第39話 記憶から授かりし力



「新たな英傑戦技ですか…!それはちょっと興味があります!」

前世の記憶に対するネガティブなイメージが少し消えた。


「どうやって新しい技を獲得できるんですか?」

そんな目をキラキラさせて質問をする宏樹に対して、安奈が逆に質問を返す。


「じゃあまず、あなたがさっき見た記憶の内容を、もう一度詳しく教えてくれる?」

そう聞かれた宏樹は、さっき見たものを思い出そうと必死に頭の中を探った。


「えっと…。たくさんの戦車がずら〜っと並んでいるような光景でした。まるでスーパーの駐車場みたいな…」

「それで、何台くらい並んでいたの?」


「ざっと…数十両はいた気がします」

「なるほどなるほど…」


安奈は宏樹の話を深く聞いている。

「もしかして、記憶の中で見た戦車を扱えるようになるんですか?」


宏樹が当てずっぽうで言ってみると…。

「そう、正解」

「やっぱり!」


宏樹の勘は当たっていた。

「でも、獲得するためには一つ条件があるの」

安奈曰く、新たな英傑戦技を獲得するためには、その記憶の中で見た戦車の名前を口に出さなければならないと言うのだ。


そう言われた宏樹は困った顔をした。

「な、名前ですか!?…名前まではちょっと…」


宏樹は少し前に自宅のパソコンでさまざまな戦車を目にしてはいるが、見た戦車の名前を全て記憶しているわけではない。

「ちょっと覚えてないです…」


宏樹が素直にそう言うと、安奈が指を顎に当てながら宏樹にこう言った。


「じゃあ例えば、その中で最も特徴的だった戦車とか、覚えてる?」

「特徴的だった…戦車ですか……」


そう聞かれた宏樹は悩んでしまった。


…特徴的な戦車……

結構な数の車両が並んでいたし、どんな車両だったかなんてもちろん知らない。


そんな宏樹を見て安奈がさらに問いかけてくる。

「サイズはどれくらいだった?他の戦車にない特徴があった車両とか…」


「ん〜〜」

宏樹は朧げながらも、最も記憶で見覚えのある戦車の特徴を話し始めた。


「えっと…すごくサイズがすごく大きい戦車で、砲塔の前に二つの突起みたいなのがついてた戦車がありました」

「うんうん。他の特徴は?」


「それで、転輪がいっぱいついてて履帯の横にはカバーみたいなのがついてました」

「ふんふん…なるほどなるほど…きっとあの車両ね」


「安奈さん…知ってるんですか?」


「当然よ。だってその車両、“界隈”の中ではそれなりに有名よ?数も多いし」

「そうだったんですね…!」


…なるほど…道理であんなにたくさん並んでいたのか…!

自分なりに納得した宏樹は、そのままの流れで安奈にこう聞いた。


「ということは、その戦車の名前も?」

「ええ、もちろん知っているわ」


…本当に…!!?

「教えてください!」


宏樹が強くそれを望むと、安奈は英傑「Panther」の中から取り出した軍帽を被りこう言った。



「…その戦車の名前は『T-28』クビンクで使用されていた『多砲塔戦車』よ。言ってみて」

「T…28…」


と、宏樹がそう口にした次の瞬間…!


あれ…?なんか空間が……??

なぜか安奈と宏樹の間の空間がゆらゆらと歪み始めた。


「…えっ!!?安奈さん…!したした!!」

宏樹が下の地面を覗き込むと、そこには…。


「どうやら『T-28』で間違いないようね」

戦車大くらいの大きさの火が地面に灯っていた。


「安奈さんよく分かりましたね!?」

「ええ。もう戦車に乗って長いからね」

宏樹は口頭で言った戦車の特徴を少し聞いただけで、何も見ていないはずの安奈がその戦車を言い当てたことに驚く。


地面に灯った炎はみるみる大きくなっていく。

「ほらほら、どんどん大きくなっていくわよ〜」

「おお〜〜!!!」


そして、ものの数十秒のうちにそれは戦車の形へと成っていった。

「これが…『T-28』」

二人の前に現れたその戦車は、確かに宏樹が記憶の中で見たものと全く同じものだった。


「『T-28』多砲塔戦車の一種ね」

宏樹がそのかっこいい登場に心奪われていると、安奈がそれに関する説明をしてくれた。


彼女によるとこの「T-28」と言う戦車は世界で最も多く作られた多砲塔戦車だそうで、他の同一車両と比べてもこの戦車は拡張性が高く、改造に改造を重ねありとあらゆる戦場で使われたと言う。


「なるほど…じゃあ、結構強いんですね…!!やった!!」

安奈の解説を聞いていた宏樹は喜んでいた。


しかし、その一方で安奈はというと心配そうに「T-28」の方を見つめていた。

まるで、その瞳に鈍い未来が映っているかのように…。


「それじゃあ早速、訓練で使ってみたいです!!」

宏樹は少しワクワクしながら安奈にお願いした。


「ん〜……そうね!…何事も挑戦してみましょう!」

安奈は少し悩んでいたが、結局「T-28」を使った訓練に付き合ってくれることになった。


✳︎ ✳︎ ✳︎


それから、再び訓練へと戻り新しい戦力「T-28」を使い始めた宏樹。

彼はそこで、その戦車のあまりにも強い癖に翻弄ほんろうされることになる。


「『T-28』は機動性が低いわ!だからBTのような奇襲は無理よ!」

「はい!」


…まあ大きいから当然か……


「『T-28』は装甲が当てにならない!おまけに車体も大きいからすぐに見つかってしまうわ!」

「は、はい!!」


…あれ…この戦車……思ったよりも………


「『T-28』は火力が低いから的確に弱点を狙って撃って!モジュールは複雑で壊れやすいから1発でも被弾したら大変よ!!」

「……はい!!!」


…弱い……………???



それからある程度の訓練をこなした宏樹は、一度小休憩に入った。


「はぁ〜はぁ〜」

「どうかしら、新車両の使い心地は。ちょっとは使いこなせるようになったかしら?」


そう聞かれた宏樹は、素直な気持ちを伝えた。

「いやぁ〜……かなり、きついですね…」


宏樹はかなり疲弊していた。

「こんなに癖がある戦車なんですね…見た目はかなり強そうなのに」


思ったよりも「T-28」の車両特性の癖が強く、使いこなすのが難しかったからである。


「そう。包み隠さず言うと『T-28』はそこまで強くないの。史実でもそうだったわ」


安奈の話によると、彼女も過去に何度もクビンクの傑帥と共に戦闘をしてきたそうなのだが、その中に「T-28」を使いこなす者はいなかったと言う。


史実でも、どちらかといえばプロパガンダといった士気高揚のために使われるのが主流であり、実戦での活躍は乏しかったそうだ。


「そうなんですか……」


宏樹はその事実に少しだけ肩を落とした。

てっきり、敵をバッタバッタと薙ぎ倒してくれる頼もしい存在なのかと思っていたからだ。


しかし、そうは言っても今の宏樹にとって、貴重な戦力であることには間違いない。


「まあ…石の上にも三年ですよね!もう少し使ってみます!!」

「そう。それじゃあ、もう一度頑張りましょうか…!」



それから、休憩を終えて再び戦場へと舞い戻った宏樹。

彼は何度も何度も「T-28」を使いながら訓練をこなした。


そうして、実戦訓練を始めてからおよそ1ヶ月が経った頃…。


「英傑戦技よ!宏樹くん!!」

「はい!」


「英傑戦技、多砲塔『ミュールメリリズ』」

ヒュ〜ンヒュ〜ン……ガギッン!ドッッッゴゴゴゴンン!!!


宏樹は「T-28」を使用した新たなる英傑戦技を編み出した。


それは戦車の副砲塔をまるで航空機のように飛ばして、敵車両に特攻させるというものだった。

これによって大爆発を引き起こし、敵の怨魂を真っ黒にした。


「いい技ね!なかなかやるじゃない!!」

「ありがとうございます!!」


「T-28」は宏樹の手によってものの見事に、強力な兵器へと昇華した。


✳︎ ✳︎ ✳︎


こうして、新たなる車両「T-28」とその英傑戦技を獲得した宏樹は、1ヶ月間にわたる長い実戦訓練を晴れて修了した。


これは傑帥の中でも速い部類であり、これは宏樹自身のポテンシャルが高かったことに加え、味方のカバーを得意とする安奈との相性が良かったことが功を奏したと言えるだろう。


無事宏樹は「生き抜いて訓練を終わらせる」と言うアルフとの約束を果たすことができたのであった。

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