第37話 いざ実戦へ!
長い長い訓練の終えた3週間目の最終日。
ついに明日から実戦訓練の参加が決まった宏樹は、安奈からある話をされた。
「明日から、貴方は私と一緒の実戦訓練へと赴くことになる」
「はい!」
改めてそう告げられるた宏樹は、これまで以上に良い返事を安奈に返す。
「そこでまず、貴方にはとある情報を教えておかなければならないわ」
「情報…ですか…!」
宏樹が問い返すと、安奈が続けていう。
「そう。貴方も遭遇したことのある敵対勢力に関する話よ」
「俺も遭遇した…って…それは僕を襲って来た奴のことですか?」
「そうよ」
…ついにか………
宏樹は、安奈のその話を聞いて少し身構えた。
ようやくここまで来られたという気持ちと、襲われた時のトラウマに打ち勝てるだろうか?という不安が混ざって、心が緊張を訴えている。
「貴方を襲ったその敵対勢力のことを俗に『怨魂』と、我々は呼んでいるわ」
「えんこん…って、どう言う意味ですか?」
宏樹がそう質問をすると、安奈は少し考えるようなそぶりをしながら言った。
「少し長くなるわよ…?」
宏樹は安奈のその言葉にすぐ答える。
「大丈夫です!」
その返答を聞いた安奈はゆっくりと「怨魂」についての話をしてくれた。
彼女によるとその怨魂と呼ばれる敵対勢力は、主に空世の中を彷徨っている傑帥に対して敵対する戦車勢力のことを指すそうで、奴らがどこからどのように発生するのかというのは、謎に包まれているそうだ。
また、奴らは傑帥の存在を音や光で探知するという特徴を持っているのだという。
その説明を聞いた宏樹は早速首を傾げた。
「音や光で……音はわかるんですけど、光ってなんですか?」
その質問に安奈は妙な回答をする。
「光というのは、貴方自身のことよ」
…ん…?一体どういう…?
「つまり怨魂の視界には、貴方の体が強く発光して写っているの」
「そうなんですか!!」
それを聞いた宏樹は、出で湯通りで怨魂らに襲われた時のことを思い出し、それを話した。
「物陰の種類にもよるけれど、そもそも頭を出していた時点で見つかるのは時間の問題ね」
「な、なるほど…」
あの時の自分は、いかに愚かだったのかを今になって痛感した。
宏樹が思い出し反省をしていると、安奈が続けて怨魂の説明をする。
「その怨魂なんだけど、実は貴方が思っているよりも脅威ではないの」
「え?そうなんですか…?」
それを聞いた宏樹は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして安奈を見る。
「まず、光や音で傑帥を探知するとは言ったけれど、それはおよそ100mくらいの範囲内での話」
…つまり…
「…それ以上離れれば向こうはこっちを見つけられないってことですか?」
「”基本的“にはそうね」
この情報が意味するのは、街中で襲われた時死ぬ気で走って逃げていれば、なんとか逃げ出せる可能性があったという事実だ。
「さらに、彼らは基本的には射撃性がかなり低くて、50mくらいの距離でも砲弾を外すことがあるの」
「50mで!?めっちゃノーコンですね…」
その説明を聞いた宏樹は心の中でこう思った。
…あれ…怨魂って思ったよりも…弱い…?
怨魂に関する情報をいろいろ聞いた宏樹は、その存在に対してちょっと警戒心が薄れてかけていた。
すると安奈がそんな様子を見せる宏樹に対して、鞭を打った。
「でも油断は禁物よ。実際にこちらを攻撃してくる存在と相対した時、人間はパニックになるものなの」
「それは、確かに…」
「だから、どんなに相手が弱い存在だったとしても気を抜かず、全力で取り組んで!」
「わかりました!」
安奈は、今の宏樹は問題なく怨魂と戦えるだろうと教える反面、決して油断してはいけないと最後に釘を刺した。
「それじゃあ、明日に備えて今日は早めに帰りましょう」
「はい!今日もありがとうございました!」
実戦訓練の前準備も終わった宏樹は、明日の訓練のために早めに帰宅した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
翌日。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。武運を祈ります」
「ええ、行ってくるわ」
「ありがとうございます」
宏樹と安奈はハルマの都の出入り口番の傑帥に挨拶をし、いよいよ都の外。
空世での実戦訓練へと繰り出した。
「ここは…」
都の外へ出ると、そこは見覚えのある風景が広がっていた。
「確か…御谷ヶ丘だったかしら。ここの地域は」
「はい!見覚えがあります」
都の外は御谷ヶ丘という地区のとある場所に繋がっていた。
「でもここは空世の世界。作りだけ見たら御谷ヶ丘の街並みだけれど、この世界にいるのは私たち二人だけよ」
「確かに…そうですね」
安奈の説明している内容に沿うかのように、二人が走る橋の下のバイパス道路は一台たりとも車が走っていなかった。
「それじゃあ、今から坂を降りて街の方へ下るわ!敵がいるかもしれないから気を引き締めて!」
「はい!」
そう言いながら坂を下る安奈の後ろをついて行きながら、宏樹も一緒に坂を下る。
「これは…!」
坂を下った先には、宏樹が通っている御谷山高校があった。
「この付近にも、敵が居ることがあるから、気をつ…!」
安奈がそう言いかけた次の瞬間。
「うわ!!!なにかが校庭から…!」
早速、学校の校庭から何かが勢いよく飛び出してきたのを宏樹が見つけた。
「敵よ!!」
宏樹は安奈のその声で初めて、その飛び出してきた”何か“がソミューナの「AMX ELC bis」の怨魂だと気がついた。
「速豹『レオパルト』」
安奈がそう叫ぶと、彼女の両隣に「Leopard」二両が炎と共に出現し「AMX ELC bis」に対して一直線に向かって行った。
ダダダンッダダダンッダダダンッダダダン!!!
「Leopard」に搭載された強力な5cm機関砲が容赦なく「AMX ELC bis」へと撃ち込まれていった。
ものの数秒で“それ”は射撃による火災で真っ黒に炭化し、見るも無惨な姿になった。
「…やった…んですか?」
「ええ、これはまだ序の口よ。さあ前へ進みましょう」
…まじか……なにもできなかったぞ……!
早速一体目の敵を葬り去った安奈は、顔色ひとつ変えることなく再び前進し、訓練中の宏樹もびくびくしながら彼女について行った。
それから宏樹は、至る所に潜んでいる怨魂とたくさんの戦闘をこなした。
時にはアバディーヌの「Hellcat」と対峙したり…。
「『Hellcat』は主砲が強力よ!絶対に背面を取られないで!」
「はい!」
またある時には、クビンクの「BT-5」五両に囲まれたり…。
「『BT-5』は攻撃性能は高くない!一両ずつ確実に落としていけば脱出できるわ!」
「はい!!」
またまたある時には、ムンストの「Pz IV」に対して「BT-7」をけしかけ、注意がそれたタイミングで背後を取り撃破したりした。
「主砲が反対を向いたわ!今よ!」
「はい!!!」
ッッッ!!ドッグッゴゴゴーーーンンン!!!!!
宏樹の乗る英傑「KV-2」から放たれた砲弾が「Pz IV」の背面に直撃し、「Pz IV」は原型を留めないほど粉々に砕け散った。
「いい攻撃ね!その調子よ!」
…よし!戦えてる戦えてる…!!
そんな戦闘を数時間にわたってこなした宏樹。
戦車戦においては血を吐くような鍛錬を積んで肉体改造をする必要性はない。
その代わりに、刻一刻と変わる戦況を見る観察力と、それを瞬時に飲み込む高い理解力。
そして移動の遅さをカバーするために、常に相手の一歩二歩先をいくだけの素早い判断力が求められるため訓練は熾烈を極めた。
初めは気がつくと敵に囲まれることが多かった宏樹だったが、装輪「ベーテータンク」による揺動戦術を使いこなし、接敵回数が3桁を超える頃には孤立しないように戦えるようになっていた。
そうして、宏樹は初日の実戦訓練を無事に生き抜いた。
「お疲れ様!まずまずの動きができていたわ」
「ありがとうございます!」
…よしよし…!この調子で明日も…!!
安奈の援護あっての成果ではあるが、立派に戦車戦をこなした宏樹。
そんな彼は、来る日も来る日もこの訓練に参加し、さらにさらに
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