最終章 そこにいるモノ

第42話 ショッピングデート



宏樹が初めてハルマの都へと足を運んではや2ヶ月。

学校生活もそろそろ一学期が終わり、夏休みへと差し掛かろうとしていたとある日。


宏樹はとある人物と交わしていた約束を果たすために、早歩きで最寄駅へと向かった。


時刻は朝の9時前。


ーーーピ〜〜ン  ポ〜〜ンーーー

盲導鈴がいつもの駅構内に流れる。


宏樹はいつもより乗客のホームを歩き、ホーム端へとやってきた。


…スマホスマホ…電話しなくちゃ………

宏樹はショルダーバッグからスマホを取り出して、とある人物に電話をかけた。


ーーープルルルル…プルルーーー


「は〜い、今どこいるー??」

「今、御谷山駅に着いたところ。もう少しで電車乗るよ」


電話の先の人物は、恋人の美咲だった。


「りょーかーい。私はもうすぐ博万はくま駅に着くから、例の場所に集合ね〜」

「うん。わかった。それじゃあね」


宏樹はそう言って電話を切った。



それから電車に揺られること約30分。


「次は〜はくま〜はくまです。お降りの際はお忘れ物の無いようお気をつけください。出口は進行方向右側です」

宏樹は電車内に流れるアナウンスと同時に座席を立ち、早々と電車の出入り口の方へと向かった。


ーーーポ〜〜ンーーー


電車の扉が開くと同時に、蜘蛛の子を散らすように電車から溢れ出てくる群衆に宏樹も紛れる。

しばらく群衆と共に足を進めながら、美咲が待っているであろう集合場所へと向かった。


それから数分歩いて…。


「お待たせ美咲!」

宏樹は“白い液晶パネル“の下で待っている美咲と合流した。


彼女と交わした約束というのは、宏樹が訓練を受けていた間の1ヶ月間が終わった日に、デートに行くというものだった。

その1ヶ月間が終わった日というのが、今日なのだ。


「ほんっとに待ったよ!」

美咲は頬を膨らませて怒る。

1ヶ月も待ったのだから自然な反応だ。


「ごめんごめん!でも、約束は守ったから…許してぇ〜」

「そぉだけどぉ〜」

美咲はちょっと不貞腐れている。


交わしていた約束はきっちり守ったが、だいぶ長いこと待ってもらっていた手前、宏樹は下手の方からやんわりと言い返すしか無かった。


「じゃあ、今日は私のショッピングに付き合ってくれるよね?」

「もちろん!久々の遠出だから、どこでも行くよ〜」


「やった〜!じゃあ早速行こ〜!!」

そう言って美咲はさっさと人ごみの中へと走り去っていく。


「あ!美咲待ってー!!」

…早いな…!よっし……!!

その後を宏樹も追いかけて走り出す。


✳︎ ✳︎ ✳︎


それから二人は「ファニープラザ博万」という商業ビルにて、主にファッション店を見て回った。


「ねえ宏樹〜?」

「んー?どーしたのー?」


美咲は宏樹に声をかけると、手に持っていたものを広げる。


「これ可愛くない?」

「キュロット?」

「そうそう」


それは膝丈ぐらいの長さのキュロットだった。


「めっちゃ可愛いじゃん!」

「でしょでしょ!」


美咲はまるで大好きなお菓子を買ってもらった子供のように、キュロットを広げては目をキラキラさせる。

そんな彼女に対して、宏樹が口を開く。


「あれ?美咲ってキュロットって持ってなかったよね?」


美咲とはよく休日デートに行っていたのだが、彼女は普段からスキニーかジーンズを好んで着ていた。

だから宏樹は、彼女がキュロットに合うトップスを持っているのかどうか疑問に思ったのだ。


「そうなんだよねぇ…そこがネックなの」

「やっぱり笑」


案の定、美咲はキュロットに合う服をあまり持っていないようだった。


「じゃあさ、それも一緒に見てみる?」

「え!?いいの?」


そこで宏樹は、彼女のキュロットコーデを買い揃える提案をした。


「俺がコーディネートしてあげるからさ」

「結構時間かかるよ…?」

美咲はファッション店によく訪れているわけではないのだが、いざ買いに行く時はとても長い時間悩む。


高一の頃には、これでもないあれでもないと色々悩んでいた結果、夕方になってしまいバイトに遅れそうになったこともあった。


「大丈夫だよ、今日は1日空けてるから」

「本当に!?ありがとう宏樹!!」


それを聞いた美咲は、早速手元の棚に並んでいたキュロットたちを幾つか手に取った。


「まずは色とサイズ見てくる!これ持ってて!」

美咲はそう言ってバッグを宏樹に預けて、キュロットたちを持ってスキップしながら試着室へと駆け込んでいった。


✳︎ ✳︎ ✳︎


紆余曲折を経てようやくお気に入りの洋服を幾つか買った美咲。


「いい買い物ができたー!これも宏樹のおかげだよ〜!!」

「どういたしまして笑」


…喜んでくれてよかった…!

約3時間弱の時間を費やしはしたが、喜んでくれる彼女を見て宏樹は心が温まった。


「じゃあ…。遅くなったけど…ご飯にしよっか!」

「うん!そうしよう」


時刻は13時過ぎ。

二人は同じビルの9階と10階にある「喰いどころ博万」というレストランゾーンにて、昼食を取ることにした。


「中華にラーメンにお寿司!どれも食べたいなぁ〜」

「食いしんぼうみさき笑」

宏樹はフロア案内板の前で瞳を輝かせている美咲に冗談を言う。


「なんてぇ???」

「ちょ!やめ…!」

美咲は揶揄ってきた宏樹の頬を両手でぎゅーっと押し潰す。


おりあえうとりあえずおこいうどこいく?」

「ん〜、じゃあこの鉄板焼きのお店に行こ〜」


彼女が指を刺したのは9階の北側に位置している、とても荘厳な雰囲気を醸し出しているお店だった。


「結構高そうだけど…美咲お金大丈夫?」

美咲はバイトで稼いでいるとは言え、さっき洋服に結構使っていたし…。


「大丈夫大丈夫!あなたがいない間、バイトしまくったから」

「あ…そう?なら…よかった!あはは」

宏樹はなんとも言えない気持ちになったが、問題無いならいいかと思いそのお店に行くことにした。


「いらっしゃいませー!何名様でしょうか?」

「二人です!」


「では2番テーブルにご案内致します。お客様お入りでーす」

カウンターの人に案内されテーブルに座った二人。


「わぁ〜美味しそう!ねぇねぇ宏樹何食べる〜??」

美咲は、テーブルにつくや否や真っ先にお品書きに飛びつき、メニューを眺め始めた。


「ん〜どーしよーかなぁ」

その隣で宏樹も一緒になってメニューを眺める。


「私これにする!」

「じゃあ僕も同じのにしようかな」


食べたいものが決まった二人は、早速注文のボタンを押した。



ちょっとお高めな肉料理を食べて大満足した宏樹と美咲。

そんな二人は昼から特に目的もなく、ぶらぶらとビルの中を歩いた。


ゲームセンターでホッケーを一緒にやったり、ガチャガチャを引いたり。

本屋さんでおすすめの小説を探したりと。


何にも縛られず、ただただ自由な時間を思う存分楽しんだ。


✳︎ ✳︎ ✳︎


そうこうしていると、時刻は夕方5時を回った。

二人はベンチに座ってガチャで取ったキーホルダーを、カバンにつけていた。


「美咲〜」

「んー?どうしたの?」


「これからどうする?今5時くらいだけど」

「ん〜どーしよーかなぁ」

彼女は手の中のキーホルダーとお見合いしながら、悩ましい返事を返す。


「僕はまだOKだよ!」

「ん〜〜〜どうしよっかなぁ〜〜」


彼女はしばらく目を瞑って悩んでいたが、突然何かを閃いた。


「あ!カラオケ行こうよ!ほら、あそこ!」

そう言って彼女が指差した先には、煌々こうこうと光を放っているカラオケ店があった。


「2時間くらい歌おっか!」

「うん!それで決まりだね!!」


そうと決まると、二人は早速目の前のカラオケ店に足を運んだ。


「お客様のお部屋は15番になりまーす」

「ありがとうございま〜す」


それから2時間の間、カラオケでいろんな歌を歌った二人。


「やっぱこの人の曲はテンション上がるね!」

「ほんとそれ!もっと歌おー!!」


J-POPから洋楽まで。

時間が許す限りカラオケを楽しんだ。

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