第38話 謎の記憶の正体とは...
ついに実戦参加を果たし、多くの怨魂と戦闘を重ねてきた宏樹。
「そこの『T20』は私が引き付ける!その間に『M5A1』を撃破して!」
「はい!わかりまっ………」
…あれっ……力が………
全てが順調に進んでいた訓練中、それは起こった。
「っ!?宏樹くん!?大丈夫宏樹くん!!?」
宏樹は安奈からの指示を受け、怨魂「M5A1」を撃破するために移動しようとした矢先、突如として英傑「KV-2」が消滅しその場に倒れ込んでしまったのだ。
「こんなところで…!まだ早いわ!!」
安奈はそう呟きながら英傑「Panther」の車体を盾にして宏樹の体を砲弾から守った。そして…。
「
英傑戦技を使って「Nashorn」を召喚し、的確な射撃で「T20」「M5A1」の弾薬庫を撃ち抜きこれを撃破した。
周囲の安全を確かめた安奈は英傑から降り、急いで宏樹の元へと駆け寄る。
「脈はある、呼吸も…あるわね」
宏樹の安否を確かめ宏樹が気絶しているだけだとわかった安奈は、彼を英傑の車体天板へと乗せるため移動させようとした。すると…。
「あ…れ…?一体‥何が…?」
気を失っていた宏樹が目を覚ました。
「宏樹くん…!…起きたのね…。良かったわ」
「安奈さん…?一体何が起こって…」
宏樹は目を覚ますなり安奈にそう質問した。
「詳しいことは後で話すわ。ひとまず車体の天板に乗って」
安奈はそんな宏樹に、まずは安全な場所へ移動すると伝え、彼に天板の上へ乗るよう指示した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
それから、安全な場所へと移動した二人。
「ありがとうございます。助けてもらって…!」
「いいえ。それより、気分はどうかしら?」
安奈はそう言いながら宏樹に手首に指を当て、脈をとる。
「特に悪くないです…!」
「そう。訓練は再開できそう?」
安奈はポケットから取り出した小さな機械を宏樹の指に取り付け、酸素値を測りながらそう聞いてくる。
「問題ないと思います…!…ですが……」
その問いかけに対して宏樹は頷いたものの、その後にとある話をし始めた。
「ひとつ気になっていることがあって…」
それは、先ほど宏樹が体験したある出来事についてだった。
「何かしら?」
「さっき…気を失った直後に、変なものを見たんです」
「…うんうん。それで?」
安奈は話を遮ることなくじっくりと聞いてくれている。
「なんというか…誰かの…記憶みたいな…。結構前にも一度あったんです…。これって…一体何なんですか?」
宏樹はどこか不安そうに安奈に尋ねる。
安奈は宏樹が話をし終えると、英傑「Panther」の発動機を止めて話をし始めた。
「それは、前世の記憶よ」
…え…え……???
宏樹は目を点にして安奈の顔を見る。
「今、前世の記憶って言いました…?」
「ええ、そう言ったわ」
…前世……前世か…………
宏樹はその言葉を聞いた瞬間は頭にハテナマークが浮かんでいたが、よくよく考えてみれば今更騒ぎ立てて驚くようなことでもない。
そんなものあるわけない!と“それ”を強く排斥できるような資格は、今の宏樹には与えられていない。
「そんなもの本当にあるんですねぇ…」
…今はそういうものがあるんだと割り切って受け入れるしかないのだ…
宏樹が自分の心にそう言い聞かせ落ち着きを取り戻すと、彼女は気を取り直して説明をしてくれた。
「そう。あなたが見てしまったその前世の記憶は、トリガーとなるきっかけこそ人毎に違っているものの、全員決まって『戦争』に関する記憶を見るの」
…ん?ん?………?
「えっと…つまり………」
「要するに、記憶を見てしまうきっかけは色々あるけど、内容は似通っているということよ」
宏樹が理解に苦しんでいると、安奈がそう纏めてくれた。
「なるほど…!」
しかし、なんとなくは理解できた。
「あなたも戦車を見たって言っていたでしょう?」
「確かに…言われてみれば」
宏樹は前の時に見た記憶のことを思い出しながら、安奈にそう返事をする。
「もちろん、私も例外じゃないわ」
彼女はそう言って立ち上がると、英傑「Pnather」に寄りかかる。
「安奈さんは、どんな記憶を見てしまうんですか?」
地べたに座っていた宏樹も一緒になって「Pantehr」の車体に寄りかかりながら、そう尋ねる。
「私は、耳鳴りがする時にふっと”それ“を見てしまうのだけれど、前世でスパイだった頃の記憶が頭を流れていくの。もう数十回は見てきたかしらね」
「へぇ〜耳鳴りがして……って、え…??」
……っ!!??
「ス、スススパイ!!?スパイだったんですか…!?」
宏樹はその単語を理解するや否やバッと横を振り向き安奈の顔を見る。
「あれ…言ってなかったかしら?厳密にはムンストの工作員として諜報任務を行なっていたのよ」
安奈は驚く宏樹とは対照的にさも当然かのように淡々と話を続ける。
「言ってない言ってない!!初耳ですよそれは!!」
「…そうだったかしらね」
思わずタメ口が溢れてしまう程に、その情報は強烈なインパクトを放っていた。
そんな動揺を隠せない宏樹を置いて、安奈は話を続ける。
「まあ、今はこうして医者をやっているけれど、前世ではかなり派手に”事“を遂行していたのよ」
「な、なるほど………」
…直で言わないあたりが妙にリアル…!!!
宏樹が思ったよりも生々しい安奈の前世にずっと口を開けていると…。
それを見かねた安奈が話をぶった斬るように締めくくる。
「まあとにかく、あなたが見たものは特に害があるわけじゃないからあまり気にしないで!わかった?」
「…はい!それは…わかりました!」
安奈の驚きのカミングアウトで話が逸れてしまったが、とりあえず自身の身に起こったことが危険な事象ではないとわかって宏樹は一安心した。
話が一段落したところで宏樹は、改めてとある質問を安奈に投げかけた。
「でもどうして、そんな…前世の記憶なんか見てしまうんですか?」
その問いに安奈がどこか悩ましい顔をしながら言った。
「その理由は…いまだにわかっていないの。残念ながら」
それを聞いた宏樹は仕方ないと思いつつも、ちょっと頭に浮かんだ疑問を彼女にぶつけた。
「それって、なんだか怖くないですか…?」
宏樹としては、なんの前触れもなく記憶を見てしまうというのもそうだが、それが一体どういうものなのか?ということがはっきりしていないという事実に、言い知れぬ怖さを覚えたのだ。
「ん〜そうは言っても…。仕方ないのよ…」
しかし、安奈の言い分としては記憶を見てしまうことは防ぎようがないし、その記憶の正体を調べることも“できない”というのだ。
実際に前世のことを全て記憶しているという人が過去に都にいたそうなのだが、その人物が「前世という存在はなんら害のないものである」と言い放った時から、誰一人としてそれを疑うことなく現在に至るというのだ。
「そうだったんですね…」
「そう。皆もうその言葉を受け入れてしまっていて、実際に害がないからか、今更疑問に思ったり調べたりすることも無くなってしまったの」
「なるほど……」
…それは少し……妙だな………
宏樹は安奈のその発言に、なにかこう…言葉では言い表せない違和感のようなものを感じていた。
「なんというか…色々不安ですね…」
「それは………うん…」
安奈が最後にそう言ったきり、二人はお互いに黙ってしまった。
それから十数秒の沈黙が流れた後、安奈が再び口を開いた。
「でも、記憶を見てしまうのは悪いことばかりでもないのよ…?」
そんな時、宏樹の心を少し穏やかにさせるようなセリフを安奈が言った。
「え、そうなんですか…?」
興味を惹かれた宏樹は安奈の方をみる。
「そう、なんと言ってもこの記憶は、傑帥にとっては欠かせないとある重要な要素を秘めているのよ!」
「重要な要素…ってなんですか?」
気になった宏樹は早速安奈にそう尋ね返す。
「それは、新たな英傑戦技を獲得できるかもしれないと言うことよ」
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