる…!!?
真っ暗でよく見えないが、何者かがグラウンドを走っているのが見えた。
「誰だ!!!???」
宏樹は押し寄せる恐怖心を押し返して、向かって来る者に威圧をかける。
...まさか向かって来てるのか!?
だが、その何者かはその威圧に対して反応することなく、裏門からグラウンドを出てこちらに向かって走ってきているようだった。
...え...え、え!?おまっ......!??
その向かって来た者の正体はなんと、宏樹がよく知っているあの人物だった。
「お前か…!お前なのか……!?どうしてここに…!!?」
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